マネジメント

 グループ全体で1千人以上の女性管理職を登用する野村ホールディングス。現在2人いる女性執行役員のうちの1人である中川順子氏は、同社では初の女性執行役員として2011年に財務統括責任者(CFO)に就任、現在は内部監査担当の執行役員として活躍を続けている。

 一般職での入社からキャリアを積み上げてきた中川氏だが、途中で一度退社し、野村グループの子会社に復帰した後に現在の地位まで上ったという異色の経歴の持ち主でもある。同氏はどのような姿勢で仕事と向き合い、ステップアップしてきたのだろうか。

 

中川順子

中川順子(なかがわ・じゅんこ)
1988年神戸大学文学部卒業後、野村証券入社。奈良支店勤務の後、人事部、主計部、財務部などを経て、2004年に一度退社。08年に野村ヘルスケア・サポート&アドバイザリーに入社し、同年社長に就任。10年野村ホールディングス共同副CFOを経て、11年執行役CFOに就任。13年4月より現職。

中川順子氏の経歴―退職してから異例の復帰へ

 

-- まずは、経歴からお願いします。

中川 1988年に、一般職で奈良支店に入社しました。当時は大卒の女性社員自体が少なく、高卒の方や短大卒の方が多かったですね。彼女たちも同じ仕事をしていました。

-- 当時からキャリア志向は強かったのですか。

中川 想像はしていましたが、1つの会社でキャリアアップするとは考えていませんでした。会社の制度のことをよく知りませんでしたし、モデルケースになるような女性の先輩もいませんでしたから。もちろん、支店の業務にも長く在籍していた方はいましたが、結婚して退職する方がまだ多い時代でしたね。

-- 88年と言えば、男女雇用機会均等法が施行された2年後ですよね。当時、女性登用に対する会社の姿勢はどうだったのでしょう。

中川 会社としては、国の施策と同じかそれ以上のレベルの制度を導入しようとしていた時期です。私は職種転換制度を使って奈良支店から人事部に異動したので、そこで女性登用のためのさまざまな制度づくりを行っていたことが記憶にあります。野村では、早い時期から女性の登用を進めようという意識はあったようです。その後投資銀行のセクションに異動になり、9年ほど勤め、それから財務部門に異動しました。一番長いキャリアは投資銀行業務ということになります。

-- その後一度退職して、香港に行かれているんですよね。

中川 はい。仕事を続けてきたのでとても残念に思いましたが、どうしても仕事か家庭かを選ばなければいけない状況になったので。キャリアを断念することに対しては、正直なところ不安もありましたし寂しくもありました。

-- その後4年間は専業主婦だったのですか。

中川 そうです。ただ、海外に初めて住むことになって、せっかくなので地域のことや社会の仕組みなど、全然違う世界を見てみようと思いました。4年後に野村の子会社である野村ヘルスケア・サポート&アドバイザリーに採用されることになりましたが、その会社が今で言うヘルスケアリートのような、病院や介護施設にアセットの活用などのアドバイスすることが多かったので、不動産売買が活発な香港に住んでいた経験は、すごく生かされました。

-- 再就職した経緯はどのようなものだったのですか。

中川 会社に愛着はありましたが、復職の制度があったわけではなく、予見があったわけでもないんです。ただ、人のつながりは大事にしようと思っていたので、香港に行ってからも会社の方とたまにですが連絡だけは取り続けていました。その後日本に戻ってきてしばらくたって、以前の会社のつながりから人づてで再就職の話を頂いて、ありがたく受けさせていただきました。

-- 再就職したときは、一からキャリアを積み直す感覚だったのですか。

中川 医療や介護業界のことは入社後に勉強しましたが、野村グループのことは多少なりとも分かっているつもりだったので、自分がやれることはあるだろうなと。過去のキャリアを考えても、どちらかと言えばマネジメントのサポートをする仕事が多かったので、そこを評価していただけたのかなと思います。

-- 会社の制度を利用してステップアップしたというより、ごく普通に人間関係などを大事にして進んできた感じですね。

中川 そうですね。それを良しとしてくれる会社も柔軟性が高いと思います。もし、再雇用の制度を利用してという流れだったら、今のようにはなっていない気がします。

中川順子

 

