政治・経済

 人材サービス大手パソナグループの南部靖之代表は「働く中高年にとっての黄金時代がこれからやってくる」と説明する。社会構造の劇的な変化で働き方の多様化が進み、シニア起業の爆発的な増加が期待できるという。南部氏は新しい環境を生き抜くキーワードとして「意識改革」と「心の黒字」を掲げ、中高年層の奮起を求める。

 

【なんぶ・やすゆき】 1952年兵庫県出身。76年関西大学工学部卒業。大学在学中に主婦の再就職支援を目的とした株式会社テンポラリーセンター(現・パソナグループ)を設立。同社を人材サービス業界の大手企業に育てる。

【なんぶ・やすゆき】
1952年兵庫県出身。76年関西大学工学部卒業。大学在学中に主婦の再就職支援を目的とした株式会社テンポラリーセンター(現・パソナグループ)を設立。同社を人材サービス業界の大手企業に育てる。

「1億総社長社会」の到来で中高年の起業家増へ

 

―― 中高年層の働き方はどう変化するのでしょうか。

南部 高齢化と人口減少の加速で、将来的には年金制度や定年制がなくなる可能性が生じるでしょう。就業構造や社会保障制度をはじめ、社会基盤が大きく変化すると思います。「1億総社長社会」が到来し、自分で会社を興す人も増えるに違いありません。

 雇用と経済活動は密接なかかわりがあります。ですから、雇用に関する取り組みは本来、政府ではなく、経済界や国民の主導で行うべきではないでしょうか。福沢諭吉の「学問のすすめ」に書かれてある「一身独立して一国独立す」という言葉が重要になると思います。国民一人ひとりが強くなることで、結果的に国家が繁栄するということです。個人個人が元気に楽しく働くことのできる、中高年にとっての〝黄金時代〟が訪れるに違いありません。

―― 中高年世代は非常に元気になったといわれていますが、労働市場においても同様ですか。

南部 僕の同級生をみると、個人商店を営んでいる経営者は定年と無縁でバリバリと働き、趣味を楽しんでいます。反対に、会社勤めをしてきた人の多くは、くたびれているように見えます。人生のすべてを会社に預けて、社会との接触をゼロにしながら朝から晩まで身を粉にして働いてきたからでしょう。ある時同窓会で、疲れ切った顔をした友人に「仕事の口はないか」と尋ねられたことがありました。

 特に大企業の従業員は、安定した雇用に加えて、住まいや年金といった人生設計においても会社におんぶにだっこの状態が続いていました。皆が一律の労働条件で働き、それ以外の働き方は十分に認められない時代がずっと続いてきたのだから仕方ありません。

 しかし、今後は「自分の力を生かしながら楽しく生きる」という風に意識を変えないと、定年などで職を失った時に人生の目的も失ってしまうことになりかねません。給与や企業のブランドなどの物質的な豊かさだけではなく、生きがいを見つけて心の黒字をつくることが重要ではないでしょうか。

―― 労働市場はどのように変化するとみていますか。

南部 これまでは正社員だけが正義で、それ以外の非正規はなおざりにされてきました。そのため、労働規制を縛りに縛って強化してきたのです。本来、働く人の目的や価値観はさまざまです。個々人のライフスタイルに合わせて、働き方を自らが選択できる社会の実現が望まれます。

 今、政府は働き方に関して「雇用維持型」から「人材の流動化」へ転換を図ろうとしています。労働市場が流動化すれば、中高年は規制や慣習などのおりから解放されて、広い世界を知ることができます。おりの中にはないリスクが発生するかもしれませんが、自分のこれからの生き方を自由に選択できることが重要ではないでしょうか。

―― 労働政策の転換に不安を感じている中高年は少なくありません。

南部 好き嫌いにかかわらず、おりが完全に壊れ、皆が外に放り出されることは、時代の流れとして避けられないでしょう。当然、別天地を見ることになるわけですから、カルチャーショックを受けることになるかもしれません。

 しかし、おりの中で守られていた頃からの意識を改めて、新たな知識を身に付ければ、自由な世界においても十分生き残れることができます。特に団塊の世代とそれ以下の世代は、時代の変化に適応せざるを得ないでしょう。

