政治・経済

日本の航空業界に新風を吹き込み、今では国内シェアの7.5%まで占めるようになったLCC(格安航空会社)だが、ここに来て、さらなる路線拡大を目指したものの、国内を飛ぶ日系3社とも大幅な欠航を発表、今後の展開に暗雲が立ち込めている。

井上慎一

井上慎一・ピーチ・アビエーションCEO(Photo:時事)

LCC欠航続出の根本にある急激な業務拡張

 日本のLCC元年と言われた2012年から早2年、苦労を重ね、LCCもようやく認知された感があったが、今、また危機に直面している。

 国内線を飛ぶLCCの中で、唯一の勝ち組と言われていた関西国際空港ベースのピーチ・アビエーションだが、4月28日に沖縄県の石垣発那覇行きの252便が、那覇空港沖で海面75㍍まで降下するという、事故につながりかねない「重大インシデント」を起こした。

 この件で、LCCの安全性に対してあらためて不安を募らせた人が増えたことは間違いない。

 もともと、徹底的にコストを抑え、安い搭乗料金を実現するビジネスモデルに対して、サービスだけでなく安全面にも不安を覚える人は多かった。実際には、国土交通省が定める安全基準など日本の厳しいルールが存在しているため、会社側にも安全コストを削る思想はないし、フルサービスキャリアと比べて安全性の面に関しては大きく劣ることはない。

 だが、ピーチでは、さらなる不安を掻き立て、信用を失墜させかねない問題が起こった。5月から10月にかけて国内、国際線合わせて2千便に及ぶ大量欠航となる見込みなのだ。既に6月までに448便の欠航が確定し、その後も1600便超の欠航を予定している。

 加えて、同じANAホールディングス傘下のバニラ・エアも5月16日、6月の成田︱那覇線や新千歳線などの一部国内線を154便欠航させると発表した。

 原因は両社ともにパイロットの確保ができないこと。ピーチ・アビエーションには、病気や航空法で定める身体検査の基準を満たせないパイロットもいるようで、バニラ・エアでは、予想を超えた退職者が出たことや新規の採用がうまくいかなかったことが原因だという。

 ジェットスター・ジャパンも5月21日に運航を予定していた101便の欠航を決めた。こちらは、パイロットの不足ではなく、新たな拠点となる関西国際空港での整備体制の遅れが原因だ。過去にも資格を持たない整備士が従事していた件で、国交省から厳重注意を受けるなど、この手のトラブルは多い。

 3社に共通しているのは、最低限の人員とコストにもかかわらず、路線拡大など急激に業務を拡張したことだ。とはいえ「ちゃんと飛ばない」、「安全面で不安」であれば、利用する気にはなれない。一度、安かろう悪かろうのレッテルを張られてしまえば、その信用を回復させることは非常に難しい。

 エアアジア・ジャパンが13年10月に撤退したのも価格を最優先させることでサービスを軽視、日本の利用者との信頼関係を築けなかった結果だ。今、国内3社ともに信頼をつなぎ止める瀬戸際に立たせられていることは間違いないだろう。

LCC欠航のもう1つの理由―航空業界全体のパイロット不足

 実際には、LCC側に同情すべき点もある。コストを徹底的に省くため、飛ばないパイロットを遊ばせておく余裕はない。また、世界的に航空需要が高まっており、パイロットの不足は日本だけの問題にとどまらないという事情もある。

 航空機は機種ごとにライセンスが必要で、中でもエアバスA320型機は、ボーイング社のB737型機と並んで大ヒットの機種となっている。ともに座席数180席ほどの中型機だが両機併せて1万6千機以上世界の航空会社が保有している。機体同様パイロットの需要も多い。

 日系のLCCが保有する機種はすべてA320型機なので、パイロットのヘッドハンティングも日常茶飯事だ。海外の航空会社からの誘いも多いのだという。「米国、中東の航空会社がヘッドハンティングをしているという話をよく聞きますね。LCCの機長だと1200万〜1300万円の年収なので海外のほうが待遇はいい」(航空関係者)

 パイロットの不足はフルサービスキャリアでも例外ではなく、日本航空では今年から自社養成を再開し、ANAHDも米国のパイロット訓練会社を買収するなど先手を打っている。

 ただ、パイロットは自動車の教習所のように短期集中で免許をもらえることもなく、機長まで育て上げるのに時間にして10年以上、費用にして数億円掛かる。もちろん、資金に余裕がないLCCが自社で育てることは難しいため、今後も世界規模で行われる激しい争奪戦に参戦せねばならない。パイロットに関するコスト上昇は避けられない負担であろう。

 航空会社の自社養成や航空大学校だけで賄われないこともあり、国交省も既に動き出している。1つが、外国人パイロットの採用で、もう1つが自衛隊のパイロットを民間機に移転させることだ。前述のとおり、外国人パイロットの採用は海外も同じ状況なので簡単ではない。自衛隊パイロットの転身に関しても、「後ろに大事なお客さまを乗せる意識を叩き込まれた人と、戦闘機に乗って有事には相手を撃ち落すことを学んだ人ではメンタルが違うんですよね」(前出・関係者)と難しさを語る。

 パイロットをめぐる仁義なき戦いが既に始まった航空業界、日本LCCの厳しい戦いは長引きそうだ。

(文=本誌/古賀寛明)

 
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