文化・ライフ

健康診断をめぐる賛否

 健康診断にはいろいろな種類がある。自治体などが行う特定健診もあれば、有料の人間ドックもある。その種類がどうあれ、問題なのは、健康診断を受ける意味があるかどうかだ。

 例えば、「健康診断は受けないほうがよい」とする海外の疫学調査も散見されるし、「症状もないのに、胸のレントゲンを撮れば、放射線被曝の問題が起きる」と指摘する専門家も多い。ましてや、CTやPETともなれば、さらに被爆線量は増え、発がんのリスクも上がってしまう。

 一方で、健康診断は疫学的に有効だとする研究もある。ただし、日本の場合、人間ドックや健康診断の有効性を証明するのは不可能に近い。なぜならば、既に行われている特定健診のようなものを、今から疫学調査するのは至難だからである。

健診を奨励する国策の矛盾

 このように、健康診断の有効性をめぐっては賛否両論が渦巻いている。ただし、それを議論する以前に、健康診断そのものについてもう少し冷静に分析する必要があるだろう。

 まず、特定健診を奨励する国の狙いは何なのか。むろん建前は、国民の健康維持で真の狙いは医療費削減にある。

 ところが、平成23年度における特定健診の受診率は全国平均で47%でしかない。つまり、半数以上の国民が健診を受けておらず、しかも、この受診率は特定健診が始まってからさして変化していないのだ。これでは、建前である国民の健康維持も、その先にある医療費削減もままならないだろう。また、そもそも健診で健康で長生きできる人が増えれば、当然、年金支給額が増え、結果、社会保障費全体は膨らむ。国民の健康維持・医療費削減と、社会保障費の削減との間には大きな矛盾があるということである。

 もっとも、健診を受ける側にとっては、健康で長生きをすることが健診の目的だろう。ただし、日本の健康診断については、信頼度の高いレベルで行われた疫学調査は存在せず、「健診が長寿につながる」ことを証明するデータはない。唯一がん検診だけは、いくつか死亡率を減少させる効果が証明されている。「胃のバリウム検査」や「子宮頸がんの細胞診」、「乳がん検診」、「喫煙者の肺がん健診」などがそうである。だが、これら以外の健診については、その意味がいまだに曖昧なままである。

経済的なのは健診より禁煙

 医療経済学の観点から言えば、特定健診の展開にお金を掛けるよりも、禁煙を徹底させたほうが、はるかに安上がりで医療費削減が実現されるだろう。タバコについては、3兆2千億円程度の税収に対し、経済的損失は7兆3千億円とされている。したがってもし、健診による医療費軽減効果が見えないならば、特定健診ではなく禁煙対策にお金を掛けたほうが、はるかに経済的と言えるのである。

 医療先進国である米国では、基本的には日本のような健康診断は行われていない。例えば、日本の企業では、社員の健康管理を目的に健康診断を全員に受けさせているが、米国では、健康管理はあくまでも個人の責務なのだ。

健診の価値は行動で決まる

 確かに、人間ドックにせよ、特定健診にせよ、検査で見つかった異常にどう対処するかで、個人にとっての「健康健診の価値」は変化する。

 ところが、日本の場合、健康診断を受けること自体が健康維持につながると考える向きが多く、結果を受けて、どうすれば自分の医療費を抑えながら、健康を維持できるかを真剣に考える人は少ない。

 例えば、私が以前かかわっていた大学病院の人間ドックでも、毎年同じ異常を指摘されながら、一向に改善努力を払わない人が多くいた。これでは検査を受ける意味がない。

 また、特定健診の新しい試みとして、メタボなどの異常が発見された際に、薬による治療ではなく、食事指導や運動指導を優先させようという取り組みが推進された。背後には国による医療費抑制の意図があるのだが、結局、薬の投与は減っていないだろう。なぜならば、食事療法や運動療法に従わない、あるいは従えない人がメタボである場合が多いからだ。ゆえに、医者たちの多くは「キチンと薬を使った治療をしていくべきだ」と考える。結果、特定健診で医者にかかる患者は多くなり、国の思惑とは真逆の状況がつくられるわけだ。

 国の思惑が実現されるかどうかはともかく、やはり、特定健診や人間ドックで検査を受けるからには、それに自分なりの意味を持たせることは大切だろう。検査結果をどう自分の健康管理に生かしていくか--健康診断で長生きできるかどうか、経済的なメリットを生めるかどうかは、結局、自分次第ということだ。

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