テクノロジー

核燃料サイクルの概要

なぜ日本は使用済み核燃料の再処理を続けようとするのか

 

核燃料サイクルが生み出す「夢のエネルギー」

 3月24日からオランダのハーグで、核セキュリティサミットが開催されました。ウクライナ問題が盛り上がっている中で、各国首脳が集まるということでニュースでも取り上げられていたので、ご存じの方も多いと思います。

 ただ、その直前に、「中国の高官が、日本に溜まっているプルトニウムなどに懸念を示しており、その問題を核セキュリティサミットで取り上げる」というニュースが流れたことを知っている人は少ないかもしれません。知っていても、このニュースとエネルギーとどのような関係があるのかと思った方もいるかもしれません。

 プルトニウムというのは、核兵器に使われる物質ですが、同時に、原発で電気をつくり出す過程で生成される物質でもあるのです。

 ただ、原発から出てくる使用済み燃料の中では、ウランをはじめ、さまざまな物質と混じりあっている状態となっており、このままでは核兵器に使うことはできません。

 その使用済み燃料を、「再処理」という工程にかけることで、プルトニウムを分離することができます。

 日本では、この再処理を、核燃料サイクルというエネルギー政策の一環として進めてきました。分離したプルトニウムを、ウランと混ぜて、新しい燃料を作り、再度、発電の燃料にするというのが核燃料サイクル政策です。

 それも単なる再利用ではなく、高速増殖炉という原子炉で燃焼させることで、さらにエネルギーがつくられるということで、資源のない日本にとっては、まさしく「夢のエネルギー」と言われていました。

 この政策は、1950年代に、日本に原発を導入しようとした頃から同時に開発が進められ、67年の原子力長期計画では、80年代後半には高速増殖炉が実用化されると書かれていました。そして、世界の核先進国でも、高速増殖炉の開発が進んでいました。

経済的メリットがなくなっても核燃料の再処理を進めた日本

 しかしながら、90年代になり、ドイツ、米国、英国、フランスという核の先進国において、高速増殖炉開発が断念されました。

 そうした中、日本だけは原型炉「もんじゅ」を建設し、開発を継続してきました。

 しかし、「もんじゅ」は事故を起こし、実質、高速増殖炉路線は難しくなってきました。そこで、生まれたのが「プルサーマル」という再処理した燃料を、普通の原子炉で燃焼させるという発電方法です。しかし、この場合は、リサイクルの効果はほぼ失われ、経済的なメリットはないと言えるでしょう。

 それでも、4月11日に閣議決定された震災後初めてとなるエネルギー基本計画の中では、「再処理を推進する」と明記されています。

 なぜ、高速増殖炉は難しくなり、再処理の経済的なメリットもなくなっているにもかかわらず、再処理を続けようとするのでしょうか。

 その理由として、高レベル放射性廃棄物の量が減ることなどが挙げられますが、あまり説得力のある説明とは思えません。

 あえて言えば、再処理工場がある青森県や六ヶ所村など、地元自治体との約束があり、また、これまで、政府が正しい政策としてやり続けてきたことを否定できないといった指摘のほうが説得力はあるかもしれません。

 

世界の安全保障に影響する使用済み核燃料の再処理問題

 そして、一般的にはあまり意識されていないかもしれませんが、この問題は、決して、日本のエネルギー政策だけの問題ではないのです。

 日本は、国際社会から、核燃料サイクルが順調に進み、プルトニウムが消費されることを前提として、商業用の再処理をすることを国際的に認められてきました。その一方で、前述したとおり、プルトニウムは核兵器の原料となるため、いろいろな国が再処理を行うことに対して、国際社会はとてもセンシティブです。

 実際に、韓国や南アフリカなどの国が、日本が再処理をしていることを例に挙げ、自国でも再処理を行うことを認めるように主張しており、それは核不拡散を目指している国や個人からすると、再処理ができる国が増えることは望みません。

 それが、冒頭に書いた中国高官の発言につながるのです。そして、「核なき世界」を目指すということでノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領から見ても、核不拡散にとってマイナスになることは望まないでしょう。

 このように、一見、日本のエネルギー政策の問題、しかも、その中でも、原発そのものの是非ではなく、どちらかといえば付随的な問題ととらえられがちな使用済み核燃料の扱いが、世界の安全保障にも影響を与えていることも理解しなければなりません。

 日本はこれまでのように再処理を推進すべきなのか、あるいはここで立ち止まって考え直すべきなのかということを、あらためて考えるべきではないでしょうか。

 

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

Eコマースを中心に成長を続けるBEENOS。その創業者である佐藤輝英氏は、5年前に社長を退任。4年前には取締役を辞任し、経営から退いた。それまで起業家として生きてきた佐藤氏が次に選んだのは起業家支援。BEENEXTを設立し、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家への投資を始めた。その中でも投資の中心と…

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る