

きのこセンターは年4億円を売り上げる村の拠点施設だ(上野村)
「活性化投資組合」が発足し、きのこセンターを6次産業化の中心に
群馬県の西南端、人口1350人の上野村が、村ぐるみで農林業の6次産業化に挑戦している。地域の資源を活用して同村は十数年前から、きのこの栽培や木質ペレットの製造、イノブタの生産などと取り組んできた。6次産業化を通じて、これらのシンボル事業を深掘りし、新規雇用の創出と地域産業の活性化を狙おうとしている。6次産業化を推進する独自の地域ファンドも動き出した。
6次産業化のための地域ファンドは、名称が「上野村活性化投資事業有限責任組合」(松元平吉理事長)で、2013年4月に発足した。基金は10億円で、農水省系の農林漁業成長産業化支援機構(A‐FIVE)と地元側(村、団体)が折半で出資した。
地域ファンドは現在、全国に33あるが、各地域の金融機関が組成したものがほとんど。上野村のように自治体主体のファンドは初めてで、6次産業化に取り組む同村の並々ならぬ意欲を伺わせる。
上野村のファンドは農産物や木工製品の加工力、販売力を高めようと活動する村内の農林業者に対し、資金面や経営面で支援する。具体的な事業計画はまだ検討中だが、神田強平村長は「キノコ栽培事業と木質系バイオマス発電事業がまず、ファンドの対象事業になりそうだ」と話す。
同村は1999年から椎茸や舞茸の栽培を村直営で手掛けてきたが、生産量が増えたため川和地区に13年3月、直営の新「きのこセンター」を造った。仕込み棟や出荷棟、培養棟、加湿抑制棟、オガ置場などから成る新鋭施設で、事業費は約11億8千万円。
センターで働く従業員は60人もおり、年間収穫量が507トン、年商規模が3億7千万円に達する村の基幹産業に成長した。このキノコ栽培事業をさらに発展させて雇用の場を広げ、村の人口増につなげようと村は計画している。
事業の拡充には新規販路の開拓と経営基盤の強化が課題となる。そこで、15年度をめどに経営主体を株式会社に衣替えし民間に移行させる方針を固めた。その際、新会社への出資と同時に、経営力強化、販路拡充のための各種支援措置を地域ファンドに要請しようと考えている。
6次産業化の一例 間伐材でペレット燃料バイオマス発電も浮上
上野村のもう1つの重要産業が林業だ。山林が村の面積の94%を占める同村は村の森林を伐採して丸太にし、市場へ出荷することで地域経済を支えてきた。その際、A級、B級の丸太は市場に出荷できるが、C級以下の等外品は売れず、間伐材として山の中に放置しているのが通例だ。
同村ではその間伐材を有効活用して木炭センター(木炭、木酢液の製造)や木質ペレット工場を直営で事業化している。このうち、ペレット工場はC級間伐材を原料にペレット燃料を作るもので、楢原地区に11年6月、2億7千万円を掛けて完成した。
施設は建て屋面積が460平方㍍あり、製造能力が1時間当たり800キログラムとまずまずの規模だ。作ったペレット燃料は村内のホテルや温泉施設、農業ハウス、一般家庭などに販売している。販路確保のため、ホテルなど3カ所にペレットボイラーを新設したほか、村民対象にボイラーのレンタルも行っている。
木炭センターやペレット工場は村内の豊富な森林資源をバイオマス燃料に利活用し、エネルギーの地産地消を図った事業と言える。「年間約7千万円もの売り上げがあるし、雇用創出効果(6人)もある」と、神田村長は両事業の意義を強調する。
ただ、ペレット燃料の生産量年1600トンに対し、出荷量が700トン弱と供給過多なのが悩みだ。供給オーバー分を解消する手立てが急務だが、いろいろ考えた末、木質バイオマス発電の新規事業化計画が浮上してきた。余剰ペレット燃料を使って180キロワット規模のバイオマス発電施設を新設しようというものだ。
作った電気と熱はきのこセンターの冷暖房用に利用するため、(1)立地場所はセンターの隣接地(2)事業費は3億3千万円--という事業計画を14年度中に策定する。事業遂行のため、地域ファンドへも支援を求める予定だ。
上野村はオスの猪とメスの豚を交配したイノブタの生産にも力を入れている。09年に新築したイノブタセンターは、11年の施設増設で生産増が軌道に乗り、年間生産目標220頭のめどが立った。この事業も、販路の開拓が課題となっており将来、6次産業化を視野に置いた新たな事業展開が予想される。
20年の村人口を1500人へ--これが同村の長期戦略だ。そのためには新規雇用の創出努力が不可欠で、6次産業化の取り組みがいよいよ重要になってきた。
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