マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

下請法は事業者として必ず押さえておくべき法律

 突然ですが「下請法」という法律をご存じでしょうか。正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」。この法律は、事業者としては必ず押さえておくべき重要な法律です。今回のテーマは、「下請法の仕組みと違反の代償」です。史上最高の違反額を記録した日本生活協同組合連合会の事件をもとに説明します。

下請事業者とのかかわりが違法であると指摘された日生協

【事例】

 1951年に設立された日本生活協同組合連合会(通称:日生協)は、日本各地の生協が加盟する全国連合会で、プライベートブランド「CO-OP」の名を冠した食料品等を製造し、加盟生協で販売していました。

 日生協は、実際の商品製造を下請事業者に委託しており、一部の商品を除き、毎月20日納品締切り、締切り後40日から120日後にそれぞれ下請代金を支払う制度を採用していました。

 また、加盟生協にて値下げ販売を行う場合には、商品を卸す下請事業者に対して「○○生協にて、△△商品について2割引セールを行うので、□□個当たり××円をご負担いただきたい。」といった協力要請を出し、下請事業者に一定額の負担を背負わせたり、販売期間終了後に売れ残った在庫品がある場合に、それを下請事業者に引き取らせたりしていました。

 このような下請事業者とのやり取りは、下請事業者との長年の信頼関係に基づき、合意をとりつつ行われていました。

 ところが、公正取引委員会は、この日生協と下請事業者とのかかわり方に問題があるとして調査を開始しました。一体どのような点が問題だったのでしょうか。果たして調査の結果は……?

【解説】

 平成24年9月15日、公正取引委員会は、平成22年9月以降の日生協と下請事業者とのやり取りには、下請法違反があるとして、再発防止の勧告及び指導を行いました。その違反額は総額38億9400万円超に上り、史上最高額を記録しました。

 公正取引委員会の勧告と指導に従った日生協は、各下請事業者に対し、背負わせた負担額の返金、および下請代金遅延利息等の支払いを行うことになりました。また、下請事業者に返品した商品のうち、引き受けられる商品については再び引き受けるなど、経済的大打撃を受けました。

 それだけにとどまらず、日生協は、公正取引委員会によって、勧告を受けたことを公表されました。公正取引委員会から勧告されたことが公表されれば、取引先との信頼関係や、業界での評判等に大きな影響を及ぼしかねません。これも日生協にとって大きな打撃であったといえます。

 なお、日生協は、調査段階から既に速やかな対応を行っていましたが、勧告を受けた親事業者が勧告に従わなかった場合には、独占禁止法に基づいて、勧告より強力な命令を受けることもあります。そうなると、親事業者の受ける打撃は一層大きなものとなりますので、要注意です。

下請法に基づき違法となる行為とは

 下請法は、簡易な手続きで迅速かつ効果的に競争を公正化し、下請事業者の保護を図ろうとする法律です。下請法では、次のように親事業者の禁止行為が明確に定められています。

(1)納品物の受領を拒否すること

(2)発注後の下請代金を減額すること

(3)納品後60日経過後に下請代金を支払うこと

(4)納品物を不当に返品すること

(5)商品を廉価で買いたたくこと

(6)密告した下請事業者に対して報復措置をとること

(7)製品を強制的に買わせたり、保険に強制的に加入させた りすること

(8)有償支給する原材料の代金を下請代金よりも早く支払 わせること

(9)割引困難な手形を交付すること

(10)発注後に不当に発注内容を変更すること

(11)親事業者のために不当な金銭や役務を提供させること

下請事業者の合意があっても違法となる点に注意

 以上11のルールの中で、特に留意すべきは「(3)」の下請代金の支払期日。順守しなかった場合、遅延利息が発生します。

 また、親事業者は、発注に当たって所定の事項を記載した発注書面を下請事業者に交付しなければなりません。これも見落とされがちですので、要注意です。中でも最大の注意を要するのは、これらのルールについては、下請事業者の合意があっても、反することが許されない点です。

 日生協も、下請事業者との合意に基づいて行っていたために、下請法違反を認識することができなかったのかもしれません。

 また、今回のケースで浮彫りになった問題は、全国の生協が加盟する巨大組織ですら、下請法に対する認識が不足していたことです。

 これはほかの多くの親事業者も、法令違反の可能性があるということを意味するのです。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る