政治・経済

政府が6月にまとめる新たな農業強化策や新成長戦略で、農協の見直しが焦点となっている。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)にきついお灸を据えるのが狙いだ。「農業協同組合」はついに解体されるのか。

安倍首相と萬歳 章会長

TPPに関する要請書を受け取る安倍首相(右)とJA全中の萬歳 章会長(Photo:時事)

噴出した農協解体論議

 農協(JA)のイメージは、都会に住む人から見れば「お米や野菜を安定的に届けてくれる親切なお百姓さんの組合」といったところだろうか。その一方で、日本のTPP交渉参加の反対集会でムシロ旗を立て、国会前で「絶対反対!」のシュプレヒコールをあげている圧力団体でもある。JAグループの職員は20万人を超える。

 政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)は5月22日、JA全中による指導制度の縮小・廃止、企業の農業参入の規制緩和などを骨子とする農業改革案をまとめた。改革案では農地取得が可能となる農業法人に企業が100%出資できるようにするとしている。

 既に、イトーヨーカ堂やイオン、ローソン、住友化学、トヨタグループ、大手商社などが農業に参入しているが、現在の農地法では食品関連など一部の企業を除いて出資比率25%以下に制限されており、実現すれば企業の農業進出が加速。農協の地盤沈下が進む。

 一方、農協組織の見直しでは、「中央会制度の廃止」をうたっている。JA全中は農協法に基づき、全国約700の地域農協を指導する権限を持つ。指導料として年間約80億円の賦課金を集めるほか、監督権も持つ。この構造がJA全中を頂点とするJAグループのピラミッド型組織の根底にある。

 「組織の理念や組合員の意思、経営・事業の実態と懸け離れた内容だ。JAグループの解体と受け止めざるを得ない」。全中の萬歳章会長は規制改革会議の改革案に猛反発する。自民党の農林族議員も「日本の農業が崩壊する」「選挙を戦えない」などと批判。党独自の対案をまとめることを決めた。

 JA全中が4月に自ら発表したJA改革プランでは、地域農業で中心的な役割を果たす「担い手農家」を理事に登用することや、食品メーカーの運営参加、農産物の輸出額を2020年までに10倍超に増やすなどの目標が掲げられた。しかし、株式会社化が検討されている全国農業協同組合連合会(JA全農)改革や肥大化批判がある金融事業の見直しには踏み込まなかった。

 赤字の本業・農業関連事業を支えているのは、生協や中小企業など他の協同組合では認められていない金融事業だ。戦時統制団体である「農業会」をルーツとする農協は食糧管理制度(食管)を利用し、政府から組合員の農協口座に振り込まれるコメなどの販売代金を農協貯金として貯め込んだ。また、会社や役所、農協に勤める兼業農家の給料やボーナス、退職金などの農業外所得や、農地売却代金の受け皿になった。

 農林中央金庫(農林中金)の貯金残高は約90兆円とメガバンク並み。農林中金の資金運用は債券(国内・海外合計)での運用が約7割で、日本最大の機関投資家だ。投資銀行化した農林中金は証券化商品を急速に買い増し、09年9月末時点で6兆8千億円もの投資残高を抱えた。これとは別に、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅貸し付け抵当の住宅ローンを担保にした証券を3兆円も抱えていた。

 これらの債権がリーマンショックの影響をモロにかぶり、09年3月期決算では単体の経常損失が6200億円にも膨らみ、農協など系統機関からの1兆円規模の資本注入でようやく危機を脱した。

金融事業の制限で農協解体が進む

 TPP交渉参加の議論でコメ・牛肉など農業の危機ばかり騒がれているが、米国の金融業界の最大の関心事は日本人の金融資産である。規制改革会議が「脱農(業)化」「本末転倒」と批判、米国が開放を求めているのが金融事業だ。がん保険など、日本郵政グループのかんぽ生命保険の新規事業が認められないのもこの影響からだ。

 日本郵政が、米保険大手アメリカンファミリー生命保険(アフラック)のがん保険を販売するのもTPP交渉での米国の開放圧力をかわすためだといわれる。一方、JA共済は自前のがん保険も扱い、かんぽ生命にはない自動車保険も揃えている。

 民間保険が不特定多数に対して営利事業として行っているのに対し、共済事業は組合員同士の相互扶助が目的の非営利団体という建前だ。身元が分かっている人を対象とするためリスク管理費用を安く抑られ、掛け金も一般の生命保険よりも安い。

 国内の農家が減少する中、逆にJA共済の総資産が増加しているわけは数千円の出資金を払えばサラリーマンや主婦などがJAのサービスが受けられる「准組合員」になれる仕組みだからだ。准組合員にはJA貯金・共済加入者のほか、農協経営のガソリンスタンドを利用するだけの会社員や主婦も多い。

 農業を営む「正組合員」の数が09年度に逆転。11年度は准組合員が約516万人、正組合員が約466万人と差は開きつつある。金融事業が正組合員に限定されれば、JAグループの解体は避けられない。

 「郵政」の上場が決まった今、最期の官製企業はJAグループだ。米国とのTPP参加交渉をまとめるため、安倍首相は農協解体の指示を下すだろう。

(文=ジャーナリスト/西村義男)

 

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