文化・ライフ

 5月に開催されたAFC女子アジアカップで優勝し、2015年カナダで行われるFIFA女子ワールドカップの出場権を獲得したなでしこジャパン(日本女子代表)。前回優勝したドイツ大会に続き、再び世界の頂点を目指すことになる。

 なでしこの躍進をもたらしたのは、佐々木則夫監督の卓越した指導力だ。女子チームの力を最大限に発揮させるためには何が必要なのか。スポーツジャーナリストの二宮清純氏が迫った。

佐々木則夫

佐々木則夫(ささき・のりお)
1958年生まれ。山形県出身。帝京高校、明治大学を経て、大宮アルディージャの前身である電電関東/NTT関東サッカー部でプレー。33歳で現役引退後は、指導者としての道を歩み、88年大宮アルディージャ監督に就任。2006年日本女子代表コーチ、U−17日本女子代表コーチを務めた後、07年から日本女子代表監督を務める。

女子サッカーの指導では公平性と公正性を重視

二宮 佐々木監督はコミュニケーション能力が高く評価されていますが、選手の意見をきちんと聞きつつ、ベストの選択をするというスタイルですよね。

佐々木 そうですね。例えば以前、試合中に川澄(奈穂美)から右サイドハーフのポジションを丸山(桂里奈)と代わったほうがいいんじゃないかと提案があって、そのとおりにしたことがあります。そうやって選手たちが僕に伝えてくれることが重要だと思うんですね。

二宮 澤穂希選手が話していたのですが、以前イタリアの空港で立ち往生した時、監督が毛布を選手全員分かき集めて持ってきてくれた姿を見てえらく感動したと。女性はそういうところを見てるんですね。

佐々木 まあ、女性は結構細かいですからね(笑)。僕が指輪をちょっと変えたりすると、選手の1人が「あれ、ノリさん指輪変えたでしょ」って。驚きました。

二宮 細かいなあ(笑)。

佐々木 見られてるなあってゾッとしましたよ(笑)。

二宮 女子を指導する上では、男子よりも公平性や公正性が重視されると思います。以前、バレーボール女子日本代表の眞鍋政義監督と話した時に、公正性を担保するために、iPadを持ち歩いてデータで数字を示しながら指導すると言っていました。そのへんはどう配慮しているんですか。

佐々木 どちらかというと、「僕は配慮できない性格です」というのを、最初からなるべく表に出しますね。

二宮 選手は自分を使ってくれる監督のほうがいいに決まっていますが、控えの選手に対してはどんなフォローをしているのでしょうか。

佐々木 まず、外した理由については言わないんですよ。仮にその理由が解消されても、レギュラーの選手がしっかりやっていたら、なかなか代えられないですから。でも、実際に勝負を決めるのはサブの選手であることが多いんです。だから、勝負を決めるのは君たち、大事なときに使うぞ、ということを伝えます。

二宮 それなら選手もやりがいがありますね。

佐々木 それで1人でもサブのメンバーが結果を出せば、みんなが呼応して喜んでくれるんです。2011年のドイツワールドカップの時は川澄が途中出場で活躍したので、サブの選手はやっぱり勝負を決めるのは自分たちだという意識を強くしました。以前、川澄が「何で私たちは先発選手のようにフィジカルコーチが付いて、丁寧にウォーミングアップさせてくれないんだ」と言ってきたことがあります。だから、「君たちはすぐにゲームに入って戦える準備をしなくてはいけないんだ。勝負を決めなければいけない場面で、ウォーミングアップを丁寧にする余裕はあるか?」と答えたら納得しました。

二宮 彼女は主張するタイプなんですね。

佐々木 実際に誰かがけがして、すぐ交代でピッチに入らなければいけない場面もありますからね。そういう意見を言ってくれたから、こちらも本気だということを伝えられたので非常によかったと思います。

佐々木則夫人材の配置で能力を引き出す

二宮 監督のマネジメントで感心したのが、澤選手と阪口(夢穂)選手をボランチにコンバートしたことです。適材適所を見極める眼力はどう養ったのですか。

佐々木 僕は監督になる前、コーチも2年間やっていたので、その時から澤のボールを奪う嗅覚には気付いていました。トップ下だとどうしても彼女の守備の良さが生きないので、もっと組織的にボールをボランチのところに呼びこんで取ればいいんじゃないかと。あと、意外ですが彼女は前を向いているときは良いけど、ターンがあまり得意じゃない。それなら、トップ下で背を向けてボールを受けるよりも、トップに当てたボールを前向きで受けたほうが絶対いいと思いました。あとは、左足のロングフィードの精度が凄く高いのでそれを生かそうと。