―― 中高年のあるべき働き方とは。

南部 社会人として数十年間培ってきたものを生かして、ベンチャー企業を興すという働き方があってもいいと思います。中高年の多くは、アントレプレナー(起業家)としての才能を十分持っています。自分の裁量でビジネスを手掛けるというのは、大変魅力的ですよ。

「金の卵」として都会に集団就職した団塊の世代が「プラチナの鶏」になって、地方にUターンして事業を興すのもいいと思います。今はITが発達しているので、全国どこでもビジネスを行うことが可能になりました。地元で釣りや絵など好きなことをしながら、商売を行うも良し、ダブルキャリアで複数の仕事をするのも良し。ダブルキャリアでは、午前と午後、もしくは平日と土日で違う仕事をすることで、会社に依存しない生き方を送ることができます。

 中高年は若者に比べて、知識や経験、豊富な人脈、余裕資金を持っています。定年を迎えると、これに自由な時間が加わるわけです。楽隠居を決め込まないで、自分が納得できる生き方を追求してほしいですね。

 一方、中高年が働き方を改めるのにあたって一番問題なのは、起業や再就職などに関する知識や情報をほとんど持っていないということです。再就職にあたっては、履歴書の書き方1つ取っても戸惑うことが多いでしょう。当社のような就職支援会社ができることはたくさんあると思います。

 

パソナでは、シニア人材の派遣サービスを手掛けている(写真は研修風景)

パソナでは、シニア人材の派遣サービスを手掛けている(写真は研修風景)

中高年向けの起業家スクール開設を検討

 

―― 貴社の中高年支援の具体的な取り組みはどのようなものですか。

南部 起業家を輩出するためのビジネススクールをつくりたいと考えています。「一国一城の主になりたい」「大企業に埋もれたままでは嫌だ」といった願望を手助けしていきます。まさにドリームズカムトゥルー、夢はかなうということを受講生に実感してもらえるようにしたいと思っています。

 中高年がスキルを生かせるように、起業インフラの整備は欠かせません。イメージとしては座学に加え、ディスカッションや実技などを通じて受講生同士がつながりを持てるようにしたいですね。

 具体的には、知恵とお金を持っているシニアと、体力とやる気のある若年層をマッチングできるような仕組みをつくりたいです。企業経営では、人と人の組み合わせが非常に重要です。松下電器産業(現・パナソニック)を創業した松下幸之助さんには高橋荒太郎さんという有能なパートナーがいました。複数の異なる感性を経営に生かすことで、ビジネスがうまくいくわけです。スクールの開設時期は未定ではありますが、必ず実現したいですね。

―― 起業支援に加えて、中高年の再就職支援事業の戦略は。

南部 社内カンパニーの「パソナキャリア」で再就職支援事業を手掛けており、業界最大手のシェアを占めています。1年以内での再就職率は9割程度です。早期退職したご利用者が第2の人生を切り拓くための仕事探しを二人三脚でサポートしてきました。この事業は、社会への大きな貢献につながっていると自負しています。現在、成熟産業から成長産業への人材移動の重要性が指摘されており、当社も有望産業へのブリッジとしての役割を一層果たしていきたいと考えています。

「パソナキャリア」のご利用者の中には、企業への就職を希望しないで、起業される方や社会貢献をしたいとNPOを立ち上げる方がいらっしゃいます。再就職活動の過程で、志望が変わるケースがあるようです。こういったニーズに対応するために、従来の再就職支援に加えて、起業に対するサポートも強化していきます。

パソナグループ本部の「アーバンファーム」にて

パソナグループ本部の「アーバンファーム」にて

―― 環境が変化し始めているとは言っても、中高年労働市場の活性化は簡単にはいかないのでは。

南部 そんなことはありません。シニア起業や再就職に関連する市場が盛り上がるのは時間の問題です。

 ちょっとしたきっかけがあれば、ナイアガラの滝のように誰にも止められないくらい激しい流れが生まれることでしょう。そうすればいずれ「国民総社長」の時代がくるのではないでしょうか。恐らくそうなるのに、10年もかからないとみています。パソナグループが起爆の一助になれたらいいですね。

(聞き手/本誌・鈴木健広)

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