テクノロジー

20130917_22_01

医療ツーリズムに代表される医療の成長産業化

 

 「医療を成長産業に育てる」と聞いても、ピンとこない人がまだ多いかもしれない。日本人にとって医療は社会福祉という認識が強く、ビジネスとしてとらえるというとどうしても〝儲け主義〟といった悪いイメージを抱きがちだ。だが、世界では医療を含むヘルスケア分野を、経済の牽引役にしようとする動きが既に始まっている。

 典型的な例が、外国人を呼び込み国内の医療機関で診断・治療を受けさせる医療ツーリズムだ。例えばタイやマレーシアでは中近東などの富裕層を主な対象に、民間病院が積極的に患者を受け入れる。タイには年間約250万人、マレーシアには約100万人が、医療目的で訪れるという。

 日本で外国人患者受け入れの動きが出てきたのは10年ほど前。当時からロシア人患者と日本の医療機関の仲介役を果たしてきたロシア専門商社ピー・ジェイ・エル(PJL)の徳大寺泰伸顧問は、

 「当初はボランティアで知り合いのロシア人に日本の病院を紹介していたが、希望者が増えたためビジネスとして手掛けるようになった。当時ロシアでは、医者の腕は悪くないものの設備が不足していて、患者と医者の信頼関係も薄く、日本の病院で治療することが喜ばれた。病院にとっても自由診療で高い報酬が得られるため、大歓迎だった」と、語る。

 2009年以降になってくると、医療を新たな成長産業に育てようという当時の民主党政権の方針で、医療ツーリズムへの取り組みは徐々に活発化してきた。しかし、医療ツーリズムの極度な拡大に関しては日本医師会や厚生労働省が難色を示し、結果的に経済産業省の主導で進められるようになった。その流れで、海外からの外国人患者の受け入れ(インバウンド)の運営を主に担う組織として11年に発足したのがメディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)である。

 MEJの活動は、12年に政権交代を果たした自民党・安倍晋三内閣が医療分野を成長戦略の柱とする方針を打ち出したことで、さらに範囲を広げていく。13年4月に一般社団法人として組織を改編、インバウンドに加えて、日本の医療機関や医療機器メーカーが一体となって海外に進出するアウトバウンドの領域も手掛けるようになった。会員企業にはテルモ、東芝メディカルシステムズ、日立メディコ、オリンパスメディカルシステムズなど日本を代表する医療機器メーカーの他、三菱重工業やソニー、富士通なども名を連ねている。

 さらに、ここへ来て医療の産業化に当初は消極的だった厚労省も積極的な姿勢を見せ始めている。同省が5月に設置した医療国際展開戦略室では、日本の医療技術やサービスの輸出促進を支援することが決まった。インバウンドに関しても、外国人患者の受入れを行う医療機関を認証する機関としてJMIP(ジェイミップ)を設立し、安心・安全な医療の提供を促進する方針を示している。こうした動きに対しては、

「当初は経産省がインバウンドもアウトバウンドも主導する流れができかけていたが、民主党時代と違って安倍政権は省庁間の競争意識を利用することで、両者をうまく巻き込んでいる」(医療業界関係者)との声も聞かれる。いずれにせよ、官民を巻き込んだオールジャパン体制の構築が進んでいるのは確かだ。

 

日本式の医療を海外で展開

20130917_23_01

 01~10年の間に医療サービス、医薬品、医療機器を含めた世界市場は毎年平均8・7%の成長率を実現し、市場規模は520兆円に達した。市場は今後も着実に拡大すると見られており、MEJでは新興国を中心に20年までに10カ所程度の医療機関創設、30年までに5兆円の市場獲得を目指す。

 MEJのプロジェクトとしての実績はまだ少ないが、これまで日本の医療機関が絡んだアウトバウンドの実例としては、北斗病院がPJLと共同で展開しているウラジオストクの画像診断センター、岡山大学医学部付属病院、亀田総合病院がミャンマーで展開している乳がん検査、麻田総合病院、瀬戸検診クリニックが中国で展開している検診サービス等、さまざまなものがある。

 これらはいずれも、現地にはない日本式のサービスを持ち込んでいるのが特徴。ウラジオストクのケースではロシアの医療機関に設備を持ち込み、日本から遠隔診断を行っている。富裕層のみならず一般庶民も受診できる料金設定が奏功したのか、毎日20~30人の受診希望者が訪れる盛況ぶりだという。

 経済産業省の担当者は、「アウトバウンドの場合、基本的にターゲットは富裕層のみではないが、ボランティアではなくきちんと収益が見込めることが前提。貧困層に対しては医療の普及啓蒙の活動を行い、実際の収益は富裕層から得るというやり方もある」と、説明する。富裕層に対しては、場合によっては日本に来て治療を受けてもらう選択肢も用意するという。

20130917_24_01 医療へのニーズが高い新興国は医療関係者にとって宝の山にも見える。とはいえ、欧米勢など他の先進国との競争や、現地スタッフの育成など一筋縄ではいかないのも確かだ。

 「大半の病院は様子見で、積極的に海外に出ていこうというところは決して多くない。どこかがうまくいけば自分たちも出ていくという姿勢」と、ある病院関係者は話す。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る