政治・経済

70歳でテラモーターズに入社した吉田康憲氏

70歳でテラモーターズに入社した吉田康憲氏

気鋭のベンチャーがシニア人材を採用した理由

 電動バイクでグローバル市場への展開を図る気鋭のベンチャー企業、テラモーターズ。技術力を武器にした本格的なベンチャーとして、世間の注目度も高い。43歳の徳重徹社長が率いる同社は、社員の平均年齢が30・3歳という若武者軍団。その勢いあふれる企業に、70歳の技術者、吉田康憲氏が入社した。

 吉田氏は以前、日産ディーゼル工業に勤務し、タイやインドネシアで現地工場の立ち上げに携わるなど海外経験が非常に豊富。定年後は雇用延長し、Nissan Diesel Thailandの副社長も務めた。東南アジアをはじめとする海外市場の攻略を掲げるテラモーターズにとって、吉田氏の持つノウハウは魅力的だ。

 徳重社長は、「70歳になって、生活環境の厳しいアジアにもう一度駐在して、仕事にコミットしようという人はなかなかいない。タイ6年、インドネシア6年という、海外における生産のプロである吉田さんの経験、ノウハウ、知恵がまさに今、テラに必要となっている。ぜひとも、若人に熟練パワーを見せてほしい」と、期待を込める。

 とは言え、やはり70歳の技術者とテラモーターズのような新興企業の組み合わせは異色に映る。吉田氏は入社してすぐに、「慎重に物事を決める大企業と違って、テラモーターズではある程度の見通しが立った段階ですぐに走り出す」と、意思決定の速さに驚いたという。

 吉田氏が海外経験を豊富に積んでこられたのは時代背景もある。同氏が生産技術のエンジニアとしてキャリアをスタートさせた当時、日本では高度成長が始まり、東南アジアにおいても車両生産の現地化の動きが進んでいた。旺盛な需要に対応するべく吉田氏は世界中を駆け巡り、ビジネスで訪れたのは、これまでに30カ国以上に及ぶという。日本人として、海外でのモノづくりに本格的に取り組んだ最初の世代だ。

 そうしたキャリアを通じて得たノウハウを後進に託したいと考え出したのは、つい最近だと吉田氏は語る。

「自分のやってきたことを全部出し切って積み残したくない」

 そんな心境になった時、たまたま知人を介して出会った徳重社長と意気投合。いつの間にか就職まで話がトントン拍子に進んだという。

徳重徹(テラモーターズ社長)

徳重徹(テラモーターズ社長)

「シニア」と「ベンチャー」は相性が良い

 高齢化社会を迎え、年金支給開始年齢も引き上げに向かう中、定年後も働くことを希望する高齢者は増えている。しかし、今のところ、高齢者を積極的に雇用しようとする企業は少ない。

 ならば、自ら起業するという選択肢ももちろんあるが、

「高度成長期は海外拠点の設立や他業種への冒険などを通じて、サラリーマンも起業家精神のようなものを発揮できていた。われわれ世代はそれで満足だったし、今から全く新しい事業を立ち上げてリスクを負う理由がない。起業やベンチャーは若い世代に託したい」と、吉田氏は説明する。恐らく、多くの高齢者は同じような考えを持っているのではないだろうか。

 だからこそ、ベンチャー企業と高齢者の組み合わせは非常に相性が良いとも言える。

 ベンチャー企業の多くは、最初は旺盛なアイデアと挑戦意欲で突っ走るが、本格的な生産段階を迎えると、これを担う人材がどうしても不足しがちだ。しかし、優秀な若い人材は大企業志向でなかなか採用できず、採用できたとしてもモノづくりが始まれば経験不足から行き詰るといった状態に陥りやすい。実際、テラモーターズでも、初期の頃は人材発掘に相当な苦労を重ねてきたようだ。

 高齢者の多くは、現役マインドが突出しすぎていないという点もポイントだ。吉田氏はこう言う。

「定年後、雇用契約を延長して65歳ぐらいまでは企業に対する忠誠心もあるし、経験をトランスファーするというよりは、まだまだ自分自身でやろうとする意識が強い。私も70歳になるまで、現役マインドが抜けきれなかった。しかし、今は意識が変わって自由になれたという思い。だらだら何年もやるのは私にとっても会社にとっても非効率的なので、トランスファーは1~2年で終えたい」

 自ら先頭に立つというより、あくまでも若者の支援と、不足している部分の埋め合わせに徹する姿勢である。

 そして、「私はさまざまな体験をしているが、何か資格を持った専門家ではない。働く人の大部分は、私のようなサラリーマンで終わる。しかしその人たちは在籍した企業で相当な経験を積み、貢献してきている。これは、テラモーターズのようなベンチャーに最も欠けている部分。私と同じような人は数多くいるので、マッチングはたくさんできると思う」とも話す。

 不況によるリストラなどで社員の年齢構成が変化し、技術の伝承が危ぶまれる日本企業。リタイアした技術者が、韓国や中国など海外に流出するケースも増えている。こうした問題を解決するためにも、あふれている定年退職組を活用する手法は一考の価値があるだろう。

 日本では高齢化と低出生率によって、労働人口構成の変化は今後も避けられない。その中で、最も効率を発揮できる労働者の構成はどのようなものか、試行錯誤は続く。テラモーターズの試みは、他のベンチャー企業にとってもロールモデルとなるかもしれない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る