政治・経済

 1993年5月15日に開幕したJリーグは、今年20周年を迎えた。チーム名に企業名を入れず、地域色を前面に出した地域密着型のJリーグの誕生は日本のスポーツの在り方を変えた。あれから20年、これからどこへ向かうのか。4代目チェアマンの大東和美氏に話を聞いた。

【おおひがし・かずみ】

【おおひがし・かずみ】
1948年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学卒業後、住友金属工業入社。九州支社長を経て2005年鹿島アントラーズ専務、翌年社長。鹿島時代は07年よりJ1で3連覇を達成。10年より公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン就任、現在に至る。ラガーマンとしても学生時代の70年度に主将として大学選手権優勝、さらに新日鉄釜石に勝利し日本ラグビーフットボール選手権を制し日本一になる。卒業後、日本代表として6キャップを記録。また指導者としても早稲田大学ラグビー蹴球部監督として大学選手権優勝を達成している。

大東和美氏は語る 日本のスポーツを文化に変えた20年

―― 今年Jリーグも誕生20年目を迎えました。

大東 1993年に10クラブでスタートしましたが、20年を経て40クラブまでに拡大しました。川淵さん(初代チェアマン)も、これほど早く広がるとは思っていなかったようです。地域としても30都道府県まで広がりましたし、サッカーが日本の中でメジャースポーツになったということも大きいと思います。スポーツ界全体においてもFIFAワールドカップに5回連続出場というのは、素晴らしい成果だと思いますね。

 この20年はサッカー界にとっても日本スポーツにとっても大きな変化がありましたが、これからもまだまだ新たな変革が必要だと思っています。

―― 「Jリーグ百年構想」を掲げておられます。その進捗状況は。

大東 Jリーグは、サッカーだけというよりも、総合スポーツ型のクラブづくりを行っています。発足当時は、クラブ名が企業名ではなく、地域名を名乗るということで驚かれましたが、今では当たり前になってきています。つまり、理念も浸透してきたのではないかと感じています。

「地域に根差したスポーツクラブ」というのも、積み重ねが大事なわけで、芝生の運動場をつくる活動にしてもかなり増えましたし、地域のコミュニティーに対しても入り込んでいっているので、「おらがチーム」になってきたのではないでしょうか。

 ただ、40クラブもありますとクラブごとに歴史の違いもありますし、もちろん財務状況を含め経営環境も違います。だからこそ「身の丈に合った経営」を念頭に置いてもらうことがより必要になってきます。

 昨年からクラブライセンス制度を施行しました。クラブ経営を安定させることも大事ですし、「観る」側の環境の整備も欧州などに比べれば、改善の余地は大いにあります。

 スタジアムが安全、安心で快適な環境で、試合観戦が日常的になる文化が日本に根付くのは、まだ時間がかかる気がします。ですから、現状に満足することなく、Jクラブのリーダーたちが地域の皆さんと一緒になってつくりあげていければと考えています。

―― ご自身の地域交流の思い出は。

大東 以前、鹿島アントラーズの社長をしておりまして、アントラーズももちろん、地域との密着を掲げていましたから、さまざまな活動をしていました。その時に印象深い出来事がありました。

 ある小学校を訪問した時のことです。学校訪問では、選手たちが、子どもたちと一緒に校庭で遊んだり、経験談や夢について児童に語ったりするわけです。その日も、子どもたちは選手たちと校庭で遊んでいました。その中に登校拒否だった子がいまして、その子はずっと教室に入れなかったそうなんですね。

 でもその日は、選手たちと校庭で遊んで、今までなかなか入れなかった教室にすんなり入ってこられたんです。

 これはうれしかったですね。ご両親も喜ばれて、もちろん本人もうれしかったでしょうね。スポーツの力、人を動かす力というんでしょうか、そんなものを感じました。

 また、鹿島神宮が近くにあり、剣聖・塚原卜伝の土地柄にちなみ、剣道教室の開催や、ほかにもミニバスケ大会の開催、地域のお年寄りとの交流などもさかんに行っています。

 東日本大震災の時は、周辺一帯が被災した中、選手たちが率先して復興支援活動をしました。こうした活動は、今までも、これからもずっと続いていくのではないでしょうか。

「東南アジアのサッカー人気は高いので期待がもてます」

「東南アジアのサッカー人気は高いので期待がもてます」

大東和美氏の思い 変革するJリーグ もっと高く、もっと深く

―― J3も来年誕生しますが。

大東 事業規模は小さいですが、地域と共生して、Jリーグの理念に賛同されているクラブが、現在準加盟クラブに申請しています。この中からJ3クラブが誕生し、来シーズンのJ3は、12チームで構成されます。われわれも将来的に全国100クラブくらい、Jリーグを目指すクラブがあればと考えており、スポーツを通じて地域が元気になることを望んでいます。J3に入るには無論審査はありますが、大事なことはクラブのトップに立つ人、例えば社長さんが、どういう熱意を持って、どういう信念を持って運営していくかだと思います。やはり、熱い気持ちがない人だと長続きしないですから、地域に対して逆に迷惑になります。

