政治・経済

 今、日本の農林水産物や食品の海外輸出が盛んになってきている。

 高齢化の進展や人口減少に伴う国内マーケットの縮小で、海外に活路を見いだそうとしていることも要因の1つだが、海外の需要が旺盛になったことがいちばんの理由だ。実際のところ、外国人観光客が日本に来る際に最も楽しみにしているのが、「食事」なのだそうだ。

 2013年12月には、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあり、今後ますます日本の料理、日本の食文化への関心は高まっていくはず。

 アジア諸国の経済成長を背景に、おいしさ、ヘルシーさなどを理由に拡大していく日本の農林水産物・食品の輸出に関して、日本農業の最高責任者と言える林芳正農林水産大臣に話を聞いた。

 

林芳正

林 芳正(はやし・よしまさ)
1961年生まれ。東京大学法学部卒業後、三井物産に入社。95年参議院選挙に初当選(現在4期目)。防衛大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を歴任し現職。

農林水産物、食品輸出の戦略は、「FBI」

 

-- 農林水産物、食品の輸出を国は積極的に後押ししていますが。

 第1次安倍政権の時に農林水産物や食品の輸出額を当時の輸出額の倍の1兆円にしようと目標を立てていたのですが、政権の交代やリーマンショック、東日本大震災、特に原発事故の影響などがありまして、なかなか輸出額の5千億円という数字が超えられない状態でした。

 昨年の1月に「攻めの農林水産業」のひとつの柱として輸出拡大という方針が決まったものですから、その中で倍増という目標を具体的なものに落とし込んでいきました。

 まずは、重点国・地域を絞って、品目別の数字を具体的につくっていくといった作業です。その足し上げたものが1兆円だということですね。ちなみに、輸出額は12年の4500億円から、昨年(13年)は過去最高の5500億円まで伸びました。今後も順調に伸びていくと期待しております。

-- アジアの経済成長で日本の食品が求められていると聞きますが、輸出先で重点的に考えている国や地域はどこですか。

 表(16ページ参照)を見ていただくと分かるのですが、それぞれの品目で重点国・地域が違っています。例えば、水産物はEU、ロシア。コメは台湾とそれぞれの品目に特性がありますので、その国や地域に合わせて輸出していこうと考えています。

 食の世界市場をトータルで見れば、09年に340兆円の市場規模であったものが、20年には680兆円と、倍になると見込まれます。その中でも、アジアの市場は3倍に膨らむといわれています。アジアは距離的にも日本から近いということと、市場も拡大するということですから、今後も重視していきたい地域です。

-- 現在「FBI戦略」という取り組みを行っているとか。

 輸出と言えば、通常日本産の農林水産物・食品を輸出する「メイド・イン・ジャパン」を連想されると思います。

 日本の場合はそれだけでなく、日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されましたし、ジェトロ(日本貿易振興機構)の「好きな外国料理」の調査でも世界の多くの国々で中華、フレンチ、イタリアンを抑えて日本食がナンバーワンの人気だという結果が出ています。ですから、日本食の食文化を戦略的に海外に発信し、売り込んでいこうと思っています。これを「メイド・バイ・ジャパン」と呼んでいます。

 もう1つが、例えば、フランス料理に日本の柚子が使われているとか、中華料理になまこやフカヒレが使われるなど、日本の食材に対して世界の料理人が非常に注目しているんですね。これが「メイド・フロム・ジャパン」と呼ばれるものです。

 このフロム(From)ジャパン、バイ(By)ジャパン、イン(In)ジャパンの3つの頭文字をとって「FBI戦略」と名付けて活動しているわけです。

 日本食が普及することによって日本の農林水産物・食品が海外へ出ていくようになり、日本の食材がいろんな国に広まっていく。料理はそれぞれ違いますが、これをトータルで取り組もうとしています。

-- では、日本に外国人観光客を呼ぶインバウンド観光政策ともつながりますね。

 輸出には直接影響はしませんが、外国人観光客の方が、自分の国に戻られてからあの料理をもう一度食べたいと思うこともあるでしょうし、何よりインバウンドが増えることで国内の市場が活性化されるでしょうね。このFBI戦略は観光と連携しながら進めていきたいと思っております。

