政治・経済

アジア市場で人気の高い日本の食品や農水産物。その生産地ではどのような取り組みを行っているのだろうか。観光と農業が産業の中心である北海道の美瑛町を訪ねた。

北海道・美瑛町 農産物の海外輸出 ”ユリ根”の輸出は独自路線、きっかけは「縁」

 北海道のほぼ中央に位置する上川郡美瑛町は農業と観光が産業の中心である。人口わずか1万人の美瑛町でも農産物の海外輸出を行っているという。主な輸出品はユリ根。日本では茶わん蒸しに入っていることでおなじみかと思うが、焼くとモッチリ、ホクホクとした食感のジャガイモに似た、晩秋から冬にかけての贅沢な味だ。

 輸出先は台湾で、輸出が始まったのは、今から7年前の2007年ごろ。昨年度は1ケース5㌔㌘のものが4千ケース出荷された。町全体で1万8千ケース出荷する中の2割強に当たる。台湾でも高級食材だそうで揚げ物、炒め物に利用され主に現地の富裕層に買われるのだそうだ。

 ところで、なぜ、美瑛町のユリ根が台湾へ出荷されるようになったのであろうか。その経緯を「JAびえい」の代表理事専務の熊谷留夫氏に聞くと、「私の友人がたまたま台湾の大手企業のオーナーと親しかったのが縁で、独自に輸出を行うようになりました。彼がスーパーマーケットを70〜80店舗ほど持っていたので、まずは安定的に量が供給できるものをリクエストされました。中でも気に入られたのがユリ根。美瑛のユリ根は大玉で、大きいものが喜ばれる台湾に合っていたようです」

 ただ、ユリ根を生産するのは大変だ。生産農家の柏倉秀伸氏に話を聞くと、「ユリ根は実は手間がかかる作物です。元種まで入れると出荷するまでに5〜6年かかるんです。さらに、最も大変なことは一度収穫した畑は10年以上休まさなければなりません」

 手間がかかることや畑を休ませなければならないこともあり、生産量はあまり伸びないのだそうだ。広大な畑を必要とするため、日本の生産量の95%が北海道産というのも分かる。

 柏倉氏は台湾へ視察に行ったそうで、「ユリ根がこんなにおいしいものだとは思っていなかった」という現地での評価に自信を深めたという。

 

北海道・美瑛町 もう一つの産業の柱”観光”

20140610_tokushu5_03_320

丘陵地帯にある畑は観光資源でもある

 美瑛町のもう1つの産業の柱、観光でも海外からの観光客が多い。そのお陰もあって海外での美瑛町の知名度は高いため、農産物も「北海道産」ではなく「びえい」ブランドで勝負していくそうだ。

 実際に農産物や食品の輸出はユリ根をきっかけに拡大している。昨年台湾からはメロンや豆類をはじめレトルトコーン、フリーズドライ食品などが求められ、今年は既に昨年の4倍のオファーが来ている。もちろん、品物を送るだけでは売れない。

 「いくらおいしい、おいしいと言っても、分かってもらえません。必ず試食をしてもらって、実際の味を知ってもらうようにし、さらにおいしい食べ方も説明するようにしています」(熊谷氏)と販売方法に工夫を凝らす。

 台湾の取引先からの縁で、シンガポールにもコメの輸出を始めている。100㌧の契約で、現在も月に10㌧ずつ出荷している。最近は、コメに関する問い合わせが多いようで、他にも、中東のドバイやインドからも引き合いがあるという。

 航空便も、今まで新千歳国際空港から出荷されていたものが、旭川空港にも検疫施設ができることで、輸出環境は大幅に良くなるようだ。JAびえいではインフラの整備なども踏まえて、現在12億円の輸出額を、3〜4年の間には20億円にまで伸ばしていく見込みだ。

 ただ、美瑛町のような人口1万人ほどの地方自治体での輸出の取り組みがなかなか進んでいない。熊谷氏はその難しさを、「美瑛の場合は、海外に信頼できるパートナーがいたことが大きい」と語る。

 さらに、物流コストの高さはもちろんのこと、検疫や通関手続きの煩雑さなどもあり、輸出を考えている自治体にとっては、まだリスクが高いようだ。

 最後に熊谷氏は、「日本の未来や食糧自給率を考えれば、私たちは、まず日本の人たちに安心で安全な食物をしっかり届けることを考えなければならないと思っています。海外に高く売れる商品ばかりをつくって日本の人たちのことを考えず、経済の論理だけで食糧を扱うのは国防のことも含めて危険なことだと思いますよ」と語った。

 輸出を拡大し農業生産を高めることは重要な課題だが、何を、どれくらい輸出するのかなど、日本の将来にかかわる問題だけに、深く考えることが求められている。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年8月号
[特集]
パナソニック新世紀

  • ・総論 家電事業でもB2Bでも根底に流れる「お役立ち」
  • ・樋口泰行(コネクティッドソリューションズ社社長)
  • ・B2Bに舵を切るパナソニック
  • ・パナソニックのDNA 家電事業の次の100年
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・パナソニックの家電を支えた“街の電気屋”の昨日・今日・明日
  • ・テスラ向け電池は量産へ 成長のカギ握る自動車事業
  • ・パナソニックとオリンピック・パラリンピック

[Special Interview]

 津賀一宏(パナソニック社長)

 変化し進化し続けることでパナソニックの未来を創る

[NEWS REPORT]

◆商品開発に続き環境対策で競い合うコンビニチェーン

◆サムスンを追撃できるか? ようやく船出する東芝メモリの前途

◆スバル・吉永泰之社長はなぜ「裸の王様」になったのか

◆「ニーハオトイレ」は遠い昔 中国を席巻するトイレ革命

[政知巡礼]

 木原誠二(衆議院議員)

 「政治が気合を持って、今のやり方を変えていく覚悟を」

ページ上部へ戻る