[金の卵発掘プロジェクト2013受賞企業応援企画]
人生の終末を彩る人材育成に取り組む(前編)--木村光希(おくりびとアカデミー代表取締役)
2014年6月19日

「金の卵発掘プロジェクト」とは将来の日本経済を背負って立つ人材を発掘し、日本を元気にするためのビジネスプランコンテスト。本連載では2013年の選考会で審査委員特別賞を受賞した企業について紹介していく。
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木村光希(きむら・こうき)
1988年9月北海道札幌市生まれ。2011年札幌大学経営学部卒業、同年NK北海道入社。12年Noyukに移籍、13年株式会社おくりびとアカデミー設立、代表取締役となる。同年一般社団法人日本納棺士技能協会設立、代表理事となる。
遺族との距離が一番近い職業
私は2013年6月に、人生の終末期を専門に取り扱う教育ならびに人材育成機関として、株式会社おくりびとアカデミーを設立しました。超高齢化社会を迎えている日本において、われわれ若い世代が人生の終末期と真正面から向き合う必要性を感じたのがきっかけです。
私は実際に納棺士として活動してきましたが、この職業を選んだ最大の要因は、父の影響です。父は23歳の頃から納棺士として活動する傍ら、現在の納棺の儀の様式や技法を構築し、現在まで約3万体のご遺体を納棺してきております。また、映画や舞台「おくりびと」で主演俳優に技術指導を行いました。
私はそんな父に幼い頃から納棺士としての技術を学び、大学在学中から実際に納棺の現場で働き始めました。ご遺体の体を清め、お着せ替えをすると同時に、フューネラルメイク(死化粧)を施し、ご納棺。一連の所作を目の当たりにされたご遺族の多くは、施術後のご遺体の変化に驚かれると同時に、時には涙を見せながら感謝の言葉をくださいます。私は納棺士という職業にあらためて誇りを持つと同時に、強い責任を感じました。
ご存じない方も多いのではないかと思いますが、葬儀社のスタッフではなく、「納棺」を専門に行う事業者が存在します。ご遺体処置のプロフェッショナルである納棺士は、ご遺族との距離が一番近いことが特徴です。
大学卒業後、私はアジア圏で日本の「納棺の儀」の文化を広めるための活動を行いました。中国では特に高い評価を受け、四川省重慶市では現地の30人の生徒に対し1人で約3カ月にわたり技術指導を行い、今も現地では日本式の納棺の儀が行われています。
一方、日本においては納棺士の公的な資格や基準がありません。そのため技術や作法、ご遺族への応対に関しても、対応する納棺士や事業者によって異なった手法がとられています。いわゆる「当たり外れ」が存在し、ご遺族は、生涯一度の場面を任せる納棺士を選択する材料がないのです。
高齢化社会と人口の減少は、葬儀の小規模化と簡素化につながると思われます。そうした中、人生の最期を安心して任せられる納棺士の重要性は高まると予想されます。

納棺の儀は真剣勝負。ご遺族の心のケアにつながることを願いながら全身全霊を注ぐ。
国家資格による納棺士の地位向上を目指す
おくりびとアカデミーでの人材育成において、もうひとつ重要な職業があります。エンバーマーという、ご遺体の衛生保全を行う職業です。体内を特殊な溶液で満たすことにより、感染症等の心配もなく、ご遺体の長期保存が可能となります。
人材不足の状況が続いていますが、海外で働く人員の増加、あるいは若年層の減少に伴う海外からの労働者の流入等が予想される近未来の日本において、ご遺体の海外搬送の機会が増えることが予想されます。優秀なエンバーマーの育成は、グローバル社会において重要な社会基盤の整備となるはずです。
とかくタブー視されがちな「死」ですが、この世に生を受けた人間にとって、避けることができない人生一度きりの場であるということに変わりはありません。特に若い世代に「死」と正面から向き合ってほしいと考えています。
おくりびとアカデミーでの活動を通じ、ご遺体処置のプロを養成するとともに、「死」を学ぶことによって「生」を大切にする気持ちを育んでいきたいのです。将来的には死生学の学校教育での採用を目指します。また、現在公的資格のない納棺士を国家資格とするべく、社団法人を立ち上げ、資格付けを行っていきます。
(次号、後編に続く)
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