マネジメント

「やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」

 有名な山本五十六(やまもといそろく)連合艦隊司令長官の言葉です。人材育成やマネジメントの現場でも「教える際の心構え」として引用される名言ですが、実はこの言葉には続きがあります。

 「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

 「やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

 人を動かすこと(ほめること)は、人を育てる前の段階ということになります。それほどに、「ほめること」は人を育てる上で基本中の基本なのです。

 これには少しばかりコツが必要です。今回は、社員のさらなる成長のためにも、効果的なほめ方を紹介したいと思います。

 

強い自己顕示欲と過剰なほめ方の関係

 

 会社という組織はチームプレーが基本です。もちろん、一人ひとりが自分の能力を発揮することも重要なことですが、単なる個の集まりでは、うまく機能しないケースがほとんどでしょう。自分だけが手柄を得ようとするのではなく、チームの一員として周りとどう協力するか、という視点をそれぞれが持っていなくては、会社としての成長は見込めません。

 例えば、子どもたちは、幼稚園や保育園で集団生活を送る中でチームプレーの意識を身に付けていきます。けれどもそこで、必ずといっていいほど存在するのがチームワークを乱してしまう子どもです。

 その原因の大部分は「ずるをする」こと。つまり、遊びのルールを無視して自分だけが勝とうとしたり、みんなで使うべきものを独り占めしたりという自分勝手な行動です。

 会社においても、仕事のやり方が常に自己中心的な人物は、チームの輪を乱す存在になります。たとえその人物が高い営業成績を挙げていたとしても、そういう人物の存在は、周りのメンバーの大きなストレスになりますので、看過することはできません。

 子どもの場合も、大人の場合も、自己中心的な行動の多くは「強い自己顕示欲」。つまり、自分が一番になりたい、自分だけがほめられたい、目立ちたいという意識の表れなのです。

 実は、自己顕示欲が非常に強い子どもにはある共通点があります。それは、「できた!」「すごい!」「上手!」というほめ言葉を過剰に受けて育っている、ということ。結果的に彼らはこのようなほめ言葉の呪縛に囚われているのです。

 「できた!」「すごい!」上手!」というのは、結果に対するほめ言葉。そんな言葉をいつも浴びている子どもの中には、「よい結果を出すことこそが自分の価値である」という潜在意識が育ち、それが、「手段を選ばす結果を求める」という行動に走らせてしまうのです。

 「ほめる子育て」が主流になって久しい昨今ですから、そんな意識を抱えたまま、社会人デビューを果たす若者はこれからどんどん増えるだろうと私は予想しています。

 

人材育成に効果的なほめ方1.具体的なプロセスに注目する

 

 自己顕示欲が強い人というのは、他者承認を常に求めています。逆に言えば、他人に評価されなければ、自分の価値を実感することができません。

 「いい結果を出さなければ自分は認めてもらえない」という方向にいつも思考が向かっているので、結果に異常に執着するのです。ずるをしたり、自分本位な行動をしたりする理由もそこにあります。

 他者承認を過剰に求める人というのは、ありのままの自分の価値を自分で認めることができない、つまり、自己肯定感が非常に低い人だということができます。ですから、自己肯定感を高めていくトレーニングが必要ですが、そのために必要なのは、結果ではなく、プロセスの一つひとつをきちんと認められる経験です。

 例えば、子どもがブロックをやっているときには、どのように遊んでいるかに注目します。「いろんな色を使うのが好きなんだね」「色と色を組み合わせて作るんだね」など、遊んでいる様子を具体的に褒めると、言われた子どもは、デザインに凝ったものを作るようになっていきます。

 また、「高いものを作るのが好きなんだね」と声を掛けた子どもは、翌日にはさらに高くしようと挑戦します。明らかに自分自身の興味関心を意識した行動をとるようになり、自分で工夫することに喜びを感じ、創意工夫のできる子どもに育ちます。

 逆に、「高いね」「すごいね」だけだと具体的ではないので、前回よりも発展、工夫を見いだせず、反映性が見られなくなります。ポイントは、具体的なプロセスに着目する、感想・気持ちを添えて伝える心持ちの部分(スタンス)を重要視する、です。

 

人材育成に効果的なほめ方2.男性と女性では響くポイントが違う

 

 この、効果的なほめ方は、大人にも応用できます。さらに上級者は、男女別のコツも知っておくと便利でしょう。叱り方同様、子育てにおける男女のほめ方の違いが応用できます。

