マネジメント

森田隼人

森田隼人(もりた・はやと)
1976年、福岡県生まれ。専修大学経営学部経営学科卒。2000年、シャボン玉石けんに入社し、01年取締役、02年取締役副社長などを経て、07年より現職。

赤字経営を耐えた先代社長から森田隼人氏に事業承継

 シャボン玉石けんが最大の転機を迎えたのは1974年。創業者であり先代社長の森田光德氏が、合成洗剤から無添加石けんへと主力製品をシフトした時だ。以来40年間、同社では人と環境に優しい無添加石けんを作り続けている。

 現社長の森田隼人氏は、2007年に父親から社長の座を譲り受けた。当時、隼人氏はまだ30歳。「いつかは事業を継ぐと思っていたが、予想以上に早い社長就任だった」という。

 光德氏はまさにカリスマ的な存在だった。月商8千万円を稼ぎ、従業員100人を雇っていた時期に、突如として販売が絶好調だった合成洗剤の製造をやめ、無添加石けん主体に切り替えたのだ。これが原因で売り上げは1%以下に落ち込み、最悪期には従業員5人まで規模が縮小。赤字経営はその後実に17年間も続いたが、それでも無添加石けんにこだわり続けた。いよいよ手詰まりとなった91年、光德氏は無添加石けんが合成洗剤と違って、いかに人体と環境に良いかを著書で主張した。人々の環境意識の高まりもあって本はベストセラーとなり、92年には念願の黒字転換を達成。それ以来、業績は回復軌道に乗った。

 良い時も悪い時もすべて経験し、現在のシャボン玉石けんのベースを築き上げたのが光德氏。その後を継ぐことにやりにくさを感じないかと尋ねると、隼人氏はこう答えた。

 「会社のことを人々に分かっていただこうとすると、やはり先代の話から入らないとどうしようもない部分はあります。いまだに先代の生き様に共感して買っていただけるファンの方も多くいらっしゃいますし、それは当社にとっての貴重な財産です。ただ、企業理念はしっかり根付いていて、向いている方向が変わらないので、事業承継はすんなりできたと思います」

 光德氏が残した財産の1つが人材。赤字続きだった時代には、即戦力を求めて中途採用で従業員を雇ってもすぐに辞めていく出入りの激しい会社だった。じっくり人を育てたいという思いから新卒採用を開始。例えば、現在専務を務める髙橋道夫氏は、新卒採用の第1期生だ。このほか、製造部門で石けんづくり一筋で何十年も勤めあげたベテラン社員もいる。

 「赤字時代に多くの社員が定着しなかったことから、社員の平均年齢が30代半ばと若く、私と同年代くらいの層が主軸になってきています。そのため、風通しが良く闊達な議論ができるところが先代の時と違います」と、隼人氏は語る。一から事業を立ち上げた光德氏と同じことはできないが、役割ごとに従業員が十分力を発揮できる体制づくりに力を入れているという。

先代社長の銅像と

先代社長の銅像と共に

森田隼人氏が目指すもの 正しい知識の普及でシャボン玉石けんの支持を拡大

 隼人氏が目指すのは、シャボン玉石けんと言えば「無添加」「エコ」というイメージをもっと浸透させること。社名の認知度は高くても、深くは知らない消費者もまだ多い。

 消費者の啓蒙活動も重要なミッションだ。実は、無添加という言葉の定義は曖昧で、例えば香料を使っていない場合でも無添加「香料無添加」と謳うことができる。このため、消費者に注意を促す意見広告を出したり、社長自ら講演活動などを通じて、正しい知識の普及に取り組む。

 シャボン玉石けんでは、製品を1個つくるのに1週間〜10日かける。スタンスはあくまでも品質本位。規模拡大より商品の良さを広めて、しっかりした支持を得ることを優先している。

 先代が好きだった言葉は「好信楽」。儒学者の本居宣長が残した言葉で、「好きで信じて楽しんでこそ、物事は長続きする」という意味だ。隼人氏もこの精神を受け継ぎ、今では社是のようになっているという。

 「事業を発展、継続させていくには、人材が育つ環境をつくることが大事」という隼人氏。今後は先代とは違ったチャレンジが待ち構えている。

(文=本誌編集長・吉田浩 写真=長島和美)

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