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製薬業界にまたも再編機運、最大手ファイザーが号砲

イアン・リードCEO氏

米製薬大手ファイザー製薬が英アストラゼネカに仕掛けた買収劇は白紙に戻った。ただ、同時期に欧米メガファーマが大規模な事業スワップを実施するなど、業界全体の動きが慌ただしくなっている。近年、海外M&Aに積極的な日本勢の出方にも注目が集まる。

イアン・リードCEO

ファイザーのイアン・リードCEO(Photo:AFP=時事)

ファイザーが10兆円の巨額オファー

 製薬業界に再び、再編の機運が高まっている。

 今年4月、製薬世界最大手の米ファイザーが、同8位のアストラゼネカに対し、水面下で買収提案していたことが明るみに出た。ファイザーがアストラゼネカに提示したのは、現金と株式を合わせて総額1010億ドル。しかし、現在の円レートで10兆円を超えるこの提案を、アストラゼネカ経営陣は拒否した。

 ファイザーは、米ワーナー・ランバート(2000年)、米ファルマシア(03年)、米ワイス(09年)と、10年間で実に3度にわたる大型買収を繰り返して、現在の地位まで上り詰めた。

 そんなファイザーが食指を動かしたのだ。同社は終始、敵対的買収に踏み込む可能性を否定してきたが、アストラゼネカ経営陣は、最終的にはファイザーが約1200億ドルまで引き上げた巨額のテンダーオファーに対し、最後まで首を縦に振らず、提案から1カ月がたった5月26日にいったん、この話は期限切れを迎えた。

 こうした流れは明らかに、これまでの製薬再編とは様相が異なっている。

 ファイザーがアストラゼネカに初めて接触を図ったのは、昨年11月頃のこと。だが、アストラゼネカ経営陣が取り合わなかったため、4月中旬に水面下での交渉を打ち切り、買収提案を公にした。5月に入るとファイザーは、買収額をさらに約1060億ドルに引き上げた。だが、アストラゼネカ経営陣は、なおもこの提案に首を縦に振らなかった。

 このあたりから、米英メガファーマのトップ同士の舌戦は過熱してくる。ファイザーのイアン・リードCEOが「まずは交渉のテーブルにつくべき」とアストラゼネカ経営陣の取り付く島もない姿勢を批判すれば、同社のパスカル・ソリオCEOもファイザー側に「どんな提案であっても拒否すると言っているわけではない」と含みを持たせた。

 ファイザーがアストラゼネカ買収で狙っているのは、単純な規模拡大ではない。確かに両社の合併が実現すれば、売上高700億ドルを超え、2位以下を大きく引き離すことができる。だが、1製品で数十億ドル以上を稼ぎ出し、しかも利益率も極めて高い大型新薬の時代は終焉しつつある。規模の追求を通じて巨額の研究開発投資を捻出し、次の大型新薬を生み出すというビジネスモデルは、もはや時代遅れだ。実際、ファイザーはここ数年、自前での研究開発投資を大幅に減らし、その代わり株主還元に力を入れることで株価浮揚を図ってきた。

 そんなファイザーがアストラゼネカ買収で狙っているのは、同社が持つ有望ながん免疫療法剤といった開発資産の獲得に加え、拠点の統廃合や人員整理など、合理化の余地が望める相手と判断したからだ。

 さらに言うと、米国の高い法人税に嫌気が差し、M&Aにかこつけて米国外に本社を移転する目論見があったからでもある。

 米国の法人実効税率は、連邦税と州税を合わせると40%にも達する。これは日本の35%よりも高く、15年4月には20%まで引き下げられる英国(現在は23%)の倍という、比較にならない高税率と言える。英国への移籍で「タックス・インバージョン」(課税逆転)を図ることが、アストラゼネカ買収の真の狙いと言われているのだ。

製薬業界の「選択と集中」から見える再編の動き

 ファイザーの買収提案は5月26日に期限を迎え、白紙に戻った。半年以内に交渉再開の余地を残すものの、1200億ドルの巨額買収が失敗した理由のひとつには、国内で大量のレイオフが行われることを警戒した、英国議会の介入もあったためだ。

 だが、アストラゼネカが一部株主の不満に直面しながらこの巨額オファーを袖にしたのは、ファイザー流の合理化や節税策を通じた短期的な収益確保に対する疑念も背景にある。

 米英2社の巨額案件が進行していたほぼ同時期に、欧米メガファーマ3社による大掛かりな事業スワップも実施された。英グラクソ・スミスクラインの抗がん剤事業とスイス・ノバルティスのワクチン事業を現金対価も含めて交換し、さらにノバルティスは米イーライリリーに動物薬事業を売却するというものだ。

 また、皮膚科薬事業などに特化するカナダのバリアントが、しわ取り注射などの美容事業で知られる米アラガンへの敵対的買収に踏み切った。これらの動きは、自社の得意とする領域に経営資源を集中投下する「選択と集中」への回帰だ。

 ここ数年、日本勢では、例えば第一三共が08年にインドのランバクシーを連結子会社化。武田薬品も11年にスイスのナイコメッドを買収し、新薬とジェネリックという、多様化路線に舵を切った。だが、周知のとおり両社とも買収後に海外子会社の統治に手を焼き、第一三共は今年ついに、ランバクシー事業をインドの同業他社に譲る決断を下した。武田薬品も、グループのガバナンスを外国人社長に委ねるという荒療治に踏み切った。

 ファイザーが号砲を鳴らした新たな製薬再編の動きに、日本勢はどう対応するのか。さらなる国内企業同士の合従連衡の可能性を含め、関心が高まる。

(文=ジャーナリスト/上島剣)

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