政治・経済

 三菱東京UFJ銀行(BTMU)の平野信行頭取は、今年4月に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の社長に就任した。平野氏は、「MUFGと銀行のトップを兼務することで、グループ総合力の発揮に力を注ぐ」と意気込む。

【ひらの のぶゆき】

【ひらの のぶゆき】
1974年三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。2006年三菱東京UFJ銀行常務、08年専務、09年副頭取を経て、昨年頭取に就任。今年4月より現職。

銀行の基盤を生かしクロスセルを強化したい平野信行氏

―― MUFG社長就任にあたっての抱負をお聞かせください。

平野 昨年、2012年度からの3年間を対象とする中期経営計画を策定しました。その中で掲げた「世界に選ばれる、信頼のグローバル金融グループ」を目指すため、一歩、二歩と着実に前進していきたいと考えています。

 中計1年目の12年度決算は、モルガン・スタンレーの関連会社化に伴う負ののれんを除くと、当期純利益は4期連続の増益となりました。順調なスタートとは言えますが、相場回復による株式減損の縮小が寄与しており、まだまだこれからです。

 08年のリーマンショック以降を振り返ると、私どもMUFGは迅速かつ果敢に危機を克服することができたという自負があります。バーゼルⅢ(新自己資本比率規制)においては、狭義の中核的自己資本を指す「普通株式等Tier1比率」が今年3月末で基準を上回る11・1%に達しました。国際競争を勝ち抜く上での、有利なポジションを築きつつあるだろうという実感が生まれています。グループの強みを生かして、競争に対応していく考えです。

―― グループ全体の強みとは。

平野 まずは国内における法人・個人双方の圧倒的な顧客基盤です。2番目が世界40カ国以上、550拠点以上のグローバルネットワーク。そして3番目は、自己資本比率にも表われている、金融機関になくてはならない強固な財務力です。

 3つの強みに立脚して、グループ総合力を発揮することが、当社の最大の強みであり、重要な方向性の1つだと考えています。傘下には、銀行、信託、証券、コンシューマーファイナンス、リースとそれぞれの業態でトップクラスの企業が揃っています。各社が協働することで、お客さまに付加価値の高いサービスを提供できるわけです。

―― グループシナジーをどのような形で発揮しますか。

平野 グループ連携強化の下、銀行が持つ圧倒的な顧客基盤を生かしながら、クロスセルに取り組んでいます。これはMUFGの基本的なビジネスモデルと言えるでしょう。その意味で、MUFG社長と銀行頭取を兼務することは、グループをリードしていく上で適切な形なのだろうと考えています。それだけに、私に課せられた責任は非常に重いものだと痛感しているところです。

 具体的なシナジーの一例としては、日本企業によるクロスボーダーのM&A支援が挙げられます。当社が出資するモルガン・スタンレーのネットワークを生かして、私どもの国内のお客さまに対するサービスを行ってまいりました。リーマンショック直後に、モルガン・スタンレーへの出資を敢行するという大きな決断が、成果となって表われてきたのだと思います。

―― MUFG全体で今後強化していきたい事業はありますか。

平野 これまでも、銀行と信託が一緒になって年金、不動産などのビジネスに力を入れてまいりました。ほかには、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の社員約600人がBTMUに出向し、銀行の支店などで金融商品の販売を行っています。銀証連携の強化により、銀行における投資信託や債券の販売と、証券仲介事業を伸ばす大きな原動力となりました。そういった意味で、グループ協働に関する基本的な枠組みは出来上がっています。

 この枠組みの中で税制改正に伴う、少額投資非課税制度(日本版ISA、愛称:NISA)や、孫に贈る教育資金の非課税措置に対応したサービスに取り組んでいく所存です。

 NISAに関しては、グループ全体で初年度50万口座獲得という目標を掲げています。BTMU、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、カブドットコム証券の4社で口座を取り扱い、三菱UFJ投信と国際投信投資顧問で専用投信を開発します。個人の投資意欲を喚起しながら、投資を通じて国内だけではなく、アジアを含む新興国の経済成長に寄与するような好循環を作っていけたらと思います。

平野信行氏は語る 海外事業は地場企業支援に力点を置く

―― 海外諸国の経済振興に関連して、貴社の海外事業について聞かせてください。

20130730_16_02平野 海外事業に関しては、MUFG全体では20%台、銀行でみると30%程度という海外収入比率を、14年度までにそれぞれ10%ずつ高めていく計画です。

