文化・ライフ

石垣優香

世界卓球団体選手権で活躍した石垣優香選手(写真/時事)

日本卓球女子のピンチを救った石垣優香

 

 世界ランキング1位の中国に完敗したとはいえ、31年ぶりの銀メダル。世界卓球団体選手権東京大会で女子日本代表が躍動した。

 今大会は長年、日本の卓球界を牽引してきた福原愛をケガで欠いていた。日本は世界ランキングこそ3位だが、福原不在とあっては「実質6、7位」(村上恭和監督)のチーム。石川佳純を飛車とするなら、角落ちか。

 福原の代役として準優勝に貢献したのが24歳の石垣優香である。チームではたったひとりのカットマンだ。

 世界の卓球シーンでは、ドライブ攻撃型が多数を占め、カットマンと呼ばれるカット主戦型は数少ない。前者が、球に順回転をかけて攻めるスタイルであるのに対し、カット主戦型は相手の打球にラケットを切るように当てて、逆回転で返す。ラリー戦に持ち込み、相手のミスを誘う戦法で、守備的と分類される。

 村上監督が石垣を起用したのは「台湾がカットマンに弱い」と見てとったからだ。台湾はグループリーグの最大のライバルとなる相手。彼女に〝台湾キラー〟としての役割を求めたのである。

 果たして石垣は指揮官の期待に見事、応えた。グループリーグでは台湾戦を含め、1番手を任された3試合すべてでストレート勝ちを収めた。

 3位決定戦を設けていなかったため、メダルをかけた戦いとなった準々決勝のオランダ戦では3番手でカットマン同士の対決となった。石垣の対戦相手リー・ジエは中国からの帰化選手。3月のドイツオープンでは1–4で敗れている。

 相手のエース格である彼女を1、2番手と予想していた村上監督は完全に裏をかかれたかたちとなった。エースの石川で第2試合を落とし、1対1で迎えた第3試合。3戦先勝の大会方式ゆえ、村上監督は最悪のシナリオが頭をかすめたという。

 しかし、結果は吉と出た。石垣はリー・ジエを3–1で撃破した。息を吹き返した日本は、オランダを3対2で下し、準決勝進出。2大会ぶりのメダルを確定させた。

 村上監督は語ったものだ。

 「オーダーでは完全に負けました。しかし、石垣が本当に頑張ってくれた」

 男女の卓球が五輪の正式競技に採用されたのは1988年のソウル五輪からだ。これまで日本のシングルスの成績はロンドン五輪での石川佳純の4位入賞が最高。過去7大会で表彰台に上った者はひとりもいない。

 一方で08年の北京五輪からダブルスにかわって始まった団体戦では健闘を見せている。北京五輪は4位入賞、12年のロンドン五輪では日本卓球史上初の五輪でのメダル(銀)を獲得した。

 今回の銀メダルは2年後のリオデジャネイロ五輪に向け、大きな弾みとなるはずだ。

 

日本卓球女子が中国打倒を果たすためには

 

 大会を終え、エースの重責を担った石川は、「チームワークで厳しい戦いを乗り越えられた」と語っていた。

 しかし、頂点に君臨する中国との差は歴然としている。大会前の個人の世界ランキングを見ても上位6人を中国勢が独占。今大会は世界ランキング1〜5位をそのまま送り込んできた。

 その結果、グループリーグから決勝までの7試合すべてを3対0で勝利。メンバーの誰ひとり星を落とさないという離れ技で連覇を達成した。

 日本が打倒・中国を果たすには、全体の底上げが欠かせない。ドイツオープン、スペインオープンとワールドツアーをダブルスで2大会連続優勝した平野美宇、伊藤美誠の中学生コンビやチリオープンでシングルスを制した高校生の前田美優といった10代の若手はもちろんのこと、石垣のようなスペシャリストタイプの育成も強化のカギとなってくるだろう。

 キーパーソンのひとりである石垣は将来への抱負をこう語る。

 「攻撃と守備のバランスを磨いて、中国選手に勝てるように努力していきたい」

 村上監督は、今大会の中国と個人の実力差を「石川が3対7ぐらいで、他は1対9」とみる。まだまだ遠い背中ではあるが、まずは日本が得意とする団体戦で勝負できるところまでたどり着きたい。指揮官は2年後のリオ、6年後の東京をこう見据える。

 「2年後は(全体で)3対7、4対6までに追い付いておきたい。そのぐらいまで迫っておけば勝つチャンスはある。実際、10年のモスクワでの世界団体でシンガポールが(決勝で)中国に勝った時はそんな状況。実力が上だったわけではない。そして20年東京五輪までに五分五分の力を身に付けて、金メダルを狙いたいと思っています」

 来年、中国・蘇州で行なわれる世界選手権は個人戦。今回は団結力で好結果を残したが、次回は個の力の伸長を見せつけたい。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る