中川順子氏が内部監査担当者として意識していること

 

-- 自分の一番の強みは何だと思いますか。

中川 特に秀でているわけではないですが、人をつないでいけるのは、周囲のお陰でもありますが、私の1つの個性かなと思っています。また業務で心掛けているのは、必ず決断するということ。私に迷いがあると部下が大変ですし、あらゆる可能性は想定しますが、道が1つしか選べないときの決断力という点は、強く意識しています。

-- CFOの重責を担った時の気持ちはどうでしたか。

中川 会社を取り巻く環境が非常に厳しい時だったので大変でしたが、私が指名されたということは、私なりのやり方で何かやれということなんだろうと受け止めました。相当厳しい任務だとは思いましたが、それを経験できる機会は誰しも与えられるわけではないので、ありがたいとも思いました。

-- 会社によっては、話題性を狙って女性を登用するケースもあると思います。

中川 そういう感じはなかったですね。今年、野村信託銀行の社長に就任した眞保智絵さんの場合もそうですが、メディアが多く取り上げるので、会社としても驚いているかもしれません。私も「女性だから」という意識は特に持っていません。

-- 内部監査担当役員としての目標は。

中川 今のセクションでは、会社を客観的に見ることが求められますが、できれば業務を通じて、自然と皆が意識してもらえるような形で、会社の統制を強くするような仕掛けも行っていきたいと思います。

 財務の時は数字を通して会社を把握する立場でしたので、ある程度全体が見えていないといけない。その経験がなく今のポジションに来たら、業務の理解度やスピードは遅くなっていたと思います。逆にそういう経歴の人間を内部監査に置くというのは、会社にとっては緊張感があることだと思います。

 そして、チームのメンバーには、業務知識も大事だけど人間力も高めましょうということを伝えています。内部監査担当者として、聞く力や話す力といった何かを感じ取る力を総合的に高めることが必要ですから。

 

企業には女性登用にもう1歩だけ踏み込んでもらいたい

 

-- 経団連の企業行動委員会で女性の活躍推進部会長も務められていますが、日本企業の女性登用の現状について、どんな問題意識を持っていますか。

中川 企業の方は既に女性の登用の重要性について強く認識されています。よく出る話は人口減の影響ですが、今や、女性だけでなく外国人も含めた人材の多様性の大切さを認めているので、その1つとして女性活躍の重要性はしっかり認識されています。

 課題を挙げるとすれば、例えば、会社の中堅層に女性の部下を多数抱えた経験がまだ少ないというところです。男性社会でかつては部下のライフスタイルにバラつきがなかったのに、その幅が広がるわけです。だから、研修などでロールプレイングなどをもっと増やしたほうがいいという声は聞きます。

-- 大企業では、制度面はかなり改善されてきましたが。

中川 現在は、制度構築というハードの面から、制度の使い方や生かし方などソフトの面にウエートがシフトしている気がします。ただ、日本全体で考えると、そもそも昇進に積極的な女性がまだ少なかったり、理系に進む女性が少なくて企業が採用できなかったりという問題が残っているので、仕組みの部分での改善ももう少し必要かなとは思います。

-- 女性ならではの強みとは。

中川 女性であること自体が個性で、環境などにもよるのでしょうが、あまり会社内のヒエラルキーに強く固執しないというか、1つの会社の中で偉くなる以外のルートも考えられるという、ある意味独立心が強い人が多い印象です。新たな発想を気負いなく出せたりするのも、女性であることの1つの強みだったりするのかなと。

-- 企業に改善を望むとすればどんな点ですか。

中川 例えば、この仕事は女性は無理かなという場合でも、少し柔軟にいろんなことを考えてほしいと思いますし、働く側の意識も少し手を掛けることによって変わると思いますので、研修など気付きを共有するネットワークづくりに、力を入れてほしいと思います。

 女性のキャリア意識がなかなか上がらないということも確かに言われますが、企業の方々にはそこをもう少し踏み込んでみてくださいとお願いしています。管理職の男性が辛そうだから自分はなりたくないというケースもありますが、管理職になると良い面もあるという、男性がある意味暗黙知として共有している部分を女性も持てればいいと思います。

(聞き手=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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