マネジメント

 クオンタムリープファウンダー&CEOの出井伸之氏と、2014年1月に同社の執行役社長に抜擢された杉山大輔氏による対談の後編をお届けする。

 前回は、2人の出会いのキッカケに始まり、杉山氏の同社におけるミッション、強い組織づくりに必要なことなどに話が及んだ。今回は日本企業や社会を変えていくために、何が求められているかを中心に話を進めてもらった。

杉山大輔

杉山大輔(すぎやま・だいすけ)
1979年東京都生まれ、NY育ち。2002年慶応義塾大学総合政策学部卒業。04年慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。19歳の時に教育コンサルティング会社を設立。07年インターリテラシーを設立し、各界リーダーのインタビューによる情報サイト「私の哲学」を開設。14年クオンタムリープ執行役社長就任。

出井伸之氏は語る 「守破離」ができなくなった日本企業

-- 日本企業は、もっと個人の強さを重視すべきとの話でしたが、そのほかに必要なことは。

出井 日本企業は基本的に会社を維持発展させる人間と、他のことを行う人間で、チームを明確に分けているところが少ない。組織の維持発展を担う人材と、新たなことに取り組む人材が同じチームに所属している。でも、それはお互いに自己否定しないといけなくなるから無理なんです。そこが、日本企業の弱さではないかな。いつも改善、改良の話ばかり出てきて、全く新しいことの話が出てこない。杉山さんが好きな「守破離(しゅはり)」という言葉があるじゃない。

杉山 伝統を「守」って「破」って「離」れる。

出井 その守破離が日本ではできない。みんな「守」だけになってしまう。

出井伸之

出井伸之(いでい・のぶゆき)
1937年東京都生まれ。60年早稲田大学卒業後、ソニー入社。主に欧州での海外事業に従事。オーディオ事業部長、コンピュータ事業部長、ホームビデオ事業部長など歴任した後、95年社長就任。以後、10年にわたりソニー経営のトップとして、ソニー変革を主導。退任後、クオンタムリープ設立。NPO法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ理事長。

杉山 私は以前書いた「ジャパンブランドの可能性」という論文で、日本企業の価値は連結の価値と結論付けました。つまり、師匠から学んだものを、弟子へと伝えていくことで価値を生み出してきた。今はなぜそれができないかと言えば、上の立場の人間が恐れてしまって、下の人間に「破」をさせないから。上を敬うことはすごく大事だとは思いますが、下と対等になれない。

出井 会話の方向にしても、上から下へモノを言う段階まではいいんだけれど、そこから議論に発展させるには、上も下も同じ目線で話をしないといけない。ところが日本人は上下関係が強く、従来の構造を維持する意識が強過ぎるから、改善、改良にとどまってしまう。

杉山 過去のトレースはうまいけれど、新しい価値の創造ができていないということですね。

出井 過去のトレースも新たな価値の創造も両方大事なんだけれど、創造の部分が小さ過ぎると思う。

杉山 新しいことをやるにはエネルギーが必要です。前例がないからしんどいけれど、今はさまざまなことに前例がない時代です。だから、自分が直感的に「いいな」と思うことを突破口にしないといけない。

出井 最近では、MBAでスピーチする時には「Good bye, case study」という話をします。課題となる事例が古過ぎるから、ケーススタディーをやっても参考にならない。

杉山 あと、日本人は課題設定が苦手ですね。何が問題なのかを、自分で決められない。要するに責任を取らないんですよ。

出井 テレビでニュースを見ていると、日本では何か事件が起きると、どうして政府は規制しなかったのかという話が多い。例えば、アメリカではコロラドリバーをラバに乗って降りるツアーがあるんだけど、日本だったら危険を理由にそういうことはしないと思う。

杉山 「It’s up to you」がないんですよね。どうなっても、アナタ次第だっていう考え方が乏しい。

出井 日本は本当の意味で自己責任の国とは言えなくて、何かあると政府が悪いからって必ず言う。テレビなんてそればっかり言っている。

杉山 自分を知り、自分ができることを最大限にやるという精神が足りないのではないかと思います。私は最初の会社を立ち上げて15年たちますが、自分でこういう経営者になりたいというビジョンをずっと持っていて、そこに到達していなければ、出井さんと同じ立場で今話せなかったなという思いはあります。

杉山大輔杉山大輔氏は語る オリンピックに頼るようではいけない

-- 日本企業の問題点を指摘していただきましたが、日本社会の問題点はどのあたりにあると思いますか。

出井 最も大きな問題は、やはり新しい企業が出てきていないということだと思います。1990年代以降に設立された会社が、大企業に育ったケースがほとんどない。これから世界で勝っていこうと思ったら、今存在する企業から何かが生まれるか、全く新しい企業が出てくるしかありません。

杉山 私は2020年の東京オリンピックまではいいと思うのですが、それ以降は人口が大きく減っていくので、日本はかなり危ないと正直思っています。オリンピックが終わったら燃え尽き症候群になる可能性が高い。30年に向けてどうするのかを考えないといけません。クオンタムリープもそうですが、若い企業と大企業を融合させるチェンジメーカーを育てることが必要です。

出井 そもそも日本のような国が、オリンピックのような一瞬で過ぎていくイベントに期待するようでは駄目。新興国がオリンピックをやりたいというのと、成熟国がオリンピックをやるののでは、意味合いが全然違う。東京ではなく、例えば東北や九州などの新しい価値をどうつくるかを考えるほうがよほど重要。「古きを訪ねて」ではなく、「未来を訪ねて新しきを知る」。老人が昔は良かったって言っているのを聞いても仕方ない。

杉山 出井さんは過去の話をしないですよね。未来を予想するほうが得意分野だと思います。

出井伸之出井 早稲田大学が創立150年を迎える32年を見据えた「Vision150」を策定したのに合わせて、「早稲田を変える」というテーマでスチューデントコンペティションをやったことがあるけれど、その時私は、次回のテーマは「私を変える」にしたほうがいいと提案した。学校を変える話ばかりしても、自分が変わらなければどうしようもないから。

杉山 自分が変わらないと日本も変わらないですからね。早稲田だからというわけではないですが、福沢諭吉の「独立自尊」の精神が今求められているのかなと。ところで、出井さんは早稲田出身で私は慶応出身だから、一緒に何かができるという点では面白い。早慶も日本のアイビーリーグみたいな形で、ビジネスアクションコンテストのようなことをやったほうがいいと思うんですよね。

出井 ちなみに、早稲田の理工学部は女子が37%もいて、将来的には50%にしようというプランがあるらしい。慶応はどれぐらいの比率なんだろう。

杉山 少ないと思います。ビジネススクールにしても、日本は女性の比率が極端に低いですからね。でも、女性のほうが男性より優秀なのは間違いないです。というところで、今回の議論の締めにしましょう(笑)。

(司会=本誌編集長・吉田浩 写真=西畑孝則)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る