文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

病院は薬の処方により患者1人当たりの診療時間を短縮する!?

 以前なら、薬を出せば出すほど医者の収入は増えた。鎮痛薬を飲むと胃が荒れるので、胃薬も一緒に出していたし、いまや効果がないとされ承認が取り消された脳代謝賦活薬があったころは、脳卒中であろうと、高齢者で少し歩き方に問題があれば、すぐに脳代謝賦活薬を処方していた。薬の効果ははっきりしないが、何も出さないより何か出したほうがいいだろうということもあって、やたらに薬を処方していたのである。

 結果、薬によって病院も大いに潤っていたし、製薬会社もますます医者との癒着を強くしていた。しかし、それはかなり昔の話である。

 今では製薬会社からの夜の飲食の接待は禁止されているし、いい加減な臨床試験もどきもできなくなっている。さらに院外処方となり、単に処方箋を発行するだけとなったので、むやみに薬を出す機会も減ったはずだ。

 ところが、いまだに私の外来に、他の医療機関で大量に薬を処方された患者がやって来る。中には、一度に10錠以上飲まなければならない患者もいる。

 「薬が多いですね。お医者さんに文句を言わないの」と聞いても、「そんなこと言えません」と困った顔をする。

 医者が大量の薬を出すには、いくつかの理由がある。

 ひとつは、薬価差益(仕入れ価格と処方したときの薬の価格との差)によって医療機関の収入を増やそうというもの。最近では薬価差益はほとんどなくなり、薬を出すことで稼ぐことは難しくなっている。それでも年間を通せば開業医で100万円近い薬価差益があるという指摘もある。だからまだ院内に薬局を持っている医院では、薬を出すだけで儲けにつながっている。

 院外薬局では薬価差益はないので、別の理由がある。例えば骨粗鬆症の薬は、80歳以上の高齢者に対して効果があるかどうかの信頼性の高いデータはないが、それでも整形外科へ行けば、骨密度の検査を受けて、すぐに骨粗鬆症と診断され、薬の投薬となる。薬を出すことで、定期的な通院が必要となり、それが診療所の大きな収入となるのだ。つまり、また外来させるために薬を出すのである。

 さらに投薬が増えるもうひとつの理由がある。例えば高齢者などで訴えが多い患者の場合、外来診療で長々と話を聞いていると、ほかの患者を診察する時間がなくなってしまう。そのため、頭が痛いと言えば鎮痛薬、胃が痛いと言えば胃薬、眠れないと言えば睡眠薬と、訴えに対して薬を出すことで迅速に対応していくのだ。

 医者からすると、患者1人当たりの診察時間を短縮したいだけで、薬をたくさん処方しているという意識は希薄なので、一度にどれくらいの薬を飲んでいるのかは、そもそもあまり気にしていない。だからほかの医療機関に通っていた患者が初診で来たときに、薬手帳に書かれたたくさんの薬に驚いてしまうのだ。

病院は薬を処方しなければ経営が難しくなる!?

 薬が多いということは、単にたくさん飲むのが大変というだけではない。何か症状が出た場合、病気の症状なのか、薬の副作用なのか分かりにくいという問題がある。

 血圧を下げる薬の中にカルシウム拮抗薬という種類があるが、これは降圧作用が強力なために、広く使われている。しかし、高齢者が飲むと、脚にむくみが起きることがある。もともと高齢者は脚がむくみやすいので、薬の副作用とは思わないし、医者も高血圧の患者では脚のむくみまで見ないことが一般的だ。そのため、患者は脚のむくみに困っていながら、それが薬のせいとは気が付かない。

 一方で、薬をもらうことが病気の治療だと思っている患者も多い。風邪で医者にかかるときが典型である。「熱があるから解熱剤が欲しい」「抗生物質を飲むとすぐに風邪が治るから薬が欲しい」と要求したことはないだろうか。

 しかし、これはすべて間違いである。風邪そのものを治療する薬はないし、高熱を下げることで免疫能力が低下して、かえって風邪が長引いてしまう。実際には、1日くらいは高熱でも耐えたほうが、風邪の治りが早い。

 だが、風邪では薬は飲まないほうがいいという正論を吐けば、「あの医者は薬をくれない」と評判を落とす結果になりかねない。つまり、正しい医療を行おうとすると、日本では医者は営業していくことが難しいというわけだ。

 投薬要求の多い患者もいるので、それに素直に応じているほうが、診察時間も短縮でき、医者の収入も増えることになる。

 病気では、薬を飲むことが当然のように考えてしまうが、自分がもらっている薬をもう一度チェックして、本当にそれが必要かどうかを医者に尋ねてみてはどうだろうか。薬をやめることも、治療になることがあるはずだ。

 

筆者の記事一覧はこちら

【ジェネリック】関連の記事一覧はこちら

【医療】関連の記事一覧はこちら

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る