政治・経済

 外資系ホテルの進出で競争が激化しているホテル業界だが、その中で帝国ホテルは「日本の迎賓館」としてのDNAを代々継承し、その矜持を示し続けている。そして今春、帝国ホテル東京総支配人の定保英弥氏が社長を兼務する新たな体制をスタートさせた。定保社長に、同社の今後の展開について話を聞いた。

さだやす ひでや

【さだやす・ひでや】
1961年東京都出身。84年学習院大学卒業、同年帝国ホテルに入社。2008年帝国ホテル東京副総支配人兼ホテル事業統括部長、09年取締役常務執行役員 帝国ホテル東京総支配人を経て、13年代表取締役社長・帝国ホテル東京総支配人に就任。

政権交代を機に徐々に回復基調へと語る定保英弥氏

―― 足元のビジネスの状況をどのように見ていますか。

定保 昨年より、私どもの業界にとっても流れは非常に良くなっている状況です。特に円安や、一部の東南アジアの国に対するビザの緩和等も実行されていますので、お陰さまで外国人のお客さまが大変増えてきています。数だけを見ると、ようやく東日本大震災の前の水準に戻ってきたという言い方が正しいのかもしれませんが、外国人のお客さまのご利用が増えてきていることは確かです。

 それから日本の経済の状況も明るい方向に向いている中で、昨年は東京スカイツリーの完成、今年は富士山の世界遺産登録、歌舞伎座の新オープン、さらに東京ディズニーランドの30周年もありまして、国内のレジャー関係のお客さまも非常に活発になっています。ですから、今はいろいろな要素がうまく絡み合って、宿泊の稼働率がかなり上がってきている状況です。

 さらに2020年の東京オリンピックが、われわれの業界の背中をさらに押してくれると思いますし、そういった意味で非常に楽しみです。また、消費増税への対策にもうまくつながっていくと思います。

―― オリンピック招致と消費増税対策がつながるとのことですが、消費増税の影響は。

定保 瞬間的、心理的に増税の影響が全くないとは言えないと思います。しかし私どものホテルの場合は、お陰さまで古くからご利用いただいているお客さまに大変ご支援をいただいております。その方々は私どものサービスを期待されて、お泊りいただいたり、食事をしていただいたりしております。料金が上がるどうのこうのというよりも、サービスへの期待度が非常に高いですから、われわれとしては従来通りにサービスを維持、さらに向上させて、きちんとおもてなしできていれば、お客さまの心理としては数%の増税はそんなに大きくないと思います。今までも何度か消費税が上がるタイミングがありましたが、数字的に大きな影響はありませんでした。

―― 外資系ホテルの進出が相次いでいますが。

定保 正直、競争は厳しくなっていますし、営業的には大変ですが、世界展開されている有名な5つ星クラスのホテルがそれだけ東京に出揃ったということになります。ホテルの顔触れとしては、東京もようやくニューヨーク、ロンドン、パリと同じレベルになったと思います。それこそオリンピックなど大きなイベントをお迎えできる体制が東京としても整ったのだと思います。そういう意味では本当に大歓迎ですし、新しい外資系ホテルが進出すれば、われわれ業界内もサービスを向上することを考えますし、新たに投資をしながらレベルを上げていく努力をしますから、良い面がかなりあると思います。

 一例として、帝国ホテルが開業してから今年は123年ですが、3年前に120周年を迎える時、2003年から09年まで6年かけて180億円を投資し、特に本館の客室、レストラン、調理、バックスペース関係を全部改修しました。その際に新しく外資系ホテルが出てくるニュースが飛び込んできたため、当初の計画に加えて、もっと充実させることにし、グレードをさらに上げることができました。良い面は良い面でわれわれも勉強しながら、さらに充実を図っていきたいと思っています。

定保英弥氏の思い 次世代を中心に帝国ホテルファンの拡大を図る

―― 競争が激化する中、帝国ホテルの強みは何でしょうか。

定保 当社は、1890年に明治政府が進める欧化政策の一環として、日本の迎賓館としてスタートしたホテルであり、そのDNAがお陰さまで脈々と引き継がれてきていると思います。

 去年、IMF・世界銀行年次総会をお手伝いさせていただいた時、総会に準ずる重要会議や会合はほとんどすべて私どものホテルで開かれました。貸切状態が何日間も続くなど、今まで経験しなかったことがあり、やったことがないような準備もいろいろとやりました。それでもしっかりと本番を迎え、何事もなく成功裏に終えることができたのは、スタート時のDNAが残っている証拠だと思います。

