政治・経済

東京急行電鉄は昨年、創業90周年を迎えた。4大拠点開発を推進する一方、東横線が相互直通運転を開始するなど、沿線の価値増大を図り成長戦略を推進している。今後は100周年に向けてさらに沿線の活性化を加速させるが、高齢化社会への対応も視野に入ってくる。

 

野本弘文(東京急行電鉄社長)

野本弘文(東京急行電鉄社長)

4大開発で沿線価値の増大を図る東急

―― まず足元の状況について、中期経営計画の途中ですが、その進捗は。

野本 2012年度を初年度とする3カ年経営計画をスタートしましたが、昨年度の実績はお陰さまで当初予想以上に進捗しました。渋谷ヒカリエの減価償却もあり、営業利益は前年よりも減ると予想していましたが実際には増え、しっかり進捗できたと思っています。

―― 好調な業績の背景は。

野本 私が専務に就任した08年頃、バブル後の選択と集中による整理が終わって、成長戦略へ軸足を向ける時に当社は4つの拠点の大規模開発を打ち出しました。それが、たまプラーザ、二子玉川、渋谷、永田町の開発です。4つのプロジェクトを合わせると数千億円の大プロジェクトですから、この4つの開発がうまくいくかどうかが大きな命題でした。その間、リーマンショックなどで苦しい時期がありましたが、一昨年から昨年にかけて、4大開発が完成してきました。そして完成した不動産の物件が予定通りに稼働するかどうか、収益を生み出すかが課題でしたが、結果として、いずれもほぼ100%の稼働率でした。稼働率がしっかりと取れて収益が確保できたことが一番大きかったと思います。

 鉄道に関しても、長年ずっと街づくりをやりながら、常に再投資をして街を活性化させ、沿線価値の維持・増大を図っていくことは当社の遺伝子のようなものです。駅はいったん造ってしまえば、新しくしても基本的にはコストですから、ただ新しくするだけでは利益を生み出しません。しかし、例えば目黒線の複々線化や大井町線の溝の口までの延伸などをやりながら、街・駅をリニューアルし、いろいろな施策を打つことによって、沿線の価値を常時上げてきました。その結果、鉄道の乗降客数もずっと伸びてきています。

 日本全国で人口が減っていく中で、当社沿線の人口は20年頃までは増え続け、それからは少しずつ減るか横ばいで推移し、35年頃までは現在と同じ水準が保てるという予測が出ています。今後20年間は今の人口が保てることは非常に大きく、安定的な収益に寄与してくると思います。それなりの努力もしてきて、収益がしっかりしてきたことが好調の要因の1つだと思います。

―― 今後の見通しとその先の100周年に向けた取り組みは。

野本 中期計画については、目標の数字に向けて着々と進みつつあります。それから大きな流れについては、5年や10年でコロコロ変わるのではなく、10年後に、「日本一住みたい沿線・東急沿線」「日本一訪れたい街・渋谷」「日本一働きたい街・二子玉川」の「3つの日本一」を確実に実現していると感じてもらえる姿にしていきたいと思っています。しかし、それが終着点ではなく、常に進化させ、継続させていかなければいけません。1つのものを築き上げるよりも進化・継続させることのほうがもっと大変になると思います。

高齢者が活躍できる街づくりを推進

―― 沿線人口が20年後までは現在の水準を維持するとのことですが、今後は高齢化への対応が必要になりますが。

野本 35年頃には3割が65歳以上になります。沿線では生産年齢人口は比較的確保されますが、それでも高齢者人口は増えていくので、高齢者の方たちにどういう生活をしていただくかをずっと考えています。

 シニア住宅は他社同様に当社も手掛けていますが、当社にしかできない仕組みとして、たまプラーザの線路脇に50年定借のマンション「ドレッセ たまプラーザ テラス」を造りました。たまプラーザの駅までは連絡するペデストリアンデッキを通って徒歩1分で行けます。併設する複合施設棟「たまプラーザ テラス リンクプラザ」には、横浜市の地域ケアプラザや当社のデイケアサービス「オハナたまプラーザ」が入っています。

 例えば、高齢者の夫婦が入居されたとして、今までなら夫婦のどちらかの体調が優れない場合、面倒を見るために元気な方も外出することができませんでした。ここでは近接するケア施設を利用することで、元気な方には外出していただくことができますし、それが健康にもつながってきます。外出では雨に濡れずに駅のホームまで行けますし、例えば渋谷のヒカリエのシアターオーブでの演劇鑑賞にも傘を持たずに行くことができます。また、買い物には、宅配のホーム・コンビニエンスサービス「東急ベル」などいろいろな仕組みがありますから、非常に快適な生活ができると思います。

 高齢者が増えることをマイナス要素と見て邪魔者扱いするのではなく、高齢者がいかに楽しく生活できるかが重要です。それがまた、経済の活性化にもつながります。人の生きがいの中には働くということがあります。高齢者でも元気な方は知識の伝達活動をしたり、クリエイティブな仕事で活躍したりできます。

 10年後なら75歳でもまだ現役世代もいるでしょう。そういう高齢者が活躍する姿を見れば、今の40代の人たちが、75歳までならあと30年は働けるという安心感を持つこともできます。そうなれば高齢化で生産年齢人口が減るのではなく逆に確保できます。こうした高齢者が元気で活躍できる仕組みを街づくりにつなげていきたいと思います。

―― まさに高齢化社会における街づくりですね。

野本 高齢化は困ることではないのです。その時の街づくりをイメージすれば、いくらでもできることがあると思います。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る