国際

高成長の時期を終えた中国

 

 中国経済は2けた成長が当たり前だった高成長のステージを終え、中成長のステージに入ったとみられている。問題は中国経済が7〜8%の中成長を持続していけるかどうかにある。投資家の間で中国経済の先行きについて悲観論が漂っている。

 なぜ、中国経済が高成長から中成長に減速するようになったのだろうか。その答えは必ずしも明らかになっていない。

 経済学では、経済成長を労働の供給、資本ストックと全要素生産性によって説明されている。中国経済が著しい成長を成し遂げたのは際限なく供給される労働力に加え、政府と企業セクターが行う投資によるところが大きい。このような文脈から、中国経済が減速したのは労働力の供給が減少に転じたからといわれている。労働力が減少したのは35年前から実施されている「1人っ子政策」が原因である。

 マクロ的に見た場合、中国の労働力が減少しているのは確かである。それに加え、経済成長とともに、人件費の上昇は中国の製造業のコスト競争力の低下をもたらし、労働集約型の輸出製造業に大きなダメージを与えている。

 ただし、中国の国際貿易は急速に落ち込んでおらず、依然拡大している。とはいえ、中国のように大きな経済が輸出に依存した成長を持続するのは無理なことであろう。

 

中国では7%成長でも不景気

 

 2013年に入ってから中国企業の経営破綻が散見されるようになった。企業経営が悪化する背景には景気減速がある。長い間、中国企業は2けた成長に慣れているため、彼らにとって7%台の成長は不景気を意味するものである。

 しかも中国経済の成長モデルは投資主導のもので、政府は景気を押し上げるため、企業に投資の拡大を促す。外需が順調に拡大するときは投資の拡大が景気を押し上げることができるが、グローバル金融危機のような景気減速局面においては外需が委縮し、中国の輸出も難しくなる。

 結局のところ、外需と内需の合計を大きく上回る企業の生産能力は過剰設備となり、企業経営を悪化させる原因になる。

 これまでの経験では、景気減速は一時的な調整によるものと思われ、高成長こそ通常の状態と思われていた。企業がこのような楽観的な見通しを抱く背景には、政府が実力以上に高成長を実現しようとしたことがある。

 中国では、企業はマーケットリサーチよりもガバメント(政府)リサーチを重視する傾向が強い。すなわち、本来ならば企業は市場の需給をきちんと把握した上で投資と生産を調整しなければならないが、現状では、企業は市場の動向よりも政府がいつ財政出動などの景気対策を実施するかを注視する。市場経済では、企業は市場のほうに顔を向けるが、中国では、企業は政府のほうに顔を向ける。

 13年11月に開かれた共産党中央三中全会で採決された「決定」には、市場メカニズムの機能を強化する改革に取り組むことが盛り込まれているが、企業の顔を市場のほうに向けさせるには、政府は市場への関与をやめる必要がある。市場メカニズムの機能を妨げているのは政府である。

 

中国の景気減速で過剰設備問題が浮上

 

 世界経済の観点からみれば、7%台の成長は決して低くないが、中国の企業経営の現場に行けば、7%の成長でも悲鳴を上げている企業は少なくない。景気減速により国内の消費は不振になり、輸出も思うように拡大しない。このまま7%に近い成長が続いた場合、企業の経営破綻が増えてくるものと思われる。

 このことに関連してもう1つのリスクが懸念されている。現在、銀行からの借り入れ金利(1年もの)は7%前後であるが、企業の投資収益は10%以上でなければ、銀行からの借り入れの返済は難しくなる。経済成長率が7%台に低下している中で、企業にとって10%以上の投資収益率を実現するのはほとんど不可能である。結論を言えば、経済成長率の低下は、企業デフォルトのリスクを高めることになる。

 現在、中国の主要産業は過剰設備の問題を抱えている。2けた成長が続く景気の良いときは、主要産業の過剰設備問題は浮上しないが、景気が減速している現状では、過剰設備の問題は一気に浮上してきた。中国政府の発表によれば、鉄鋼、アルミ、自動車、板ガラス、セメントなどの基幹産業は軒並み25%以上の過剰設備を抱えているといわれている。

 中国では主要産業の過剰設備問題に拍車を掛けたのは、ほとんどがこれらの産業に携わる国有企業である。国有企業は市場の動向に左右されず、まさに政府のほうに顔をいつも向けている。民営企業であれば、過剰設備を抱えると、経営破綻のリスクを意味するが、国有企業の場合、いずれ政府が救済に乗り出すだろうから経営破綻のリスクを心配しない。

 国有企業という「聖域」にメスを入れないと、中国経済が安定した成長を実現するのは難しいかもしれない。

 

【グローバルニュースの深層】記事一覧はこちら

柯 隆氏 記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る