 男の子にとってほめられる(認められる)ということは、プライドが保たれることとつながっています。女の子は何事においてもシビアな面がありますが、男の子は大げさに盛り上げると、素直に喜びを受け止めることができます。

 ほめられて気持ちは高ぶるのですが、一方で、「上手ね!」とほめられたことも、時間がたつと何をほめられたのか忘れてしまうので、具体的に、言葉にして褒めることで落とし込むことができます。

 男の子は思いを言葉にすることが難しいため、「丁寧に作ることができてよかったね。うれしかったんだね」といった具合に、感情を代弁し、具体的にほめることも大切です。

 一方、女の子の場合、「本人が一番よく分かっている」という前提で対応すると、効果的に伝わりやすくなります。

 周りの盛り上げで必ず喜ぶとは限らないのが女の子ですので、あまり盛り上げず、ほめるポイントを丁寧に言葉にしてあげることが大切です。漠然とほめるのではなく、「素敵な色づかいで絵を描けるようになったね」といった具合です。女の子は男の子よりも言語理解が早いのですが、言葉を丁寧に話してあげないと、穿った見方も出てきてしまいます。

 女の子の表情には、大人の声掛けの満足度が現れますので、返答をちゃんと聞き、自分のことを話したがる女の子の気持ちを慮ってあげることが大切です。

 私は子育ての専門家として、周囲の大人が「結果」ばかりをほめることで、子どもたちの伸びしろを摘み取ってしまうケースをたくさん見てきました。

 人育ては成長を期待しながらも、「結果」だけではなくそのプロセスを見てあげることの必要性を感じます。今回の「具体的にほめる」ことは人材育成においても、子育てにおいても、大切な原理原則ではないでしょうか。

男女別ほめ方のポイント3つ

【男性/男の子】

1.少し大げさに盛り上げる

2.「すごい」「上手」以外の言葉で褒める

3.具体的なことを言葉にする

【女性/女の子】

1.あまり盛り上げない

2.丁寧に言葉にする

3.相手の表情を見て感じていることを聞く

 

人材育成は自己肯定感を高める正しい「ほめ方」で

 

 自己顕示欲が強い人というのは、他者承認を常に求めています。逆に言えば、他人に評価されなければ、自分の価値を実感することができません。「いい結果を出さなければ自分は認めてもらえない」という方向にいつも思考が向かっているので、結果に異常に執着するのです。ずるをしたり、自分本位な行動をしたりする理由もそこにあります。

 他者承認を過剰に求める人というのは、ありのままの自分の価値を自分で認めることができない、つまり、自己肯定感が非常に低い人だということができます。ですから、自己肯定感を高めていくトレーニングが必要ですが、そのために必要なのは、結果ではなく、プロセスの一つひとつをきちんと認められる経験です。

 例えば、自分の思い通りの絵を描きたくて、みんなで使うべきクレヨンを独り占めしようとする子どもに対して、描きあがった絵の出来ばえそのものをほめているうちは、その子の自分本位な行動にストップをかけることはできません。そうではなく、「ここにオレンジ色を使うなんて、おもしろい発想ね!」とか、「随分細かく丁寧に描いているね」など、一つひとつのプロセスにおける「事実」を認めることが大事なのです。

 大人の場合も全く同じで、例えば「顧客に熱心に電話をかけているね」「スケジュールをきちんとこなしているね」というふうに、客観的な事実を冷静に、かつ、丁寧に認めてあげてください。

 その際、前述した通りできるだけ、プロセスを細かく区切って認めていくことが大切です。そうすることで、結果ではなく、そこに向かう自分のやり方一つひとつに自信がつき、たとえ結果に到達できなくても、「自分はここまで頑張れた」という自己肯定ができるようになります。

 そうすると行動が変わり、考え方も変わっていきます。過剰な自己顕示欲に支配されることもなくなるので、チームのメンバーと協力することも次第にできるようになっていきます。

 「ほめる」とは本来、相手を「認める」ということです。「最近の若者はほめて伸ばすのが得策」だとばかりに、むやみやたらとほめちぎるような指導法では、ほめられることだけを執拗に求める、自己中心的な人材ばかりを増やしてしまうことになりかねません。

 ぜひ一度、あなたのほめ方は間違っていないか、振り返ってみてください。

 

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