政治・経済

野菜の露地栽培の技術を学ぶ

野菜の露地栽培の技術を学ぶ就農希望者たち(町田市の研修農場で)

東京都町田市の農地バンク事業が障害者に雇用等大きな効果

 東京都の南端、人口約43万人の町田市が打ち出した農業バンク事業が大きな効果を上げている。この事業は農家の高齢化で増えつつある遊休地を農地バンクに登録し、農地を求める希望者に市が斡旋して貸し出す仕組み。2011年5月から始めたが、これを活用して農業に参入する動きが個人だけでなく、法人やNPOにまで広がってきた。

 町田市の農地バンクを利用して13年4月、上小山田町の農地0・52ヘクタールを借り受けて農業に進出したのがキユーピーあい(本社・町田市)だ。同社は障害者の雇用確保を目的としたキユーピーの特例子会社で、いろいろな能力を持つ障害者の力を生かして新しい仕事を次々と作り出してきた。これまでに創出した仕事はホームページの製作や各種印刷、製本、清掃、食堂など20種以上に及ぶ。売上高も年々増え、13年決算では社員80人(障害者は44人)で年7・5億円を確保している。

 同社が今回、農業に進出するのも、障害者の雇用の場を広げるのが目的だ。「農業は障害者にマッチしやすい分野。身心への効果も期待できる」と、庄司浩社長は強調する。

 借り受けた農地は荒れ果てた耕作放棄地だったが、農機具を動員して1年かけて開墾、野菜を栽培できる立派な耕作地に甦らせた。農作業は5人のスタッフ(障害者2人)が担当し、14年春から葉物野菜の露地栽培を始めた。

 興味深いのは、農作業の工程を細分化して障害者の「得意」に合わせた働き方を導入していること。「判断業務が苦手な人は定植や播種に従事し、こだわりの強い人は精度の高い仕事をする」(横井真グループリーダー)といった具合だ。

 収穫した野菜は直販方式で販売するが、将来はグループ企業の食堂にも販路を広げ、農業を雇用の場として定着させたいと意気込んでいる。

 キユーピーあいと同様、農地バンクを通じて農地を新規に確保したのがNPO法人「たがやす」(本部・町田市)だ。借り受けたのは同市小野路町の遊休地約0・4ヘクタールで、ここにサツマイモや果樹を育てるなど農業体験のできる学童体験農園「小野路農園クラブ」を14年春に開設した。

NPO法人「たがやす」が11ヘクタールもの農地を斡旋研修制度で就農者育成

 農園クラブの対象は未就学児、小学生、中学生とその保護者。家族会員や中学生会員、団体会員を募り、会員を対象に野菜の栽培─収穫体験、果実の収穫体験、食育講座、自然観察などを実施する。数組の家族会員を対象に14年3月、開講式を行うなど、第1歩を踏み出した。「ゆくゆくは定員60人の会員枠を充たし、年8回の体験講座を実施できるようにしたい」と、事務局長の斉藤恵美子さんは抱負を語る。

 固定会員の募集だけでなく、市内の子ども会やスポーツクラブにも働き掛け、農業体験を楽しむ層を広げていく。第1弾として、市内のサッカークラブ「ゼルビアスポーツクラブ」と提携、農業イベントを開くことで合意している。

 たがやすは生活クラブ生協の組合員活動を基盤とした組織。02年の発足以来、援農活動や地場野菜の普及活動、農作業の受託活動など都市農業を守るさまざまな活動を行ってきたが、小野路農園クラブの開設でNPOの活動の幅がさらに広がりそうだ。

 町田市が農地バンクを事業化したのは、市内に残る里山風景を守ると同時に、農業の新たな担い手を導入して都市農業を維持発展させるのが狙いだ。耕作放棄地の動向を見て回る市農業委員会の側面援助が功を奏し、大きな政策効果をもたらした。

 市農業振興課の鈴木登課長によると、これまでの累計で農地バンクへの登録が271筆、15・3ヘクタール、農地希望の登録が5法人を含む62人に上る。このうち、市の斡旋で貸借契約が成立したのが200筆、11・4ヘクタールに達する。

 具体的には農地バンクを通じて、20人の農業者が規模を拡大し、14人の新規就農者が誕生した。新規就農者には個人だけでなく法人、団体も含まれており、「多様な担い手が育ってきたのが最大の成果」と鈴木課長は胸を張る。

 農地バンクが効果を上げるもう1つの要因が09年度から実施した農業研修事業だ。これは市民在住の希望者を対象に2年間、農業の基礎を研修する事業で、卒業生を新規就農につなげるのが狙いだ。

 地元の農業者が講師となり、市の研修農場で月4回、4月から12月まで座学と実習を重ねる。これまでに35人が卒業し、6人と1法人(キユーピーあい)が農地バンクを利用して就農している。

 政府は14年度から、新たな農業バンク事業(農地中間管理機構)を全国規模で実施する。それに先駆けた町田市の事業は国の事業にも多くの教訓をもたらすに違いない。

 

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