政治・経済

[きたはら・しげみ]

[きたはら・しげみ]
1953年生まれ。神奈川県出身。79年東京大学医学部卒業、東京大学医学部附属病院脳神経外科で研修後、三井記念病院脳神経外科、都立府中病院脳神経外科、東京大学医学部附属病院脳神経外科、帝京大学脳神経外科などを経て、95年、北原脳神経外科病院を開設。その後、北原RDクリニック、北原リハビリテーション病院、北原ライフサポートクリニック、東松島ライフサポートクリニックなどを開設。2010年に医療法人社団KNI、北原国際病院と改称し、理事長として多くの革新的な取り組みを行う。

KNI・北原理事長による病院の枠を超えた取り組み

 ホテルのような受付、至る所に飾られた絵画や観葉植物、オープンテラスのカフェテリア。東京都八王子市の北原国際病院を初めて訪れた人は、新鮮な驚きを覚えるに違いない。

 が、こうした試みはあくまで一例にすぎない。同病院を運営する医療法人KNI、北原グループでは、従来の病院の枠を超えた独自の取り組みを次々と打ち出している。

 例えば、北原リハビリテーション病院で導入している家族ボランティアシステム。入院患者の家族に病院でのボランティア活動を義務付ける代わりに室料差額などを免除する制度だ。さらに、ボランティアを行った人に病院内で使用可能な地域通貨「はびるす」を発行し、自分や家族が入院した時にそれを使えるといった制度も導入した。こうした活動を通じて医療を貨幣経済から切り離し、医療を提供する側と受ける側の境界をなくし、市民全員の力でより健全な地域社会を築くことを目指す。

 また、「医療を輸出産業に育てる」との理念の下、カンボジアへの進出も果たした。フィールドを獲得し、ブランドを確立する目的で、現地の国立病院内に傘下のNGOを使って脳神経外科手術室と集中治療室を設置、スタッフを常駐させ無償の医療支援を開始したほか、昨年末にはグループ内の株式会社によって「北原ジャパンクリニック」を開設、主として脳神経系疾患を患う市民に有償で遠隔診療やリハビリテーションサービスを提供している。

 さらに同クリニックの隣接地にファームを建設中で、多額の医療費を支払うのが困難な患者とその家族には、ここで自給自足の生活をしてもらいつつリハビリテーションや教育を施し、社会復帰を促すといった、農業中心の途上国に適した新たな試みも開始している。

 一般的な病院のイメージを覆すこれら数々の取り組みには、一体どんな思いが込められているのか。KNI理事長の北原茂実氏を直撃した。

 

020_20130917_12KNI・北原理事長が指摘する日本の医療制度の問題点とは?

 

 当法人の経営理念はより良い医療をより安く提供すること、そして、日本の医療を輸出産業に育てることであり、その実現のために私は病院を開設した。やがては私たちのさまざまな活動が医療の構造改革、ひいてはいろいろな面で行き詰っている現代社会の全面的な構造改革を惹起することを願っている。

 当法人を見学して「ホテルのような空間」と言う人がいるが、私の感覚とは少し違う。例えば、今計画中の新病棟は、オール木造とし、太陽光が入り、風が吹き抜けて、中央回廊には木が生え花が咲き蝶が飛び交い、病棟が自然と溶け合っていてその治療効果が最大限に活かされる、そんな風な造りにしようと考えている。

 が、同時に、一見自然で居心地がいいだけのように見えるこの空間は、実はすべてコンピューターによって制御されていて、患者がどこにいて、どんな状態にあるのかを建物自体が認識し、治療する機能をも持っている。もし患者が眠れなければ、照明・音響・空調すべてを変えて睡眠に導き、うつ状態がひどくなれば軽快させるように働く。その設計の思想はホテルとは根本的に異なり、多くの技術者、企業の協力、日本の技術の粋を集めなければ達成は困難である。

 私は医療は、人がいかにして良く生き、いかにして良く死ぬか、その全過程をプロデュースする総合生活産業であり、農林水産漁業はもちろん、教育システム、ITインフラの構築から葬祭業に至るまで、すべてが医療の仕事であると考えている。であれば、メディカルサイエンスを武器にこのフィールドで活躍する医療技術者同様、いかなる職業の人もその仕事をツールに平等な立場でこのフィールドに参入し、よく生きてよく死ぬための社会を共に建設すべきではないのか。市民を、医療を提供する側と受ける側に分断せず、また医療をお金で売り買いするものと考えないなら、医療も社会も今よりずっと成熟した、より良いものになるに違いない。

