政治・経済

「大飯再稼働、差し止め命じる 生存と電気代、同列許さず」

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)をめぐり、住民らが関電に運転の差し止めを求めた訴訟の判決が21日、福井地裁であった。樋口英明裁判長は「大飯原発の安全技術と設備は脆弱なものと認めざるを得ない」と地震対策の不備を認定し、運転差し止めを命じた。関電は22日にも控訴する方針。

 2011年3月の東京電力福島第一原発の事故後、原発の運転差し止めを求めた訴訟の判決は初めて。大飯原発は13年9月に定期検査のため運転を停止し、新規制基準に基づく原子力規制委員会の再稼働に向けた審査を受けている。(後略)』

(朝日新聞2014年5月12日付)

日本のエネルギーミックスの変遷GDPの縮小が「脱原発」を妨げる

 筆者は正直、上記の記事を読み、思わずめまいを覚えてしまった。まさか、日本国家のエネルギー安全保障と密接にかかわる原発再稼働について、地裁とはいえ日本の司法が再稼働差し止めの判決を下すとは。

 判決を読み上げた福井地裁の樋口裁判長は、「生存を基礎とする人格権は憲法上の権利であり、法分野において最高の価値を持つ」と述べ、差し止めの判断基準は、「新規制基準への適否ではなく、福島事故のような事態を招く具体的な危険性があるか」であることを挙げた。

 すなわち、現在、各電力会社が進めている原子力規制委員会の新規制基準へ適用し、再稼働するというプロセスを、根底からひっくり返してしまったのだ。これでは、たとえ電力会社が新規制基準を完璧に満たしたとしても、各地で訴訟が相次ぎ、運転再開を差し止められる事態になりかねない。

 今回の判決文を隅から隅まで読んでみたのだが、「エネルギー安全保障」という文言はなかった。また、「エネルギーミックス」という用語も用いられていない。エネルギー安全保障やエネルギーミックス抜きに、原子力発電について語ることは不可能だ。

 しかも、裁判の原告は福井県民を中心とした189人にすぎない。理屈では、原告が1人でも「生存を基礎とする人格権」を盾に、原発再稼働の司法による差し止めが可能になってしまう。

 現在のわが国は、原子力発電所を再稼働しないことで、貿易赤字と電気料金の引き上げが続いている。貿易赤字とは、わが国のGDPのマイナス、すなわち所得の海外流出である。さらに、電気料金が相次いで引き上げられることで、中小企業の中には「電気代倒産」に陥る企業も出てきている有り様だ。

 企業が倒産、あるいは業績が悪化すると、失業者が増える。福島第一原発事故後に、放射線により命を失った者は1人もいない。対して、経済的困窮は多くの人を殺す。橋本政権以降のデフレ深刻化で、毎年の自殺者が対1997年比で1万人増の状況が続いた事実を、裁判官たちは知っているのだろうか。

 貿易赤字が拡大すると、わが国のGDPは縮小する。GDPの縮小で経済規模が小さくなると、「再生可能エネルギー」「使用済み核燃料の処分」「原発の廃炉」「蓄電技術」等への投資が不可能になる。上記、4項目への投資が拡大しない限り、「脱原発」を達成することはできない

崩れたエネルギーミックスのバランス

 しかも、ここまで原発が「悪者」として報道されると、当然ながら原子力関連の技術者が流出していく。特に、若い世代で、今から原子力関連の技術者になろうと志す者は激減するだろう。

 そうなると、先の4項目への投資縮小はもちろんのこと、そもそも「原子力関連の技術者がいない」という事態になりかねない。わが国は、脱原発はもちろんのこと、使用済み核燃料の処理すら自国ではできない発展途上国へと落ちぶれることになるだろう。その上、エネルギーミックスのバランスを回復できず、エネルギー安全保障が揺らぐ。

 わが国のエネルギーミックスは、73年時点では「原油」が圧倒的なシェアを占めていた。オイルショックが発生し、日本は「よりバランスが取れたエネルギーミックス」を追求し始める。2010年には、それなりにバランスが良いエネルギーミックスを実現したのだが、11年の菅直人による原発停止により、すべての歯車が狂い始めた。現在の日本は、エネルギー供給をLNG(液化天然ガス)に大きく依存するようになっている。福井地裁の裁判官たちが、わが国のエネルギー安全保障について、少しでも議論したとは、判決文を読む限り、到底思えない。

 

※エネルギーミックス:特定の発電技術に偏らず、各技術の特性を生かしつつ、バランス良く組み合わせ、安定して発電を実現すること。電力サービスのユーザーである国民のために、「安定的」「低価格」で電気を供給するための発電技術の組み合わせ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る