政治・経済

産業競争力強化法による石油業界の再編が進もうとしている。国際競争力の低下を危惧する経済産業省が半ば強引に押し進めている格好だ。独自の生き残りが難しくなった各社の関心は、既にどのような企業の組み合わせになるかに移っている。

茂木敏充経産相

経産省の主導で石油業界の再編が進む(写真は茂木敏充経産相、Photo:時事)

石油業界に激震 基幹産業が空洞化する恐れ

 石油元売り業界に激震が走った。いや、来るべき時が来たと言うべきか。経済産業省が産業競争力強化法50条による石油業界の再編に乗り出したのだ。

 今年1月に施行したばかりの法律を初めて石油業界に適用し、各社に大胆な合理化を促す。それは企業単独にとどまらず、異なる企業間での製油所統合、さらには企業の合併・統合までもが明確に目標に定められた。各社は独自の成長戦略を描き、単独での生き残りも模索しているが、もはやそれも許されない状況に追い込まれた。

 内需減退で慢性的な供給過剰状態に悩む石油業界は、既に政府の「エネルギー供給構造高度化法」に則り、3月末までに複数の製油所を閉鎖、または主要な石油精製設備(常圧蒸留装置)を廃止した。原油処理能力は過去10年のピークだった2008年4月比で約2割削減された。高度化法の新たな目標設定に向けて現在、経産省内で議論が進んでおり、今夏には具体的な項目が固まる。そこには企業間の製油所同士の連携を高く評価する措置も盛り込まれる上、税優遇や補助金などで場所が離れた製油所同士でも連携しやすくするなど、経産省はあの手この手で再編を進めようとしている。

 だが、もはやそれだけでは不足とばかり、突如、罰則や勧告も課せられる産業競争力強化法の適用を繰り出した。これから6月末までをめどに各社の供給体制や市場調査を実施し、これを元に他社との連携などを含む合理化計画の提出を求める。

 そもそも高度化法の狙いは、原油から付加価値の高いガソリンや軽油などの成分をより多く取り出せる「重質油分解装置」の装備率を、アジア(韓国、台湾、シンガポール)平均値まで高めること。だが、企業にとっては膨大な設備投資をして装備率を高めたところで、内需が縮小する日本では売れるあてがない。高度化法の目標値を達成するには事実上、装備率の分母となる常圧蒸留装置を削減するしか手がなかった。

 日本の製油所はアジア諸国に比べ規模が小さく、国際競争力で大きく引けを取る。今後、縮小する国内のパイを奪い合うことで企業体力がさらに消耗し、事業撤退が繰り返されれば、石油精製という基幹産業が空洞化しかねない。

石油業界の再編で、経産省の実績づくりの思惑も

 こうした事態を避けるためにも業界再編を促し、1社当たりの競争力を強化するのが経産省の狙いだ。もちろん、企業側からは「民間に対する官の過剰な介入だ」との反発も上がった。米国のエクソンモービルが日本から撤退したのも、高度化法が理由の1つとささやかれている。だが、結果的に大きな再編劇は10年のJXホールディングス誕生以降、起きていない。わずかに、売り上げ規模で業界3位の東燃ゼネラル石油が同7位の三井石油を買収した程度。製油所でも東燃ゼネラル子会社の極東石油工業とコスモ石油の千葉製油所が、千葉県市原市内で近接しているというロケーションから、統合の検討を始めただけだった。

 そればかりか、各社は独自の生き残り策を相次いで打ち出した。業界トップで経営統合に積極的なJXは別として、特に再編への主導権争いで後手に回りかねない中位集団は、会社規模拡大のための投資や提携を加速。業界4位のコスモ石油は筆頭株主であるアブダビの国際石油投資会社(IPIC)にすり寄り、産油国との連携を深めて存在感を上げる手に出た。1月にはIPICの仲介で、IPIC投資先であるスペインの大手石油会社と業務提携を決めた。さらにコスモは稼ぎ頭の石油開発事業を再び分社化し、将来の持ち株会社制移行の検討も始めた。

 業界5位の昭和シェル石油は前社長の新井純氏を子会社の社長に転出させ、権限を香藤繁常会長兼グループCEOに集中。これと前後して太陽電池の新工場建設や米国での現地生産の検討開始、バイオマス発電所の建設など非石油事業で相次ぎ布石を打った。東燃ゼネラルも三井石油の買収に加え、海外での製油所運営やガス火力発電事業への参入をうかがう。

 こうした動きの背景には、いずれ再編や統合が避けられない事態に直面した際、少しでも企業規模や企業価値を高め、交渉で優位に立ちたいという思惑がある。だが、経産省から見れば再編に後ろ向きとしか映らない。しかも経産省にも個別の事情がある。「アベノミクス」の第3の矢と呼ばれる民間の成長戦略が、いまひとつ成果を上げていないことだ。ある学識者は「石油精製という基幹産業で、1つの実績をつくりたいと焦っているんじゃないか」と勘ぐる。

 業界の関心は既にどんな企業の組み合わせになるかに移っている。業界2位の出光興産は独特の社風が他社と相いれにくく、同社の首脳が「うちはどうして嫌われるのかな」と冗談交じりで嘆くほど。再編とは距離を置くことになりそうだ。となると、焦点は中位集団の動きだ。統合を繰り返し巨大化してきたJXの傘下入りを選ぶのか、あるいは中位集団同士で手を組むのか、はたまた第3の選択肢があるのか。合理化計画の提出が求められる年内にも、難しい決断を迫られることになる。

(文=ジャーナリスト/後藤隆弘)

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