文化・ライフ

病院は薬の処方により患者1人当たりの診療時間を短縮する!?

 以前なら、薬を出せば出すほど医者の収入は増えた。鎮痛薬を飲むと胃が荒れるので、胃薬も一緒に出していたし、いまや効果がないとされ承認が取り消された脳代謝賦活薬があったころは、脳卒中であろうと、高齢者で少し歩き方に問題があれば、すぐに脳代謝賦活薬を処方していた。薬の効果ははっきりしないが、何も出さないより何か出したほうがいいだろうということもあって、やたらに薬を処方していたのである。

 結果、薬によって病院も大いに潤っていたし、製薬会社もますます医者との癒着を強くしていた。しかし、それはかなり昔の話である。

 今では製薬会社からの夜の飲食の接待は禁止されているし、いい加減な臨床試験もどきもできなくなっている。さらに院外処方となり、単に処方箋を発行するだけとなったので、むやみに薬を出す機会も減ったはずだ。

 ところが、いまだに私の外来に、他の医療機関で大量に薬を処方された患者がやって来る。中には、一度に10錠以上飲まなければならない患者もいる。

 「薬が多いですね。お医者さんに文句を言わないの」と聞いても、「そんなこと言えません」と困った顔をする。

 医者が大量の薬を出すには、いくつかの理由がある。

 ひとつは、薬価差益(仕入れ価格と処方したときの薬の価格との差)によって医療機関の収入を増やそうというもの。最近では薬価差益はほとんどなくなり、薬を出すことで稼ぐことは難しくなっている。それでも年間を通せば開業医で100万円近い薬価差益があるという指摘もある。だからまだ院内に薬局を持っている医院では、薬を出すだけで儲けにつながっている。

 院外薬局では薬価差益はないので、別の理由がある。例えば骨粗鬆症の薬は、80歳以上の高齢者に対して効果があるかどうかの信頼性の高いデータはないが、それでも整形外科へ行けば、骨密度の検査を受けて、すぐに骨粗鬆症と診断され、薬の投薬となる。薬を出すことで、定期的な通院が必要となり、それが診療所の大きな収入となるのだ。つまり、また外来させるために薬を出すのである。

 さらに投薬が増えるもうひとつの理由がある。例えば高齢者などで訴えが多い患者の場合、外来診療で長々と話を聞いていると、ほかの患者を診察する時間がなくなってしまう。そのため、頭が痛いと言えば鎮痛薬、胃が痛いと言えば胃薬、眠れないと言えば睡眠薬と、訴えに対して薬を出すことで迅速に対応していくのだ。

 医者からすると、患者1人当たりの診察時間を短縮したいだけで、薬をたくさん処方しているという意識は希薄なので、一度にどれくらいの薬を飲んでいるのかは、そもそもあまり気にしていない。だからほかの医療機関に通っていた患者が初診で来たときに、薬手帳に書かれたたくさんの薬に驚いてしまうのだ。

病院は薬を処方しなければ経営が難しくなる!?

 薬が多いということは、単にたくさん飲むのが大変というだけではない。何か症状が出た場合、病気の症状なのか、薬の副作用なのか分かりにくいという問題がある。

 血圧を下げる薬の中にカルシウム拮抗薬という種類があるが、これは降圧作用が強力なために、広く使われている。しかし、高齢者が飲むと、脚にむくみが起きることがある。もともと高齢者は脚がむくみやすいので、薬の副作用とは思わないし、医者も高血圧の患者では脚のむくみまで見ないことが一般的だ。そのため、患者は脚のむくみに困っていながら、それが薬のせいとは気が付かない。

 一方で、薬をもらうことが病気の治療だと思っている患者も多い。風邪で医者にかかるときが典型である。「熱があるから解熱剤が欲しい」「抗生物質を飲むとすぐに風邪が治るから薬が欲しい」と要求したことはないだろうか。

 しかし、これはすべて間違いである。風邪そのものを治療する薬はないし、高熱を下げることで免疫能力が低下して、かえって風邪が長引いてしまう。実際には、1日くらいは高熱でも耐えたほうが、風邪の治りが早い。

 だが、風邪では薬は飲まないほうがいいという正論を吐けば、「あの医者は薬をくれない」と評判を落とす結果になりかねない。つまり、正しい医療を行おうとすると、日本では医者は営業していくことが難しいというわけだ。

 投薬要求の多い患者もいるので、それに素直に応じているほうが、診察時間も短縮でき、医者の収入も増えることになる。

 病気では、薬を飲むことが当然のように考えてしまうが、自分がもらっている薬をもう一度チェックして、本当にそれが必要かどうかを医者に尋ねてみてはどうだろうか。薬をやめることも、治療になることがあるはずだ。

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