文化・ライフ

 俳優の宇津井健さんが亡くなる数時間前に入籍した女性がいた。その女性とは、いつも名古屋でお世話になっている「なつめ」のマダムだった! 衝撃のニュースでした。そういえば、随分と前から「私は80近くになったら結婚するわ」と冗談のようにおっしゃっていたマダム、あれは有言実行だったのですね。今回はその純愛を探りたく、対談の運びとなりました。

 

加瀨文惠

加瀨文惠(かせ・ふみえ)
千葉県生まれ。「なつめ」オーナー・マダム。19歳で名古屋住吉町に開店して以来50年以上、各界のキーパーソンが毎夜訪れる名門クラブ「なつめ」は「日本の夜の商工会議所」の異名をとる。1970年には、日本料理「加瀨」を開店。さらにスポーツクラブ「デューなつめ」を経営するなど事業家としても活躍する。

「夜の商工会議所」なつめマダムと宇津井健との出会い

 

佐藤 マダムが随分前から「私は80近くになったら結婚するわ」とおっしゃっていたのはふざけているのかと思いました(笑)。で、宇津井健さんとの出会いはいつ頃なのですか。

加瀨 サントリー本社ビルの完成を祝うパーティーのお席で、佐治敬三さんに紹介していただいたのよ。一緒に写真を撮っていただいてね。

佐藤 40年くらい前のことですか?

加瀨 ええ、そのあと、何度かお店にいらしてくださったのに、私は留守でお会いできなかったんです。

佐藤 なつめのお客さまは、政治家や実業家の方々、芸能界の方、さらには皇族の方もお見えです。いまだ「夜の商工会議所」と言われ、賑わっていますね。健さんもよくいらしてたんですか。

加瀨 いいえ、10年くらい前に石井ふく子先生と一緒に私どものレストランで再会したんです。

佐藤 健さんとはどんなお話をなさったのですか。

加瀨 話をするというより、信じがたいことですが、思わず「あっ」と言ってお互いを覚えていたことに、何かしらの縁というものを感じました。それから、お付き合いするようになりました。

宇津井さん

宇津井さんとの出会いの日

五島昇さん

五島昇さんとハワイにて

佐藤 宇津井さんは芸能界とは全く違う、経済界の方々の武勇伝を聞きながら、映画のストーリーのように興味を持っていらっしゃったのでしょうね。

加瀨 東急の五島昇会長ご夫妻に、ハワイのホテルオープニングパーティーに私たち〝4ババ〟をファーストでご招待していただき、何日も楽しく過ごしたことなどを話しますと「文惠さんすぐにでも行こうよ」と、少年のように次々と計画を立てました。

佐藤 付き合い始めの高校生のカップルのようですね(笑)。

加瀨 その後、2人でハワイに行ったときに、突然、結婚式を挙げようと言って、お手製のブーケを作ってくれたんです。私は何も準備していなかったのに、うれしかったですね。

佐藤 愛する人のお手製ブーケで結婚式なんて、素晴らしいサプライズ!

加瀨 彼は入籍を強く希望していたのですが、その時は、お互いの立場を尊重して、あえて入籍はしなかったの。

佐藤 それにしても、お2人とも有名人なのに、周りは誰も気が付かなかったのが不思議ですね。

加瀨 よく2人で食事に出歩いたりもしましたのに、誰も気付きませんでしたね。お互いに「健ちゃん」「文ちゃん」なんて呼び合ったりしてね、かわいいでしょ(笑)。

佐藤 もぉ〜、マダムったらおのろけばかり(笑)。

宇津井健さんとハワイにて加瀨 彼と一緒に過ごしたのはわずか9年くらいでしたけれど、病床で「僕は加瀨文惠の夫として死にたいんだ。宇津井健の妻として喪主をやってもらいたい」と言われました。

佐藤 健さん、引き際までカッコいい!

加瀨 そう。死ぬまでカッコつけられました(笑)。

 

加瀨文惠氏に聞くクラブなつめ創業のきっかけ

 

佐藤 日本一と言っても過言ではないなつめですが、創業したきっかけを教えてください。

加瀨 17歳の時に家出した私を拾ってくださった方のご縁で、「三姉妹」というバーでお運びをしたんです。

佐藤 最初からホステスさんではなかったのですね。

加瀨 開店前に掃除をしたり、お客さまのところに、お使いや集金などにも行きました。

佐藤 お客さまから見れば、まだ小娘ですものね。先輩方にいびられたりしませんでしたか?

加瀨 頂いたチップを横取りされるなど日常茶飯事でした。また、みんなで遠くに出掛けた時に、置いてけぼりにされて、街灯もない道を雨に濡れながら一晩中泣きながら歩いて帰ったこともあるんです。

佐藤 若くて可愛らしかったから嫉妬の的だったのでしょう。

加瀨 悔しくてね、絶対にいつか見返してやる、と思いました。

佐藤 その悔しい思いが開業するきっかけになったのですね。

加瀨 私の恩人のおばさんが住んでいた自分の家を担保に借金して開店させてくれました。その当時から素晴らしいお客さまばかりでした。

佐藤 なつめには若かりし頃から、父も通っていましたね。

対談の様子

加瀨 正忠先生は中曽根康弘さんが連れてきてくれたの。「経済誌を作っている若者だからよろしく頼むよ」とね。三鬼陽之助さんは正忠先生を「僕の弟分だよ」とおっしゃっていて、いろいろな方に応援されていましたよ。

佐藤 わあ、すごい方々に。ありがたいですね。また、影響を受けた同業者はいらっしゃいますか。

加瀨 昔、銀座のエスポワールというクラブに川辺るみ子さんという日本一のママがいらしたんです。川口松太郎の小説『夜の蝶』のモデルになった方でね、お店には白洲次郎さんや吉川栄治さんなどの文豪から経済界の方々もご家族でいらしてね。

佐藤正忠(左)、元サントリー会長・佐治敬三氏

『経済界』創業者・佐藤正忠(左)、元サントリー会長・佐治敬三氏と

佐藤 なつめも、ご家族といらしている方は多いですね。渡辺淳一先生もよくおいででした。

加瀨 ご家族と一緒に楽しめる社交場というスタイルを学んだのは川辺ママからなんです。尊敬する女性経営者でした。

佐藤 最近は一流の社交場としてのクラブは少なくなりました。

加瀨 そうですね、一流とは、長い年月をかけてお客さまに育てていただいて、やっと認められるものなんです。健さんもこのお店が大好きだったから、まだまだ頑張ります。


加瀨文惠

対談を終えて

大切な方を亡くされたばかりの時期に取材をお受けいただいたのも、「正忠さんのご縁ですもの」と、ありがたい限りです。宇津井さんと過ごした9年間の純愛ストーリーはまるで映画のようです。精いっぱい努力してきた人生にはこんな素敵なご褒美があるのかもしれません。

 

 

 

 

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