―― アジア戦略を進めています。

大東 昨年の初めから今年にかけて、アジアの各リーグや協会(タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール)との連携を積極的に展開してきました。かねてから、Jリーグがこの20年でいかに飛躍したのか、どう運営しているのかなど問い合わせをいただいておりました。みなさん日本を手本にしたいとおっしゃってくださいますから、協力し合ってアジア全体のレベルアップを図っていきたいと思っています。

 以前から日本のJクラブの母体になった企業、例えばジュビロ磐田(ヤマハ発動機)や、セレッソ大阪(ヤンマー)などが、アジア各国に進出していますから、独自にクラブ同士で提携を結んだり、キャンプを行ったり、子どもたちとの交流を行ったりしていました。そういうことから、われわれとしてもアジアの中に入りやすかったですね。

 タイやベトナムでは、地上波でテレビ放映も行われていますし、先日は、コンサドーレ札幌がベトナムのベッカムと言われるレ・コン・ビン選手を獲得しました。J3もできますから、マーケティングも含めて、これから選手の交流も活発化してほしいと思っています。

―― 地域交流と同時に世界との厳しい戦いも待っています。

大東 Jリーグも成長戦略を考えますと、ビッグクラブも必要だと思っています。木に例えますと、成長していかねばなりませんから幹を伸ばすことが求められます。日本にも数クラブ事業費の大きいところ、強いところがありますから、お客さんも試合を観に来ていただき、海外からトップ選手の獲得をするなどでリーグのけん引役になって幹を伸ばしてほしいですね。

 また、伸びてばかりでヒョロヒョロの木では困りますから、幹を太くするためにJ1、J2の各クラブに体力をつけてもらい、同時にJ2、J3のクラブにもスポーツ文化の担い手として全国津々浦々にしっかり根を張ってもらわねばならないと考えています。それが枝葉を伸ばし、欧州のリーグに負けないようなリーグに成長する施策なのではないかと考えています。

―― 住友金属(現・新日鉄住金)のご出身ですが、リーグの運営との違いは。

大東 全く違うと感じていますね。住友金属は、株式会社ですから一定の利益を生んで株主に配当していくという使命があります。一方で、スポーツ事業というのは、クラブも一般企業同様、株式会社ですけれども、個人的には非常にシンプルだと思います。収入といっても、スポンサー料、放送権料、グッズの売り上げ、それから入場料収入の4つくらいにまとめられます。支出も人件費、スタジアムの使用料、運営費など分かりやすい。もちろん両方とも黒字を目指すわけですが、何より違うのは、株主への配当を考えるよりも、チームの強化を優先することです。また、地域貢献活動も含まれます。

―― 課題は何ですか。

大東 シーズン(リーグ開催期間)移行の問題がありますね。

 サッカーは国際スポーツですから、移籍や国際試合のスケジュールを考えると国際カレンダーに合わせるということも考えざるを得ないですね。

 FIFA(国際サッカー連盟)が昨年から国際試合に対してクラブが拘束権を持たない国際マッチデーを9、10、11月に2週間程設定したために、ちょうど優勝争いの盛り上がりの中、Jリーグのリーグ戦に水を差してしまう形になる可能性があるわけです。

 他にも、アジアのクラブ王者を決める大会(ACL)でも、日程の変更が考えられています。こうなってくると、今の日本のカレンダーでは破綻してしまいます。

左から鬼武健二(3代)、大東、川淵三郎(初代)、鈴木昌(2代)の各氏

Jリーグ20周年記念パーティーにて歴代チェアマンが揃う。
左から鬼武健二(3代)、大東、川淵三郎(初代)、鈴木昌(2代)の各氏

―― 今後の取り組みを。

大東 この20年を見てみると、平均して観客数が伸びていない現状があります。コアなサッカーファンの方たちだけでなく、今まであまり接点のなかった人たちにもスタジアムに足を運んでいただけるようにしなければならないと考えています。そのためには、メディアでの露出をもっと増やさなければならない。メディアに取り上げていただくための、より魅力のあるリーグ戦の在り方も、模索している最中です。

 JリーグやJクラブの収入を増やして、魅力のある選手を獲得することも重要です。そして、先ほどの課題とも通じますが、観戦環境の充実も考えています。もしシーズン日程が変更されれば、真冬に開催しますから、雪が多い地域のスタジアムやアクセスなど、問題を1つずつ解決しなければなりません。特に施設は、屋根を付けることや暖かく観戦できるシートまでクラブや行政の皆さんのご理解を得ながら解決していこうとしているところです。

 最後に、将来のことを考えれば「育成」が未来へつながるただ1つの道ですので(26~27ページ参照)、ここを強化していこうと思っています。

 既に多くの選手が海外に挑戦して活躍していますが、Jリーグで活躍し、次々と次世代を担う選手が生まれる。そんな活気のあるJリーグでありたいと思います。

(聞き手/本誌・古賀寛明)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る