二宮 なるほど。

佐々木 阪口と澤をボランチで組ませたのは、阪口はまずヘディングが強い。あとは「間」を作れるし、ロングフィードができるし、上がって行ってミドルシュートも打てる。性格的にはどちらかというと飄々としていて、泥臭いことが得意なほうじゃなかったんです。でもベテランの澤が横でスライディングしたり体を張ったりしていたら、自分も体を張らざるを得ない。隣の人に学べるんです。

佐々木則夫

二宮 そこまで考えてるんですね。自分でも人材マネジメントに長けていると思われますか。

佐々木 まあ、それが仕事ですからね。常にシミュレーションを重ねて、イメージは持っています。ただ、試合になったら覚悟して見ているしかありません。いくら良い攻めをしていても、一発でやられる場合もあるわけですから。

二宮 監督の仕事は、判断も大事ですが決断はもっと大事だと思います。勝てる監督はここぞというときに、迷いなく決断できるんですよ。

佐々木 よく女房には「あなた本当に注文する時考え過ぎ」と言われるんですが(笑)。

二宮 そうですか(笑)。ネクタイを選ぶ時もすぐには決められないみたいな。

佐々木 どっちにしようかなと、よく迷います(笑)。だから、僕にはある程度しっかりした準備が重要なんです。

日本女性はサッカーに向いている

二宮 前回のワールドカップは、ダークホース的な立場から優勝したわけですが、次回は追われる立場になります。その壁を打ち破って、なでしこが前に進むために必要なことは。

佐々木 各パーツにレベルの高い人材を置き、なおかつ攻守のアクションの質を上げていかなければなりません。最近は女子サッカーにもかなり技術的な要素が組み込まれてきているので、個の質を絶対的に上げる必要があります。

二宮 泥臭い技術や体の使い方で、小よく大を制す。これをなでしこは実行して、結果を出しています。ある意味、男子より先に進んでいる気もします。

佐々木 オフサイドというルールがある以上、陣形をコンパクトにして相手のパワーとスピードを出させない。そして効果的にボールを奪う。これが日本の女子チームはできるんです。協調性があるというか、味方がミスをしてボールを奪われたときは、男子よりも女子のほうがハイパワーで追い掛けますね。

二宮 女子のほうが勤勉で真面目ということでしょうか。

佐々木 練習後の自主トレも、男子よりやると思います。そういうところで、日本の女性はサッカーという競技に適しているんじゃないでしょうか。

二宮 これまで日本の女子チームの指導者と言えば「俺について来い」タイプが多かったと思います。しかし、佐々木監督はむしろフォロワーシップというか、選手をまず下支えしながら自分のやりたいことを浸透させるという、新しいタイプのリーダーではないでしょうか。そのへんは意識していますか。

佐々木 そうですね。ただ、どこを目指すかについては、しっかり伝えておかないといけません。一方で、われわれが、ああしろ、こうしろとやると、つまらないサッカーになることも分かっています。過程の中でいろんな問題が出てきたときに、ある程度時間をかけて自分たちで考えてほしいし、コーチたちにもそういう姿勢で指導してもらっています。

佐々木則夫と二宮清純二宮 アスリートは基本的に我が強い。トップ選手となれば、1つにまとめるのは難しいのでは。

佐々木 ウチの選手たちは、むしろ依存性がありましたね。これでいいんですか、評価はどうですかと、最初は人の目をすごく気にしていました。ポジションを変えても、理由を聞かずに我慢していることもあった。でも、ベースになることを教えたら、あとはしっかりと自分たちで話し合って、対応を考えさせるということをやらないとダメだなと思いました。

二宮 ワールドカップでは当然2連覇を目指していると思いますが、結果いかんにかかわらず、4年前との違いをどんな部分でみせたいですか。

佐々木 女子サッカーも男子並みに戦術的、技術的なレベルが高くなってくる中で、相手も日本サッカーを熟知してチャレンジしてきます。そういうケースは初めてなので、われわれとしても、個の技術、判断という点で、今までやってきたことの質を高めつつ、その集合体としてレベルアップした姿をお見せしたいと思います。

(構成=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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