マネジメント

 「地域に根差したスポーツクラブ」を目指すJリーグは、その理念を支える人材の育成に力を入れている。その中で、子どもたちが社会とのつながりを、サッカーを通じて考えるJリーグ版[よのなか]科、未来の選手を育てるための指導者養成のプログラム、アカデミーコーチ研修会について取材した。

研修会の目的を説明する上野山氏 写真:Jリーグ

研修会の目的を説明する上野山氏
写真:Jリーグ

Jリーグの指導者養成プログラムにおける人材育成法とは

 Jリーグが力を入れている取り組みの1つが、「Jリーグアカデミーコーチ研修会」だ。

 各Jクラブの次世代を担う18歳以下の子どもたちをいかに育てるか、この「育成」はJリーグの事業にとっても最重要課題だ。子どもを育てるためには、指導者の育成こそが大切だと5年前に始められた。

 サッカーというスポーツは、「答えのないスポーツ」といわれる。場所、時間、点差、相手、コンディションなど、どんなプレーも同じシチュエーションになることはないからだ。つまり、こうすればうまくいくというものがない。

 サッカー界が求めているのは、周りに流されず、自分で考えることで問題を解決する人材だ。これは、ビジネス界、いや社会全体にも同じことが言える。

 だから指導者自身も「教わる」というよりは、「考える」ことを徹底的に求められる。

 では、具体的に何をするかと言うと、例えば「子どもたちが自分のプレーに対し、自分の意図はこういうことで、こんなことをしたかったなどと自分の行動をきちんと意識すること」が求められる。

 そんな状態に導くためには、指導者はそのプレーを細かに分析し、選手にそのプレーを選択した意図を聞き、さらには、他の選択肢の可能性にまで、気付いてもらわなければならない。それには、指導者側の使う言葉も選び抜かれたものでなければならないのだ。

 ビジネスの現場でもよくあることだが、ついつい指導する側は答えを教えがちだ。しかし、そもそも答えは1つではないし、教え続けていくと、子どもたちは自ら考えることすらやめてしまうはず。

 いざ、試合になれば指導者は隣にはいない。だから、子どもたちは、自分自身で決断する訓練を絶えず行い続けなくてはならないのだ。

 この研修中、ほとんどの指導者が、今まで意識的に行動することや言葉を選んで使った経験が少ないために、戸惑い、もがき苦しむことが多い。

 しかし、この研修の責任者である上野山信行・Jリーグテクニカルダイレクターは、

「大人の学びは痛みを伴うものだと言います。ですが、未来を担う子どもを導く仕事に就く者であれば、必要不可欠なことではないでしょうか。人と向き合う仕事に携わっている以上は、学び続ける責任があると思っていますから」と言う。

 のどから手が出るほど欲しい「自分で課題の解決策を見つけられる人材」を育てるために、企業もこの研修を導入してはどうだろうか。

活発に発言する横浜F・マリノスU―14の選手たち 写真:横浜F・マリノス

活発に発言する横浜F・マリノスU―14の選手たち
写真:横浜F・マリノス

サッカーを通してキャリアデザインを考えるプログラム―Jリーグ版[よのなか]科

「日本をワールドカップで優勝させて、あったかい家庭を築く」 堂々と5年後の自分の将来を語るのは、顔にはまだあどけなさも残る14歳の選手だ。

 横浜市西区みなとみらい地区にある横浜F・マリノスのクラブハウス。行われているのはキャリア・デザイン・サポートプログラム、通称Jリーグ版[よのなか]科。

[よのなか]科とは、「学校で教わる知識と実際の世の中との懸け橋になる」授業のことで、東京・杉並区の和田中学校の校長に就任し、初の民間出身校長となった藤原和博氏が始めた取り組みだ。

 スポーツエリートと呼ばれる一部のアスリートは、競技を優先させるために学業や社会経験に疎いといわれることもある。しかし、いくらトップアスリートであっても、引退後は社会とのかかわりを持たなければならない。

 Jリーグでは、現役時代から自分のキャリアを考える取り組みを今までも行ってきたが、2010年より、年少時から自分のキャリアデザインを支援するプログラムを始めた。

 自分は社会とどのような関係性で存在しているのか、自分が世界に通用する選手になるためには何が必要なのか、など自分のキャリアについて初めて考える取り組み、それがJリーグ版[よのなか]科だ。

 プログラムは全5回。すべて身近なサッカーをとおして考えるプログラムだ。初回は「お金」から考えることで、サッカー産業の成り立ちや収入、支出など自分がクラブのオーナーになったつもりで具体的に考えることが求められる。その後も、Jリーグが目指しているものや、職業の多様性、その職業に必要な「意志」「役割」「能力」について考え、最後に、自分のキャリアを考える。

 大事なのは、「自分で考え、納得できる答えを選びとり、行動する」こと。

 今回で4回目のファシリテーターを務める上田丈晴(横浜F・マリノス チームサポート課担当課長)氏は、

「このプログラムを経験することによって、自分の意見を言えるのはもちろん、他人の意見を聞くことを覚えます。ただ、一時的なものにならないように担当コーチと連携しながらフォローしていくことが重要ですね」と効果を語る。

 Jリーグとしての狙いは、「世界レベルでも活躍できる選手になるという思いを、選手自身が強め、具体的なプランを描いてもらえればうれしいですね」(Jリーグ人材教育・キャリアデザインチーム・田窪範子氏)

 これらの取り組みは、学校では学ぶことのできない経験であり、子どもの将来に大きな影響を与えるはずだ。

 これらのプログラムを受ける子どもたちすべてが、プロの選手になれるわけではない。多くの子どもたちが夢を少しずつ修正していかねばならない。その時に「自分のキャリアを考えた経験」や言動を意識すること、つまり、社会の中の1人の人間として自分をとらえた経験は、大きな財産になるはず。

 同時に彼らを育ててくれた地元クラブへの想いは、今後も子どもたちを通じてJリーグの理念でもある地域との共生へつながっていくのではないだろうか。「Jリーグ百年構想」を支える人材は絶えず生み出されている。

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