 市場の大きさと金融事業活動の自由度という観点から見ると、米国を無視することはできません。今後も中程度以上の成長が見込める巨大市場です。現在、BTMUは東海岸地域を中心に法人ビジネスを展開しています。体制強化を目的に、米国の銀行子会社であるユニオンバンクと業務統合を進めているところです。

 また、当社では、成長著しいアジアを「第2のマザーマーケット」と位置付けています。アジアは、BTMUが伝統的に日本企業のアジア進出をサポートしてきた歴史があります。

―― アジア地域での取り組みと戦略について。

平野 現在は、日本企業の海外進出支援を中心としていた第1段階から、地場企業へのサービス提供にも力点を置く第2段階に移行しつつあります。各国の大手民間企業や政府機関、欧米系多国籍企業からの事業収益が、日系企業からの収益を既に上回っている状態です。

 今後は、銀行にとって最も重要な預貸業務と同時に、外国為替決済業務や貿易ファイナンスなどを行うトランザクションバンキングを一層強化していきます。アジアの貿易構造は、原材料や最終製品から、加工品や部品などの中間財メーンに変化しているのです。それだけ、域内においてサプライチェーンが育ってきたということでしょう。高まりつつあるニーズに、しっかり対応していきたいと思います。

 もう1つは、市場性のビジネスも強化していきたいですね。徐々に市場の開放が進めば、お客さまのニーズが増え、ビジネスとしての広がりが出てくるでしょう。

―― ほかに強化を目指している事業はありますか。

平野 地域をまたいだ「アジア金融市場」ができつつある現状を踏まえて、大規模なシンジケートローンやプロジェクトファイナンスへの参画によって地域振興に貢献しながら、私どもが現地で主要プレーヤーを目指していくということです。

 BTMUが昨年12月に行ったベトナム銀行大手のヴィエティンバンクへの出資も、試みの1つです。リテール、ミドルマーケット、コーポレートファイナンスにおける幅広いお客さまに対するサービスをとおして、現地の内需を取り込んでいきます。

三菱東京UFJ銀行と三菱UFJキャピタル

三菱東京UFJ銀行と三菱UFJキャピタルは、東北の地銀らとファンドを設立し、農林漁業者の6次産業化を支援する

国内では成長分野とインフラ整備に商機と語る平野信行氏

―― 国内融資事業はどのように推進していきますか。

平野 私自身は商業銀行の場合、軸足を母国市場に置くことが重要だと思っています。小国を母国とする金融機関のように、自国市場だけでは十分な活動ができないケースもあります。私どもは幸いにして、日本という世界第3位の経済大国をマザーマーケットとして持っています。これは銀行として、隠れた最大の強みです。

 銀行は産業の血流として黒子に徹しながら、お客さまの成長をサポートしていく必要があります。最近で言えば、現政権の成長戦略に関連して、将来性を期待された成長領域があるわけです。具体的には、医療や環境エネルギー、次世代インフラ、農業をはじめ、枚挙にいとまがありません。専担チームを中心として、積極的な融資活動を行う方針です。

―― 成長産業のほかに、どういった分野に商機を見いだしていますか。

平野 道路や港湾をはじめとするインフラに関しては、老朽化の進んでいるものが少なくありません。国土強靭化は必要不可欠ですが、国の財源には限界があります。ですから、民間資金を供給することで、社会資本の整備をサポートしていきたいと考えています。

 MUFGは昨年のプロジェクトファイナンスの引き受け実績ランキングで、世界一になりました。米欧やアジアを中心に着実に実績を積み上げています。海外では、公共施設の整備、運営にあたって民間の資金やノウハウを活用するPFI・PPP事業が盛んです。海外でノウハウを培い、日本での取り組みに還元していきたいですね。

―― そのほか、国内での取り組みは。

平野 今年3月末に、中小企業金融円滑化法が終了しました。中小企業が、産業の幅広い裾野を支える重要なセグメントであることは今後も変わりません。金融グループとして全力を挙げてサポートしていくのは、当然の責務であります。私どもの法人のお客さまは、8割以上が中小企業ですから。

 具体的には、事業承継支援もその1つであると考えています。中小企業へのサポートにあたっては、銀行、信託、場合によっては証券が参画するなど、グループ力を生かしていきたいと考えています。

(聞き手/本誌・鈴木健広)

 

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