 逆に課題と言えるのが、次世代のお客さまの開拓です。よくご利用いただいているお客さまは、会社を運営してらっしゃるオーナーの方、医師の方、東京の上場企業のトップの方で、やはり60~70代の方が多いです。次の世代の「帝国ホテルファン」をいかにつくっていくかが大きな課題だと思います。

―― 帝国ホテルファンということでは「インペリアルクラブ」も60代の方が多いのですか。

定保 そうですね。リピーターであるインペリアルクラブ会員の方は5万人余りいまして、この方々の平均年齢は60代です。しかしご利用頻度は大変高いです。宿泊の売り上げの3割から4割近くはそのゾーンの方々にご利用いただいており、非常に重要です。ですから、それを次の世代にうまくつないでいかなくてはいけません。

 そのために、「インペリアルクラブグレース」という婚礼実績者を対象とした会員組織があります。東京、大阪で結婚式を挙げた方々が自動的に入会できる組織で、現在3万5千人近くまで拡大し、会員のご利用金額も少しずつ増えてきています。帝国ホテルの良さをその世代の皆さまに知っていただく仕掛けをどんどんやっていかなくてはいけないと思っています。

20131112_17_2―― 社長と東京の総支配人を兼務されていますが。

定保 これだけ大きなホテルですから、本来は社長がいて総支配人が別にいるという形がベストであるかもしれません。しかしホテル業の経営は、お客さまの声というか、現場の声が経営に直結します。総支配人を兼務していることは、大変なところもありますが、経営のヒントにつながる生の声を総支配人として直接聞けますから、それを東京のみならず大阪、上高地を含めた帝国ホテルの経営に生かしていく意味では利点も多数あると思っています。

 総支配人を4年やっていますが、社長になってお会いするお客さまの数と幅が増えました。企業のトップの方々とお話しさせていただく機会もかなり増えてきておりますので、自分にとって勉強になりますし、お会いすることによって、帝国ホテルのファンをどんどんつくっていけると考えています。

―― 今年、上高地帝国ホテルは80周年ですが、節目のイベントは予定していますか。

定保 大きなイベントは120年が終わったばかりですので、全社を挙げた計画にはございません。しかし、上高地では、80周年を冠にした宿泊商品やお土産関係を充実させたりしています。また、東京については、現在の建物の前の2代目本館であるライト館が竣工して、ちょうど90年になります。フランク・ロイド・ライトという有名な米国の建築家が遺したホテルということで、9月から館内各所でいろいろなご紹介をさせていただいたり、特別な宿泊商品を用意したりしています。また、ライトにちなんだデザインのサンドイッチや、特別なカクテルなどの商品も提供しています。それであらためてお客さまに来ていただく機会を増やしたいと思っております。

定保英弥氏の戦略 代々引き継がれる人材の育成を推進

―― 今後の目標は。

定保 自身のミッションとしましては、やはり営業力を上げることと、帝国ホテル全体のサービスの質を上げていくことです。そのためには、人材の育成が非常に重要です。社会人として、ホテルマンとしてのレベルをいかに上げていくかだと思います。

 人材をきちんと育成してレベルを上げていけば、サービスの質も上がり、お客さまの数も増えます。お客さまの数が増えれば、売り上げも増え、利益も確保できるので、また施設改修や人材育成に再投資できます。この理想的なサイクルをしっかりと回すことが非常に重要であり、その土台となる人材育成を頑なに進めていきたいです。そうすれば、外資系との競争にも勝ち残っていけると思っています。

 ご宿泊いただいているお客さまの数は、年間平均において以前は約半分が外国人で、半分が日本人でした。震災直後は外国人が2割近くまで落ちました。今はお陰さまで外国人が少し戻ってきていて、ようやく6対4に近づきつつあります。将来を見据えますと、10年、20年というタームでは日本人の人口は減っていきますから、外国人のお客さまの数と割合をもう少し上げていきたいと思っています。以前の外国人比率50%が、1つの営業的な目標です。

―― 人材育成について求められるホテルマンとは。

定保 これは普遍だと思います。帝国ホテルには9つの行動基準があります。まずは「挨拶」「清潔」「身だしなみ」。これは社会人としての1つのベースかもしれません。次に「感謝」「気配り」「謙虚」、そして最後に「知識」「創意」「挑戦」。この9つの実行テーマは新入社員が入社した時に最初に時間をかけて教えるテーマです。この9つをきちんと実行できるかが、われわれが考えるホテルマンに求められる要素だと思います。これは代々引き継がれてきますし、これからもそうだと思います。

(聞き手/本誌・村田晋一郎)

 
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