政治・経済

 今年10月で6年間の任期満了を迎え、新日鐵住金の三村明夫相談役にその座を譲ることになった日本商工会議所の岡村正会頭。就任以来、相次ぐ内閣の交代に象徴される政治の不安定、リーマンショック、東日本大震災などさまざまな苦境を経験し、まさに激動の時を過ごした。会頭退任を前に、現在の日本経済への評価とともに、10年後の社会の繁栄のために企業経営者は何をすべきかについて語ってもらった。

岡村正(日本商工会議所会頭)

岡村正(日本商工会議所会頭)

政治に期待するのは何より実行力

―― まず、安倍政権の成長戦略についてどう評価していますか。

岡村 昨年末の第2次安倍政権誕生以来、これまでに金融緩和、財政出動、成長戦略と3本の矢が放たれました。最初の2本の矢は見事に功を奏し、円安、株高をもたらして特に輸出企業にとっては大きな恩恵がありました。市場の空気も一変して、金融マーケットだけでなく産業界全体の「気」が逆転して非常に良い方向に向かったと思います。企業の業績も全体的に良くなってきています。

 一方で、全国の中小企業の景況感としては、今後良くなっていくだろうと期待する声が多いのは事実ですが、燃料や資材価格の高騰などが原因で採算が取れず、景気回復の実感がなかなか持てないという方々も多くいます。これから安倍政権の要諦となるのは、3本目の矢が描いたとおりに成果をあげて、本当の意味での景気回復を達成することです。秋の臨時国会は成長戦略実現国会と謳われていますが、現在提示されているさまざまな成長戦略の原案をきちんと法案化して、直ちに実行に移すことが必要です。それができれば状況は改善されると思います。

―― 成長戦略の中身に関しては満足していますか。

岡村 安倍内閣に限らず、歴代の内閣はこれまで成長戦略と称してさまざまな施策を打ち出してきましたが、中身にそれほど大きな違いはありません。問題は実行力です。この先3年間は選挙がなく政権が安定する上、ねじれ国会が解消されたことなども考えると、政治が実行力を発揮できる環境になったと期待しています。

 もう1つの課題は、財政規律をいかに守るかです。国の財政難の中、社会保障給付の重点化・効率化が不可欠であり、成長戦略とのバランスをどう取るかが非常に重要になってきます。また、成長戦略の中では、「中小企業・小規模事業者の革新」が柱の1つに挙げられているので、その点での施策もしっかり打たれると思っています。

―― 社会保障問題との絡みで消費増税が大きなテーマとなっていますが、やり方によっては中小企業に大きなダメージを与えることもあり得ます。この点についての見解は。

岡村 消費増税については、商工会議所の中でもこれまで何度も議論を重ねてきました。振り返ってみると、ここ数年で100回ぐらいは話し合いを行ってきたのではないでしょうか。ご存じのとおり、以前、商工会議所は消費増税に対して反対の立場を取ってきましたが、国の財政状況を考慮すると、果たしてこのままで良いのかという議論が徐々になされるようになってきました。最終的に、社会保障給付の重点化・効率化を行ったうえで、財源が不足するなら税率10%を限度として消費税アップもやむなしとの結論に至りました。今のチャンスを逃すと、気持ちの上でも消費税に対する抵抗感が再び強くなるのではないかと思います。

―― 複数税率の導入や、毎年1%ずつ税率を上げていくといった案が出ていることについてはどう考えますか。

岡村 まず複数税率の導入については反対しています。導入によって結果的に税収が減るという問題もありますし、企業にとっては事務的なコストが非常に掛かる点も懸念されます。同じように、毎年の改定となれば事務経費が増え、特に中小企業にとっては非常に大きな負担になるので、こうした手法を導入するべきではありません。これらの条件を付けた上で、商工会議所としては消費増税に賛成の立場を取っているのです。14年に8%、15年に10%にするという、当初決めたストーリーに従って進めていただきたいと思います。

―― 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に関してのご見解は。

岡村 消費税と同じように、TPPへの交渉参加についても農業を中心とする地域の商工会議所の中で反対の声があったのは事実です。しかし、日本が世界経済の中でしっかりした地位を保つ上で、市場が閉鎖的であってはいけないとの考えに基づいて議論を重ねてきました。今でも、農業問題へのしっかりした対応がなければ反対するという声があるのも事実です。しかし日本全体として考えた時、多国間の自由貿易は日本経済にとってやはり必要という方向に向かっていると思います。

―― ここ数年で、諸問題に対する商工会議所の姿勢も以前と随分変わってきた印象です。

岡村 私が会頭に就任した6年ほど前には、消費税の議論をすれば反対の声が多く、自由貿易の促進にしても農業、漁業関係者を中心に反対が多く出るのが普通でした。しかし、日本の現状を冷静に理解していくにつれ、消費増税やTPPもやらなければいけないという結論に至りました。今でも会員全員が賛成しているわけではないでしょうが、8割くらいの方は是認する方向で考えているのではないでしょうか。

ページ:

1

2

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る