政治・経済

経済同友会の次期トップ人事が動き始めた。来年4月下旬に任期切れを迎える長谷川閑史代表幹事の後任をめぐる4年に一度の人事だが、有力候補と取り沙汰される人物に関する怪文書も出回り、年末の内定までには紆余曲折がありそうだ。

藤森義明

藤森義明・リクシル社長(Photo:時事)

トップ人事をめぐり、経済3団体に送り付けられた紙爆弾

 5月上旬、東京・馬場先門の日本商工会議所幹部に「親展」と書かれ、差し出し人不明の封書が郵送されてきた。中にはA4版に横書きで書かれた文書が2枚。タイトルに「元GE上級副社長、藤森氏(現リクシル社長)は十数万の被災者を見捨ててGE製の福島原発事故から逃げた!……韓国沈没船の船長と同罪ではないか!」とあった。

 藤森氏とは建材・住宅設備機器業界最大手・リクシルの藤森義明社長のことだ。この幹部が会議所内外の関係者に確認したところ、同じ文書は日商のみならず経団連や経済同友会の幹部全員に送られていた。

 怪文書には「福島第一原子力発電所の機材はかつて米GEが製造し福島に設置したもの。2011年3月の事故当時のGEジャパンの責任者は藤森氏。GEは数億円の見舞い金を払ったが、事故の道義的な責任がある。これを全うするために藤森氏はGE本社を説得して数百、数千億円の被災者支援金を支給すべきだった。しかし、同氏は事故から数カ月後にこの重大事故の後始末を投げ出し十数万人の被災者を見捨てて住生活グループ(社名変更前のリクシル)社長に転身した。これは数百人の乗客を見捨てて真っ先に逃げた韓国沈没船の船長と同じではないか」とある。

 さらに「藤森はアメリカの利益を優先するために経済同友会の副代表幹事に就いた」と続き、「彼の中身は半分アメリカだ。どちらの国益を優先するのか分からないような人物を日本の経済界に温存させてはならない」と断じている。文末には「企業社会正義を推進する会」と記されていた。

 藤森氏は東大工学部から日商岩井に入り、35歳で単身渡米。GEのジャック・ウェルチ元会長にかわいがられ、05年、日本GE会長として故国に錦を飾る形で帰国した。11年4月、トステム、INAXなど住宅設備関連大手5社を統合して発足したリクシルグループのトップに就任。欧米でも大型の事業M&Aを仕掛けて業容を拡大している。

 怪文書の内容は唾棄に値するもので、文書を受け取った経済団体の幹部らはもちろん藤森氏本人も意に介していない。ただ、藤森氏が経済同友会の副代表幹事を務めており、次期代表幹事の有力候補の一角を占めていることから一部には「藤森代表幹事潰しの紙爆弾ではないか」との観測が出ている。

経済同友会のトップ人事 本命は三菱ケミカルの小林社長

 それというのも、怪文書が投下されたタイミングがもうひとりの有力候補に取り沙汰されている新浪剛史副代表幹事が5月1日付でローソンの社長を玉塚元一氏に譲り、代表権のない会長に就いた直後だからだ。

 慶応大から三菱商事の外食事業チームを経てローソン入りした新浪氏は健康志向の新型店舗や海外出店などで同社の業績を大きく押し上げ、藤森氏に劣らぬバイタリティーと経営手腕が高く評価されている。20年東京五輪の招致でも熱心に活動し、今年初めの東京都知事選候補者にも推されていた。経済同友会では農業委員会の委員長を務め、政府の産業競争力会議の農業問題の主査として減反政策の見直しなど日本の農業の競争力強化に道筋を付け、長谷川代表幹事も目をかけている。

 ローソンの社長を退くことから一時は「ポスト長谷川は新浪氏」との観測もあったが、1959年1月生まれで55歳の新浪氏は「財界活動に専念するには私の年齢ではまだ早い」と述べ、当面は軸足を経営の第一線に置く考えを示している。

 新浪氏が次期代表幹事の座に執着しなければ、相対的に藤森氏の得点が高くなる。何事にも率直で前向きな藤森氏は次期トップに推されれば断らないだろう。主要3経済団体の幹部全員あてに届けられた5月の怪文書は藤森氏が同友会トップに就任することを阻止する意図があるのではないかというのだ。

 現在のところ、同友会の次期代表幹事の大本命は三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長という声が大きい。山梨県南アルプス市出身で、東大大学院を経てイスラエルのヘブライ大、イタリアのピサ大に国費留学した理系経営者で、ざっくばらんな人柄とユニークな経営哲学には定評がある。政府の経済財政諮問会議にも民間議員として参加し、現政権とも良好な関係を保っている。同友会内部でも一目置かれており、「順当なら小林さんで決まり」とみる関係者は少なくない。

 一方、大穴は金丸恭文・フューチャーアーキテクト会長兼社長とみられる。大阪生まれの鹿児島育ちで神戸大工学部を卒業。35歳でIT関連の経営コンサル会社を設立し、日本証券業協会に店頭登録した株価が3350万円の初値を記録した。規制改革会議など政府の民間議員を歴任し安倍晋三首相をはじめ政権中枢や官界に豊富な人脈を持つのが強みだ。

 同友会の次期代表幹事は、内部規定に沿った選考委員会を経て副代表幹事全員の中から選ばれる。内定発表はOBを含めた有力幹部の議論を経て年末になる見通し。名前が挙がっている有力候補か、またはダークホースか。トップレースをめぐる動きが慌ただしくなってきた。

(文=ジャーナリスト/梨元勇俊)

 

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