-- 輸出をする上で、商習慣の違いや信頼できる相手国のパートナーの有無が成否を分けるという声がありますが。

 そうですね。ですからわれわれは「窓を開ける」と言っておるのですが、農林水産物特有の検疫や中東向けではハラール処理、欧州ですと、ハサップ(HACCP/危害分析重要管理点手法)など行政がまず先鞭をつけなければならない分野がありますから、まずそこから手を付けています。

 それからビジネスの後押しということで、見本市を行うとか、ビジネスパートナーのマッチングなど、いわゆる商流の後押しを行っています。

 私も、昨年インドネシアやベトナムのスーパーマーケットを訪ねた時に、あちらの方から言われたのは「継続的にまとまったロットで供給してもらいたい」ということでした。カゴ1杯だけ持っていって「日本のですよ」といって、売れたとしても商売にはなりません。ですから、品目ごとの司令塔をつくりまして堅実な供給体制づくりにも取り組んでいます。

 窓が開いたところで、しっかりと供給を保証することが、持続的なビジネスには大事なことですからね。

2020年までに輸出額を1兆円規模へ

輸出国の経済発展が、日本食の人気につながる

 

-- 世界を回って日本の食品や和食に対する海外の方の反応はいかがでしょうか。

 国が豊かになってくると、単に生存のためにカロリーを摂るという食生活から、経済の発展に合わせて食事を楽しむような風潮に変わっていると感じています。

 和食の特徴も素材を大事にすることはもちろん、油脂や塩で味付けるのではなく、ダシや旨味というもので素材を引き立たせていますから非常に健康的ですよね。海外の方も日本の長寿社会を知っているので、和食がおいしくて、健康的であるというイメージが確立しています。経済が発展した国が増えてきて、食の市場が大きくなっていくことは、日本食にとっては大きな潜在力になっていると感じています。

 海外の町を歩いてみても、ラーメンの人気が高いことは、日本でもよく知られていますし、「ベントー(弁当)」という言葉もフランスで定着しているようですね。面白いなと思ったのは、日本のアニメの影響でカレーライスの認知度も高いこと。天ぷら、お寿司、焼き鳥といった御三家に勝るとも劣らない日本食も増えてきましたから、その流れを背景にFBI戦略を進めていければと考えています。

-- 大臣自身は、どのようなPR活動をされていますか。

 総理が外遊される時や、私が海外へ出掛けた時などはレセプションを行います。先日、ドイツで行われた時にも、私もお酒を注いだり、しゃぶしゃぶのたれを配ったりと、PRの機会だと思い積極的に動いていました。和食の無形文化遺産登録が13年に、15年にはミラノで国際博覧会が行われます。そして、20年に東京オリンピック・パラリンピックということで、ホップ、ステップ、ジャンプと位置付けて発信を強化していきたいと思っています。

-- 地元、下関のフグはいかがですか。

 それは、もちろん地元のフグも重要な輸出の可能性があるものだと思っていますよ。既にニューヨークでは食べられるんですよ。きちっと有毒のところを処理することが大前提ですから、先ほど申しましたハラール処理やハサップに加えて考えなければなりませんね。世界の日本食の中には「なんちゃって日本食」というような、本物とは違ったものも多いのですが、多くの方に、日本の食に関心を持っていただくことが大事なんです。

 でも、最後はやっぱり本物のおいしい日本食を味わいに、その地元へインバウンドで来てもらうことが目標ですね。フグなら下関に来ていただくようにする、お寿司なら築地で食べていただく。われわれがパリに行ってフランス料理を食べるように、シャンパーニュ地方でシャンパンを飲むようにですね。そういった裾野の広い山を形成していきたいと思っています。

(聞き手=本誌・古賀寛明 写真=佐々木 伸)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長プロフィ…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩) 福田隆・トライシクルCEOプロフィール   産廃処理で「B to B版メルカ…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る