マネジメント

松本 晃

松本 晃(まつもと・あきら)
1970年京都大学農学部卒業、72年同大学大学院農学部博士課程修了後、伊藤忠商事入社。86年センチュリーメディカル出向を経て、93年ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル入社。99年ジョンソン・エンド・ジョンソン社長に就任。2009年6月カルビー会長兼社長に就任。

長所と短所を徹底的にあぶり出す

 少子化の影響が直撃し、厳しい経営環境に置かれているスナック菓子業界。しかし、そんな中にあって1社気を吐いているのが最大手のカルビーだ。

 5月に発表した同社の2014年3月期の決算では売上高は対前年比11・4%増の1999億円を記録、営業利益に至っては同24・9%増の197億円を叩きだした。単年数字だけを見ると、業績好調の一企業に見えるだけかもしれない。

 しかし、驚くべきは08年度を境にした急成長にある。08年度から14年度までの同社売上高の年平均成長率は7・8%。少子化というマイナス要因があってもこの数字は見事だが、特筆したいのが営業利益の成長率がなんと34・9%にまで急激に伸びていることだ。これを実現できたのは、同社の会長兼CEOの松本晃氏の経営手腕によるところが大きい。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長だった松本氏がカルビーの会長兼CEOに就任したのは09年6月のこと。当時、同社は05年に創業家社長の松尾雅彦氏からバトンを受け継いだ中田康雄社長の退任に伴い、後継者の人選が急がれていた。前年松尾氏に請われ、社外取締役となっていた松本氏は、後継指名会議(人事委員会)に出席するのだが、その席で当時会長の明田征洋氏が松本氏に社長就任を打診したのだ。

 決め手となったのは、ペプシコとの間で暗礁に乗り上げていた提携交渉を松本氏が携わって短期間で調印に導いた手腕だ。当初、委員会は社長への就任を要望したが松本氏はこれを固辞。しかし、委員会は引かず、ガバナンスの強化、CEOとCOOの役割分担を明確にすることを条件に会長兼CEOを受諾する。

 カルビーの快進撃が始まった瞬間だった。

 松本氏が言うCEOとCOOの役割分担とは簡単に言えばCEOが会社の方向性を示し、それに対しすべての権限を行使するのがCOOというものだ。

 まず、松本氏が行ったのは長所と短所をあぶり出すことだった。当時、カルビーは売り上げが頭打ちでなおかつ利益率が極端に低かった。

 「カルビーは商品の品質も高く、一連のサプライチェーンも良くできていた。しかし、コストには無頓着だったのでそこにメスを入れただけです。品質にこだわるあまり、会社の本来的な意義である〝儲けること〟に対しての意識が弱かったのです」

企業の存在意義は〝儲かること〟が前提

 松本氏は社外取締役の時からシェアがこれほど高いのに、こんなに利益率が低いのはあり得ないと心底思っていたという。〝世のため、人のため〟という必要条件と、それを実現するための〝儲けることは当たり前〟という十分条件を満たさなければ、本来的な企業の存在意義を達成できないという信念が、外資系企業での社長経験によって植え付けられていたのだ。

 〝儲かる会社〟。松本氏は、営業利益を増加させることを主眼に置いた施策を次々に実視する。実現に必須なのはコストカット。組織の簡略化をするとともに、変動費を下げ、それを顧客に還元することによりシェアを上げ、高コストの温床になっていた低い工場稼働率を一気に高めて固定費を下げた。

 「就任当初、弊社の製造原価は65%でした。これは何でも高過ぎる。最終目標を50%に置いていますが、5年をかけ現在では55%までになりました。一方で販売並びに一般管理費を30%に落とせば営業利益20%を達成できます。そうなればカルビーは世界と互して戦える企業になれるのです」

 これら一連の改革で、それまでの商習慣を大きく転換したため、現場の反発が大きかったことは容易に想像が付く。だが松本氏は、「CEOはコミットした数字を達成できなければ契約違反ですから解任です。〝儲かる会社〟をつくるためには、皆が納得するまで、辛抱強く説明しました。皆が納得しない限り実行には移してもらえません」と言う。

 創業家から経営を引き継ぎ筋肉質の企業へと変貌させた松本氏が現在、期待しているのは、国内のシリアル市場が過去20年間ずっと250億円前後と米国の50分の1にすぎないこと。

 「市場が拡大しなかったのは、要はおいしくなかったからです。弊社のシリアル、フルーツグラノーラ〝フルグラ〟は抜群においしいと自負しています。昨年、国内シリアル市場は約340億円にまで拡大しました。上乗せされた90億円のほとんどは〝グラノーラ〟類が占めています」

 売れた要因を問うと松本氏は「これまでスーパーで米売場に置かれていたものを売れる売場に移しただけです」と言って笑った。成功の鍵は現場に落ちているということだ。

(文=本誌・大和賢治 写真=西畑孝則)

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