マネジメント

今井雅則

今井雅則(いまい・まさのり)
1978年大阪大学大学院工学研究科前期課程建築専攻修了、同年戸田建設入社。大阪支店長、常務執行役員などを歴任。2013年から現職。

女性の感性が建設業界の強みに

 病院、学校建築に定評のある戸田建設。同社も業界全体の技能労働者不足の中で、女性の労働力を生かすべく転換期を迎えている。社長の今井雅則氏は、「今を逃すとチャンスはない」と言い切る。日本建設業連合会労働委員長も務める今井氏の言葉からは、女性の活躍の場が広がらなかった理由と今後に向けた覚悟が感じ取れる。

 建設業界の技能労働者を中心とする労働力不足の背景には、建設投資の抑制、産業構造に対する評価の低下がある。1992年に84兆円あった建設投資が減少。現在は回復傾向にあるが2010年には42兆円に落ち込んだ。これが賃金を下げる要因となり、女性はおろか、若年層の労働者が定着せず、労働力の高齢化、不足に帰結した。この問題が、最近の建設業界に対する需要の高まりにより顕在化。そこで、女性や若年層の労働力を確保するため、労働環境の整備と業界の魅力向上が急がれている。

 しかし、問題解決には難関が多いのも事実だ。例えば女性が安心して利用できるトイレや快適な仮設事務所の設置など労働環境の整備についても、業界ならではの「当たり前」を覆さなければいけない。

 「お客さまから頂いた請負金は、高品質な建造物を作ることに使うため、仮設など労働環境が悪くて当たり前という考えがありました。まず、この常識を変えて、働く人を大事にする環境にしなければいけません。環境整備する費用は、建設コストであるという意識が受け入れられれば状況は大きく変わると思います」と今井氏は言う。

 建設現場の工期、労働時間についても同様だ。天候などによって工期が遅れ、それを取り戻すための休日出勤や残業も珍しくない。今井氏はこの労働環境も女性や若年層が建設業を敬遠する要因と考え、働き方自体を他社に先行して変えたいとする。

 今井氏は自社の女性社員を高く評価し、その活躍に期待を寄せる。営業部で働く女性社員は取引先から覚えられる存在となった。設計部門で働く社員は女性ならではの感性を生かして、他社との差異性を出す重要な役割を担っているという。

 「これからの建築物は機能的な良さや耐久性だけではなく、プラスアルファの価値がなければいけない時代です。女性の観点、価値観などを組み込んでいければ、会社にとって大きな強みになります」

女性活躍とキャリア形成の意欲を持てる建設業界に

 同社は現在、育児休業制度や夫婦同地勤務を運用しているが、在宅勤務などの制度充実を検討している。また、これまで進まなかった女性社員の管理職登用を5年以内に行いたいと今井氏は言う。女性に対して管理職登用に向けた育成体制もなかったが、その思考も転換した。

 「これから女性が100%の能力を発揮できる環境、多様性を受け入れる組織を整えれば、会社の可能性は広がります。今は指導を始めたばかり。切磋琢磨して、管理職にふさわしい人物に育ってほしい」と期待する。

 一方で、女性社員の雇用と管理職昇進を視野に入れた指導には、企業にとってリスクがあるのも否定できない。有能な女性が出産、育児などによりキャリア形成を断念するケースも想定されるからだ。しかし今井氏は人が働く年数は約40年あり、長期的に見れば女性も十分にキャリアを形成できると考えている。

 「ただし、私たちは辞めずに続けてもらいたくても、女性自身が仕事を続ける自信を失い、キャリアを断念するという壁は実際にはあります。社員が出産や育児と両立すべき期間を会社がフォローして、それを乗り越えた女性社員のモデルケースを作りたい。そうすれば後に続く社員が増えると思っています」

 モデルケースを作るには女性社員の母数増加も課題だ。同社の女性社員比率は約11%。特に建設現場でリーダーシップを発揮する技術職は男性社員が多い。建築学科で学ぶ女子大学生は全体の約3分の1いるといわれるが、そこから建設会社を選択する学生が少ないのだ。これを解消するには企業ならびに業界全体で魅力を発信する必要がある。そのためには、キャリアアップできる環境を整備することが必要になると今井氏は付け加える。

 「5年、10年と修業して一人前となった時に仕事がなければ、自己投資も挑戦もできません。一時低下した業界に対する社会的な評価が戻り、近未来に向けた計画ができれば、その目標に向かって粛々と努力し、『将来より良いものを作りたい』という意欲につながるはずです」

 同社の挑戦は始まったばかり。古くからの慣習を変えることには困難も伴うが、大胆な変革によって女性の活躍の場が増えれば、結果的に企業価値の向上につながるだろう。

(文=本誌・長谷川愛 写真=佐々木伸)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る