政治・経済

 東西で大型銀行が出現か――。安倍政権の成長戦略に盛り込まれた「日本版スーパーリージョナルバンク」構想をめぐって、早くもキナ臭い情報が浮上している。「関東と関西で大同団結的な金融統合が画策されている」というものである。

スーパーリージョナルバンクとは?

米国の銀行制度はかつて、厳しい州際規制があり、州ごとの法律で営業している地方銀行は他州への進出が禁じられていた。そこで、収益力のある有力地方銀行が他州の地方銀行を買収することで、規制の壁を突き破って他州へ進出。その結果、大型化した地方銀行がスーパーリージョナルバンクである。米国で誕生した広域地方銀行、スーパーリージョナルバンクをわが国でも実現しようという構想が、アベノミクスの成長戦略に盛り込まれた。

りそなグループ

「スーパーリージョナルバンク構想」の鍵を握るりそなグループ

スーパーリージョナルバンク構想でりそなが注目される背景

 実は、わが国でも小泉純一郎政権当時に同様の発想が頭をもたげた時期があった。都道府県を再編して、全国をいくつかの道州に分けるという道州制の議論がかまびすしく行われた際、都道府県別に存在している地方銀行を関東、東北、近畿、四国、九州、北陸といった広域で統合していくという論議が銀行業界でも行われたのである。地方銀行業界の中でも「道州制の研究」という名目の下、広域地銀化への駆け引き的な動きが一時、広がった。ところが、肝心の道州制議論がいつの間にか消え、広域地銀問題も見事に消え失せた。

 今回、成長戦略に「スーパーリージョナルバンク構想」が盛り込まれたことで、広域地銀化問題が再燃する可能性が否定できない。この構想を持ち込んだのは自民党の金融族議員たちだが、それ以前から金融庁では地銀再編が模索されてきた。 

 そんな情勢下で、早くも浮上し始めたのが関東、関西における同構想にほかならない。わが国の2大経済圏に根を張る大型の地域銀行をつくるという話だ。

 その中核に位置付けられているのは、三菱UFJ、三井住友、みずほの3大メガバンクに次ぐ第4位の銀行グループであるりそなグループである。

 りそなグループは、旧あさひ銀行、旧大和銀行を主な母体として2002年に誕生した。旧あさひ銀行は、中小企業をメーンマーケットとして全国展開していた旧協和銀行と、埼玉県発祥で関東圏に店舗展開していた旧埼玉銀行が統合した銀行。一方の旧大和銀行は、関西圏に強い地盤を有しており、やはり、全国展開していた都銀である。

 旧大和銀行は、旧住友、旧三和という格上の都銀を差し置いて、大阪府の財政をサポートするメーンバンク、指定金融機関の座に就いていた。しかも、大和銀行はりそな統合の直前期に旧近畿大阪銀行、旧奈良銀行を傘下に有する持ち株会社に移行していた。つまり、その時点において、大和銀行は近畿圏の広域銀行になりかけていたと言ってもあながち間違いではない。

 このスーパーリージョナルバンク問題を別にしても、りそなグループは今後の金融再編の主役級とみられてきた。3大メガバンクの中で、りそなグループを自らの陣営に招き入れたところが厳しい国内レースの勝者となることが歴然としていたからだ。現に最近でも、メガバンクの一角が、りそな経営陣に秋波を送ったという話が銀行業界では話題になっていたが、ある銀行幹部は「メガバンクによるりそなグループ接近の動きはストップした。その背景にあるのは、やはり、政府によるスーパーリージョナルバンク構想ではないか」と言う。

果たしてりそなグループの去就は?

 それでは、成長戦略とともに急浮上したりそな・広域地銀構想の実現性はどうなのか。ある大手銀行元首脳はこう語る。

 「可能性はあるだろう。なにしろ、かつて、関東では、横浜銀行が中心になって広域銀行化に向けた動きを強めたことがある。その時、横浜銀行はりそなの母体であるあさひ銀行に急接近し、かなり話は進展していた」

 それが実現しなかったのは金融危機の真っ最中にあって、あさひ銀行に対して、同様に接近していた旧東海銀行が統合交渉の主導権を奪い取ったからだったという。しかし、今でも横浜銀行など関東圏の有力地銀は、メガバンクの猛威を感じており、「地銀同士で争っている場合ではない」(中堅地銀)と事情は一段と深刻化している。

 それに比較すると、関西圏の事情は複雑だ。大阪圏の池田泉州は三菱UFJ系、兵庫県のみなと銀行は三井住友系というように、資本関係で結び付きが出来上がっているからだ。その上、「府県ごとにカルチャーの違いが鮮明であり、単なる経済合理性のみでは金融再編が誘発されにくい部分が存在している」と関西系地銀の幹部は漏らす。

 その一方では、「政府が政策として立案した以上、実現に向けた何らかの起爆剤が投下されるのでは」という推測も一部ではある。例えば、「広域化によるサービス向上を前提にして、税制優遇などのアメが提示されれば、全く無視することはできなくなる」(同)という声もある。

 しかし、何よりも注目されるのは、りそなグループの去就にちがいない。同グループは経営危機の際に注入された公的資金の完済が間近。そうした台所事情が同グループの経営陣にいかなる経営発想をもたらすのか。しかも、前期をピークとして、多くの銀行が今後、収益力を後退させる見通しで、競争激化は間違いない。少なくとも、わが国で最も話題となる銀行グループがりそなグループという局面が訪れる可能性は非常に高い。

(文=ジャーナリスト/中村義久)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る