文化・ライフ

宇津井健さんが亡くなる数時間前に入籍した女性として、一躍話題になったマダムですが、そもそも、19歳の時にクラブなつめを立ち上げ、名古屋の「夜の商工会議所」とまで言われるまでになった実業家でもあります。後編では、マダムが歩いてこられた歴史を振り返りながら興味深いお話を伺いました。

加瀨文惠氏に聞くクラブなつめ創業のきっかけ

佐藤 日本一と言っても過言ではないなつめですが、創業したきっかけを教えてください。

加瀨 17歳の時に家出した私を拾ってくださった方のご縁で、「三姉妹」というバーでお運びをしたんです。

佐藤 最初からホステスさんではなかったのですね。

加瀨 開店前に掃除をしたり、お客さまのところに、お使いや集金などにも行きました。

佐藤 お客さまから見れば、まだ小娘ですものね。先輩方にいびられたりしませんでしたか?

加瀨 頂いたチップを横取りされるなど日常茶飯事でした。また、みんなで遠くに出掛けた時に、置いてけぼりにされて、街灯もない道を雨に濡れながら一晩中泣きながら歩いて帰ったこともあるんです。

佐藤 若くて可愛らしかったから嫉妬の的だったのでしょう。

加瀨 悔しくてね、絶対にいつか見返してやる、と思いました。

佐藤 その悔しい思いが開業するきっかけになったのですね。

加瀨 私の恩人のおばさんが住んでいた自分の家を担保に借金して開店させてくれました。その当時から素晴らしいお客さまばかりでした。

佐藤 なつめには若かりし頃から、父も通っていましたね。

対談の様子

加瀨 正忠先生は中曽根康弘さんが連れてきてくれたの。「経済誌を作っている若者だからよろしく頼むよ」とね。三鬼陽之助さんは正忠先生を「僕の弟分だよ」とおっしゃっていて、いろいろな方に応援されていましたよ。

佐藤 わあ、すごい方々に。ありがたいですね。また、影響を受けた同業者はいらっしゃいますか。

加瀨 昔、銀座のエスポワールというクラブに川辺るみ子さんという日本一のママがいらしたんです。川口松太郎の小説『夜の蝶』のモデルになった方でね、お店には白洲次郎さんや吉川栄治さんなどの文豪から経済界の方々もご家族でいらしてね。

佐藤正忠(左)、元サントリー会長・佐治敬三氏

『経済界』創業者・佐藤正忠(左)、元サントリー会長・佐治敬三氏と

佐藤 なつめも、ご家族といらしている方は多いですね。渡辺淳一先生もよくおいででした。

加瀨 ご家族と一緒に楽しめる社交場というスタイルを学んだのは川辺ママからなんです。尊敬する女性経営者でした。

佐藤 最近は一流の社交場としてのクラブは少なくなりました。

加瀨 そうですね、一流とは、長い年月をかけてお客さまに育てていただいて、やっと認められるものなんです。健さんもこのお店が大好きだったから、まだまだ頑張ります。


加瀨文惠

対談を終えて

大切な方を亡くされたばかりの時期に取材をお受けいただいたのも、「正忠さんのご縁ですもの」と、ありがたい限りです。宇津井さんと過ごした9年間の純愛ストーリーはまるで映画のようです。精いっぱい努力してきた人生にはこんな素敵なご褒美があるのかもしれません。

 

 

[前編]「夜の商工会議所」マダムの秘話 前編--加瀨文惠氏(なつめ加瀨グループ社長)

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