政治・経済

中村伊知哉(慶応義塾大学メディアデザイン研究科教授)

中村伊知哉(慶応義塾大学メディアデザイン研究科教授)

日本に求められるコンテンツと他産業の連携

 コンテンツ産業は、安倍政権の成長戦略の柱の一つになっている。しかし、私がこの分野で政府とかかわりを持つようになった当時は、そもそもコンテンツという言葉すらなかった。1993年ごろにマルチメディアブームがあったが、テキスト、映画、音楽、ゲームなどのエンターテイメントの情報は、それぞれがバラバラの産業だった。

 ところが、コンピューターやインターネットの進展でデジタルの伝送路は一つになっていくことが明らかになってきたので、それらをまとめる行政とか言葉が必要だと議論を始めたのが20年ほど前。このデジタル化の流れを受けて、政府は関係する各省に政策を組み立てさせ、知財本部を作り、コンテンツの議論を始めたのが10年ほど前。私が知財本部の調査会長をお引き受けしたのが4年前だ。

 そのころから、コンテンツ業界をただ支援するだけではなく、ITのインフラの整備も必要だし、市場を海外に求める「クールジャパン」に力を入れようという機運が高まった。

 従来のコンテンツ政策は、コンテンツ産業を元気にすることを目標にしてきた。だがコンテンツ産業全体を見ると、ゲーム業界を除き、このところ国内市場は縮小傾向にある。

 少子化が進むと必然的にそうなるわけで、対策としては、コンテンツ産業を海外への切り込み役にし、その波及効果で日本の産業全体を元気にしようということが一法だ。韓国が狙っているのもこれで、韓国ドラマやK―Popを海外に普及させることで、家電や自動車などを戦略的に売ろうと考えている。

 特に日本から海外に進出しているのはマンガ、アニメ、ゲームが御三家。政府もコンテンツ産業に期待を寄せ、総務省、文部科学省、経済産業省、外務省などが支援策を講じている。政府の知財計画では、2020年までにデジタルコンテンツ事業を5倍に成長させるとしている。

 そこで私は、複合クールジャパン政策を求めたい。コンテンツと他業界との連携だ。エンターテイメントに家電、ファッション、食といった日本の強みを組み合わせ、総掛かりで海外進出を図ることである。

 これまで日本は国内市場が比較的大きかったため、こうした動きをあまりしてこなかった。だが講談社はインドで「巨人の星」のアニメをテレビ放送で流している。野球ではなくクリケットにし、その中でスズキや日清食品、ダイキン工業などの製品をうまく織り込んで日本製品をPRし、販促に繋げようとしている。そうした動きは各業界にも広がろうとしている。

子供たちに情報ツールに触れさせる取り組み

子供たちに情報ツールに触れさせる取り組み

日本のコンテンツパワーとクリエーティビティ

 最近、外務省は「ビヨンド・クールジャパン」、クールジャパンを超えていこうと唱え始めた。

 マンガ、アニメ、ファッションの個別領域を乗り越えた総合戦略が要るというわけだ。コンテンツという文化力と、モノづくりという技術力の両方を国内に持ち合わせている国は多くない。チャンスなのだ。

 昨年2月、米ソフトウエアメーカーのアドビシステムズが行った国際アンケート調査で興味を引く結果が出た。世界で最もクリエイティブな国はどこかという問いに対して、日本は2位の米国に大差を付けてダントツの1位だった。モノづくりとコンテンツや文化のクリエイティブの両面で、日本は世界から圧倒的な評価を得ている。

 同社は、自分の国は創造的と思うかという問いも同時に行っていて、ここでは日本が他を引き離して最下位。つまり、外からは評価されているのに、日本人自身は認識していないという結果だった。

 今年2月、米コンピューターネットワーク機器メーカーのシスコシステムズの調査によると、世界の携帯ユーザーの情報発信力比較で、日本人は世界平均の5倍の情報を発信しているという。

 日本人はシャイで表現下手とずっと刷り込まれてきたが、実態はどうもそうではないらしい。日本は失われた20年などと自国を揶揄するが、海外では逆にこの間に日本の文化や魅力が高く評価される結果となった。

 ハリウッドのコンテンツ産業は、トップの天才的クリエイターがすごい映画を作る。一方、日本のポップカルチャーの特長は、庶民の力だと思う。コスプレがここまで多く生まれたのは日本だけだし、お嬢様のようなロリータという格好は日本がメッカになっている。

 家庭の中で主婦が今日はパスタ、明日は中華といったように各国の料理を日替わりで作っているのは、日本くらいのもの。これらも日本人のクリエイティビティーの現れである。この一人ひとりの力を高めるのが、日本のコンテンツパワーを高める肝だと思う。

 そのためには、子どものときから情報ツールに触れさせることが必要で、ようやく政府は2020年までに小学校で1人1台のデジタル環境を実現することを決めた。学校を動かすのは大変なので、NPOで私は10年前から取り組んでいる。

 これまで海外への日本の情報は、日本好きの外国人がやってくれていた。今後は、これを日本人自身が行っていけばいいと思う。

 今や個人が情報発信する方法はたくさんある。自動翻訳ソフトも進歩するだろうから、皆で発信して行けば相当のボリュームになるだろう。何しろ日本人は情報発信力世界一という折り紙付きなのだから。 (談)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る