 それにもかかわらず、一般には医療といえば病院という箱の中で提供される一連の行為のみを指すと考えられており、そのために必要な財源をどうするか、のみに議論が集中している。医療財源の中心的な役割を担う国民皆保険をどうするかについても、その存続を大前提にさまざまな議論が繰り広げられているが、そもそも敗戦後、世界の最貧国だった日本に医療を普及させるために考案されたこのシステムは、

①人口構成がピラミッド型であること、

②経済が右肩上がりであること、

③病気になる人が少ないこと、

 を前提条件としており、少子高齢化し、経済が落ち込み、病人が増えた今の日本ではうまく機能するはずがない。

 それでもこのシステムを存続させようとするなら現役世代の負担を減らすために医療単価を今まで以上に引き下げねばならず、その結果、医療現場は疲弊して満足な医療が提供できなくなり、そして何より、機械や薬品を製造、販売する医療産業が壊滅してしまう。そうなれば医療に必要不可欠な品々を諸外国の言うなりの値段で輸入しなければならなくなり、総医療費のコントロールはできなくなる。その上、十分な給与が払えないために、安い給与でも働いてくれる海外の介護士を雇入れることにでもなれば、介護を必要とする病人や高齢者が増える毎に日本の富が彼らを通じて奪われることになり、やがては国家経済が破綻してしまうだろう。

 というわけで、私は10年以上前から国民皆保険の廃止を主張している。皆保険がなくなったら米国社会のように低所得層が医療から締め出される、と言われているがそれは違う。現状でも、主として低所得層を対象とする国民健康保険の実態は目的税であり、保険料を払わなければ締め出される。即ち皆保険はセーフティーネットではない。

 現在政府は、皆保険はそのままに消費税率を上げて必要な医療財源を確保しようとしているが、医療機関の当面の立て直しを考えるなら、一番簡単な方法は、医療費に消費税をかけることだ。そうすれば、小細工を弄せずとも医療機関の収入は現状でも5%アップし、しかも生活のためにさまざまなものを必要とする若年世代は通常それほど医療費を支払っていないので国全体としてみれば消費にブレーキがかかることもない。医療の在り方や、皆保険の存続意義を真剣に議論することなく、ただ財源論に明け暮れるこの国の行く末に大きな危惧を抱いているのは私だけではあるまい。

 

なぜ、KNI・北原理事長はカンボジアで救命センター開設を目指すのか

 

 カンボジアで、われわれはフル装備の救命センターと附属の大学院を開設すべく準備を進めている。

 なぜ途上国に救命センターなのか。そして大学院なのか。

 現在、カンボジアでは富裕層を中心に年間約30万人が健診や医療を受けるために渡航する状況が続いており、富裕層が病気になるたびに国の富が隣国に奪われる一方、残された貧しい市民しか受診しない国内の病院は一層弱体化し、医療教育もままならない。

 しかし、脳・心疾患や交通外傷に対する救命医療については、渡航する時間的余裕がないため現状では富裕層ですら適切な医療が受けられず命を落とすケースも多い。そこに日本ブランドの救命センターが立ち上がれば富裕な患者が集中し、われわれは彼らを治療しながら、彼らの支払う医療費によってカンボジア人医療者を養成し、カンボジアの医療供給体制を復興させることができるに違いない。

 そればかりか、救命センターを立ち上げるためには建設業から医療産業は言うに及ばず、IT、エネルギー、エコ、物流、さまざまなアウトソーシング関連など、数多くの日本の技術が必要であり、もしもセンター建設にオールジャパンの形で臨むことができれば、出来上がったセンターは日本のショールームとなり、多くの産業がカンボジア進出を果たすための足掛かりにもなり得る。

 また、ナンバーワンの病院を造り、その力をもって保険システム、教育システム、ITインフラを立ち上げることに協力できれば、それはカンボジアのためになると同時に、われわれにとってはこのプロジェクト全体が単なる施しではなくて、将来的には必ずリターンの得られる、従来のODAに代わる新しい支援のシステムとなることを意味している。こういったシステムの構築は、絶対的に強力な病院が建設されてはじめて可能になる。医療機器を売り込むだけでは極々一部の企業にわずかばかりの利益がもたらされるだけで、結局は社会に大きなインパクトを与えることはできない。

 私たちが本プロジェクトを推進し、絶対的な成功例を見せることで、社会はどうあるべきなのか、そのために医療は何をなし得るのか、国民もマスコミも理解することになろう。

 安倍総理は日本を復活させるためのいわゆるアベノミクスの中で、2020年までに海外に10カ所の医療拠点を作ると宣言したが、われわれの経験から言って、これは非常に困難な仕事である。アベノミクスの腰を折り、国民の希望を失わせないためにも、カンボジアプロジェクトを絶対に成功させることが、この分野で先頭を走るわれわれに課せられた任務である。 (談)

 
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