マネジメント

今西頼久

今西頼久(いまにし・よりひさ)
1978年兵庫県生まれ。94年今西土地建物グループ入社。2001年近畿大理工学部卒業。不動産部長、常務、専務などを歴任。幅広く不動産事業に携わるかたわら、11年には立命館大学経営大学院修了(MBA取得)。12年社長就任。

今西頼久氏は語る 無意識に植え付けられたトップの自覚

 中小企業白書によれば、親族による事業承継は年々減少している。それでも「親族に引き継ぎたい」との思いを抱く経営者は根強く存在する。円滑に後継者を育成しトップ交代できる策はあるのか。創業57年、関西で不動産コンサルティングなどを展開する今西土地建物グループのトップ交代劇からはその「良き例」が多く見受けられる。

 同社は2012年、創業者の恭晟(たかあき)氏が会長職となり、長男の頼久氏が34歳の若さで社長に就任した。頼久氏は入社以来、多くの現場を任され、専務時代から決裁権を持って会社を切り盛りしていた。それでも、トップとしての意思決定には緊張感と責任の重みを感じた。就任後は案件が頼久氏に集中し、会長職にある父との仕事の配分にも腐心した。

 頼久氏はその問題にすぐ着手し、古くからの取引先の相談は会長が受け、実務と共に頼久氏に引き継ぐ流れを作る。社内でも、頼久氏が自ら決すべきことと、会長に相談すべきこととを振り分け、社員の協力を得た。

 「もちろん、自分の判断を超える局面では会長の意見を聞いています。会長は『わしはこう思うが、最終的にはお前が決めたらいい』と言うことも多い。本当に、理解のある人なのです」

 このような役割分担が円滑にできるのも、恭晟会長の考えが影響する。業界団体の要職を歴任してきた恭晟会長は折に触れて「最初に出処進退を考えてやらなあかん」と話していた。

 「社長は社長、会長は会長の仕事がある。その職責と身の処し方を理解するからこそ、互いに適度な距離感を持ち、円滑に継承できたのだと思います」

 こう語る頼久氏が、社長に就任したのは突然だった。前触れなき決定に、就任後の一時はとまどいもあったが、順調に引き継げた理由には幼い頃から後継者である意識を「自然と擦り込まれていた」ことにある。

 頼久氏は小学生の頃から会社に休日出勤する父と共に出社し、経営者が集まる会合にも連れて行かれた。父は、いつも疲れを見せず喜んで働いていたという。父と共にビルの竣工式などに同席することで建築家に憧れ、大学では建築学を専攻。大学時代は、朝7時に出社してから通学することが日課となり、授業がない時は父の出張にも同行した。

 「実務にはかかわらないにせよ、大学4年間で経営者の考えと行動を学べたことは同期と比べて大きなアドバンテージでしたし、事業を引き継いだ後も、この経験が生かされました」

 もう1つ、同族経営の強みを頼久氏は付け加える。それは、取引先の情報を長いスパンで把握できることだという。

 「不動産事業を営む上では、お客さまの表向きの情報だけでなく、積み上げてきた歴史や過去の取引といった情報も知っている必要がある場面があります。この点はファミリービジネスと相性が良いのです。例えば『先代はこういうアプローチをしたから、今度はこの手で行こう』という対応も、父の代を深く知るからこそできることです」

今西頼久氏の思い ベースを守りつつ事業構造を改革

 同社は創業以来、時代に合わせて事業ドメインを変化させている。当初は遊休地利用や邸宅分譲から始まり、マンション分譲事業の後にオフィスビル事業や不動産仲介を展開。頼久氏が社長に就任して以降は、それらを引き継ぎながら、法人が持つ不動産資産のコンサルティングに主軸を置く事業構造の改革を行った。

 「不動産ストックが無かった世代である会長は、住宅やマンション、ビルを供給しなければいけませんでした。今は不動産ストックがある時代。その価値を高め、運用をサポートする事業へシフトチェンジしました。視点は変わりましたが、『不動産を通じてお客さまの発展に寄与する』というベースは変わっていません」

 事業構造の改革は、社長就任4年前に起きたリーマンショックの影響も大きい。

 「あのときに不動産は本来、不易流行の不易にあたるものだと再確認しました」

 09年に立命館大学経営大学院に入学。「長期的に発展する不動産事業の在り方」を研究テーマに、МBAを取得した。今までの実務経験に合わせて新たな強み得たことで、不動産を通した経営課題の解決により踏み込んだコンサルティングが可能になった。

 「中小企業庁の統計では一般事業法人の総資産おける不動産比率は約30%に当たる。その価値を左右する、インパクトある業界に身を置いていることを自覚しなければなりません」

 熱く語る頼久氏からは、父の事業を引き継ぎながらも、時代に合わせた変化でさらなる飛躍につなぐ覚悟が感じ取れた。

(文=本誌・長谷川愛 写真=西畑孝則)

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