テクノロジー

軍事攻撃の一環としてサイバー攻撃を警戒すべき時期に来ている

 11月10日付朝日新聞は朝刊1面トップで、脱原発などを訴える全国の33市民団体が今年9月中旬から11月初旬にかけて計約253万通のメール攻撃を受けていたとの特ダネを報じた。攻撃側は発信元が特定されないよう匿名化ソフト「Tor(トーア)」を使い、メールの中には「反原発教徒を皆殺しにしなければ世界平和はやってこない」との文言もあった。市民団体側は「悪意に満ちた攻撃だ」として威力業務妨害容疑での刑事告訴の検討を始めた。サイバー攻撃がヘイトスピーチ(増悪表現)に似て見境もなく拡大している。

 今回は、ネット社会での安全保障問題やサイバーテロリズム、ネットワーク・セキュリティー問題などを研究し、多くの著書や論文を発表している多摩大学情報社会学研究所所長代理の山内康英教授の最終回。

グルジア進攻前にロシアが大規模なハッキング

 −− 前回、山内さんはハクティビズム=「ハッキング」と「ポリティカル・アクティビズム」(政治活動としての行動主義)を合わせて造られた言葉に関連して、2008年に中国政府がとった北京オリンピックの聖火リレー防護の呼び掛けを挙げました。そして「中国政府がとったこの行動は、潜在的にとんでもない意味を持っていた」と言いましたが……。

 山内 国家が、相手国に居住する自国のエスニック・グループに、インターネットを通じてサボタージュや後方攪乱を示唆するメッセージを送れば、それが実行される可能性があるということです。聖火防護活動を通じて中国政府は、人民戦争型の人海戦術に世界中を巻き込める、核兵器や通常兵器の劣位を情報戦で補うことができる、と気付いたのではないでしょうか。

 08年8月には、もう1つの重要な事象が起きました。黒海東岸のグルジアとロシアの間で起きた南オセチア紛争です。ここでは南オセチアの領有権をめぐって、両国が陸・海・空軍を投入し、激しい戦闘を展開しました。

 ロシア側は地上軍の進攻に先立って大規模なハッキングを行い、グルジアの通信ネットワークは国際幹線を含めて麻痺しました。このハッキングには「Russian Business Net work」などの組織犯罪グループ(マフィア)が協力したと言われています。これは国家によるサイバー攻撃を隠蔽するためです。重要なのはロシアがハクティビズムを装いながら、実際は軍事進攻の前段階として、サイバー攻撃を仕掛けたということです。

 前回、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)テクノロジー・公共政策部長兼上級研究員のジェームス・ルイス氏と私は「サイバー空間の最大の脅威は国際テロリストではなく主権国家だ」「サイバー攻撃が国レベルで起きるとしたら、それは全面戦争に先立って、通信施設の破壊や兵站攻撃などの後方攪乱に使われるだろう」という予想で一致したと述べました。グルジア紛争は、まさにこの予想が現実のものになったわけです。これは国際テロリスト集団による重要インフラ攻撃から、国家によるサイバー攻撃への対処に政策を転換すべき時期を迎えているということを意味しています。

急迫不正の攻撃には専守防衛の面から反撃は可能

 −− 今年3月20日、韓国の主要放送局や金融機関がサイバー攻撃を受けました。攻撃したのは北朝鮮の偵察局だと言われていますが、これもグルジアでの紛争と同じサイバー攻撃だということになりますか。

 山内 そう考えるべきでしょう。北朝鮮は、陸軍が38度線を突破する前に、韓国の情報ネットワークを攻撃する能力をデモンストレートしたと見るべきです。今回、北朝鮮が韓国をサイバー攻撃した際、韓国と米国は合同軍事演習「キー・リゾルブ」を実施していました。米空軍のB52戦略爆撃機がグアムのアンダーセン基地から朝鮮半島に飛来し、北朝鮮に対して「核巡航ミサイルで先制攻撃できるぞ」と威嚇しました。北朝鮮は、これに対抗して「わが国も先制攻撃できるぞ。それはサイバー攻撃だ」と、その能力を誇示したのではないでしょうか。

 この北朝鮮の攻撃は、韓国側の心胆を寒からしめたと思います。攻撃の発端が、韓国国内に潜入している多数の北朝鮮工作員による可能性があるからです。今回のサイバー攻撃で使った技術は、特別なものではなく、普通の「MBR(マスター・ブート・レコード)攻撃」だったようです。MBRはWindowsパソコンの電源を入れた際、最初に読みにいくプログラムですが、今回のウイルスは、これを選択的に破壊し、感染したPC3万台が起動しなくなりました。工作員が各企業のLAN内のアップデート用のサーバーなどに直接、ウイルスを仕込んだ可能性もあると思います。

 このことは、日本に対する警告にもなりました。日本にも北朝鮮の工作員が潜伏していて、重要インフラの制御システムにウイルスを仕込んだらどうなるかといったやっかいな問題点を含んでいるからです。

 −− 韓国で起きたようなサイバー攻撃を日本が受けた場合、自衛権を行使して相手国を攻撃できるのでしょうか。

 山内 軍事活動の一環としてのサイバー攻撃は、国際社会の真空状態で起きるのではなく、両国の緊張関係と武力攻撃の蓋然性が高まり、いわば一触即発の段階になってからでしょう。そこで急迫不正のサイバー攻撃があった場合に、相手国のサーバーを破壊することは専守防衛の観点から言って可能だと思います。相手国は何段階もの〝踏み台〟を作って攻撃してくるかもしれませんが、軍事侵攻がサイバー攻撃に続くわけですから、相手を特定するも何もありません。大事なのは、そうした段階に至る前に、サイバー空間でも防御態勢を整え、常時、相手国の動向を見ているということです。もしも攻撃頻度が上がったら、「日本はちゃんと見ているゾ」というサインを出して攻撃を抑止していくべきでしょうね。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る