マネジメント

今年4月30日に80歳でこの世を去った作家の渡辺淳一氏。この対談は、1992年、当時髙島屋の社長であった日髙啓氏と行われた。話は大衆や才能、伝統まで多岐に渡ったが、その中から、創作と女性についてお送りする。(1992年9月29日号)

渡辺淳一

渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち)
(1933〜2014)北海道生まれ。作家、医学博士。小説だけでなく、エッセイなど多くの優れた作品を残した。

渡辺淳一氏の考え ハッピーエンドは、最良の結末!?

日髙 先生の作品をいくつか読ませてもらっていますが、先生の話は最後がハッピーにならないんですね。あれはどういうことでそうなっているんですか。

渡辺 よく言われるんですよ。特に男女ものの場合、若い人に、ハッピーエンドの小説が少ない。主人公の2人が結ばれないと。

 ただ、僕の感じでは、男女の小説は、割合ある感覚をテーマに書いているんです。ストーリーではなくて。ですから、朝のテレビ小説みたいなのは、苦難の道を歩いて幸せになりましたとか、いじめに耐えて頑張ったという話でいいんですが、文学というのはそういう書き方では、明快過ぎてちょっと気恥ずかしいという感じがあるんです。

 そうではなくて、心象風景を中心に描く。

 2人が幸せになったかならなかったではなくて、2人のだらだらした関係のうっとうしさとか、様式美とか、倦怠とかやり切れなさとか、ある種のアンニュイな感覚だとか、2人の燃え盛る情熱だけを描きたいとか、抽象的なものがテーマになってくるので。

 それに、2人が結ばれたらハッピーエンドだということには、正直いって疑問を持っているものですから。一緒になったらハッピーというのはあまりにも常識的で、楽観的で、むしろ大変で、アンハッピーだとか、そこから地獄だとかね。

 だから結ばれたらハッピーだというのはどうも嘘くさい。結ばれてひどい目にあったケースだっていっぱいありますから(笑)

日髙啓

日髙 啓(ひだか・ひろし)
(1924〜)宮崎県出身。48年に髙島屋入社、飯田一族以外で初めて社長に就任するなど名経営者として知られる。

渡辺淳一氏は、いつも〝恋する〟気持ちで

-- 渡辺先生はどのような読者設定をされるんですか。

渡辺 朝日(新聞)ですと、ファミリーというか、よき家庭人という印象がまず先にあるので、あまり突飛なものは書きにくい。その点、日経(日本経済新聞)の読者は大人です。

日髙 朝日のほうが難しいですか。

渡辺 いや、朝日は書いてみると反響が多いですね。日経も小説の載っている場所がいいせいかよく読んでますけれど、一般的な広がりは朝日ですね。ただ、大人のものでもいいというか、そういう要素を加味すると日経のほうが書きやすいかもしれませんね。

日髙 私たちもそういう意味で、年齢に関係なく女性客が7割ですね。そうすると、女性の深層心理が分からなくては商売になりません。

 ある雑誌の取材を受けた時に、いつも恋するような気持ちでなければ、百貨店の商売はできないというようなことを言ったんです。そうしたら家内に怒られましてね。「あなた、常に恋することってどういうことですか」とね(笑)。

渡辺 それは具体的過ぎたんですよ。〝ときめき〟くらいにしておいたほうがよかったのでは。

渡辺淳一と日髙 啓

左から渡辺淳一、日髙 啓

-- お2人は女性の心をつかむプロですが、そのコツは。

日髙 非常に難しいんですが、やはり紋切り型にしてはダメだということですね。私は自分のモットーとして「人を愛し、人を信じ、人に尽くす」という3つを持っているんですが、これは男性でも女性でも、大人でも子どもでも一緒だと思うんです。

 人を愛するということが一番大事で、そこから相手の心、相手の立場を十分に理解する。相手がしてほしいことをする。こういうことが大切でしょう。

渡辺 女性の心や人の心をつかむことは努力したってできるものではないんですが、僕は女性が好きなんですよ。だからとても関心がある。いろんなことを聞いたり感じたりするのが好きなんです。

 女という怪しくて分からなくて困る存在が好きなんですよ。好奇心があるんです。

 僕は叱ったりヒステリーを起こす女性の言い分を結構本気で聞いているんですよ。そのメチャクチャな論理に感動しているわけです。時々メモを取ったりしているとますます怒られるんですがね(笑)。

 

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