マネジメント

戸井田和彦

戸井田和彦(といだ・かずひこ)
1952年生まれ。75年立教大学経済学部卒業後、日産自動車入社。部品事業部国内部品営業部部長を経て、2001年に常務。09年にファルテック取締役副社長、アルティア取締役会長(現任)。10年、ファルテック代表取締役社長就任。

野田一夫とカルロス・ゴーンに共通するグローバル感覚

 多くの経営者が師と仰ぐ野田一夫氏のゼミ出身、正真正銘の「教え子」が戸井田和彦氏だ。1975年に日産自動車に入社し、2001年には、カルロス・ゴーン社長から常務に抜擢された。現在は成長中の自動車部品メーカーの経営者となった戸井田氏は「野田先生は人生の師で、ゴーンさんからも経営のイロハを教わった。2人の師を持つことができて幸運でしたし、だからこそ私も企業を成長に導いてこられた」と語る。

 ニュービジネス協議会を立ち上げた野田氏の教え子の中では、日産という大企業を選択した戸井田氏は異色だった。

 「日産のスカイラインにあこがれて入社したいと思いましたが、先生からは『何でそんな大きいところに行くんだ。鶏口となるも牛後となるなかれ、だぞ』と言われました。たとえ小さな会社でも、そこで頭になれ、との教えがありましたからね」

 教えに反し、日産自動車に入社。中小企業に就職して早くに出世する大学時代の同級生を見て「先生の言ったとおりだ」と思うこともあった。国内部品営業部部長を経て常務となり、国内外のマーケティング、セールス、アフターマーケティングを担当した戸井田氏は、自動車部品の製造という全く違う業界に足を踏み入れることになる。

 「そこは先生の教え子なのですね。日産でジ・エンドではなく、当時厳しい経営状況にあったファルテックを再建させるという選択肢を自ら好んで選びました。再建させ、東証2部に上場することができましたが、まだスタートラインです」

 大学改革を志し、3大学の創設に成功し、今も4つ目の大学を立ち上げようとする野田氏の生きざまは、戸井田氏にとってあこがれだという。日産の役員時代、また、ファンド期限が迫る中でリーマンショックのあおりを受けたファルテックを再建する過程で何度も野田氏に会った。

 「80歳を超えた今も元気で、あくなき追求をしている姿は励みになりますし、いつも目標です。会うだけで情熱のような、湧き上がるものがあります」

 ゴーン氏から常務に抜擢された理由も、大学時代に野田氏にたたき込まれたグローバル感覚があったからではないかと戸井田氏は推測する。マサチューセッツ工科大学での研究生活経験がある野田氏の周りに多くの外国人がいた影響もあり、戸井田氏もグローバル感覚を磨くことができた。ある会合後の食事の席で、片言の英語で外国人とばかり話す当時部長職だった戸井田氏の姿をゴーン氏が見ていた。

 「ゴーン氏は、国際的に活躍する人の共通点は、自分とは違う人に興味を持ち、共感し、敬意を払う姿勢があるところだと言います。この姿勢があればダイバーシティに応えられる。グローバルなビジネスを展開する上で大事なことだ、と何度も聞きました。これは野田先生も全く同じ考えでしたし、私も常にそのような考えを持つように心掛けていました。そこを評価されたのでしょう」

カルロス・ゴーンに8年接して学んだ経営の要諦

 常務として8年間、ゴーン氏と間近に接してきた。同行した出張中に多くの会話をし、意思決定の瞬間に立ち会ったことは、格好のケーススタディーとなった。

 「私も経営者になり、部下に『計画が5%、実行し成功させることが95%』『優先順位を考えて判断しろ』などとうるさく言います。後でゴーンさんと働いていたころのメモを振り返ると同じことが書いてあったりします。体が覚えているというのは、幸せなことです」

 こうして戸井田氏はファルテックを経営する中で2人の教えを生かす。野田氏の教えで共感するのは、例えば「企業は限りなく個性的であれ」「優れた個性、理念、目標、戦略のない小企業が、大企業に躍進することはない」という言葉だ。戸井田氏も長年聞かされていたこの言葉に納得し、あらためて解釈し直した。

 「当社の個性は、ビジネスモデルだと私流に受け止めています。当社は、自動車の外観を作る量産部品製造会社と、純正用品製造会社の2つの会社が合併して誕生しました。両方を扱う企業はほかになく、これを個性とするべく、2年前から取り組んでいます。上場し、さらに上のステップを目指すために、より個性的な組織にしていく必要があると考えています」

 もちろん、戸井田流の取り組み方もある。野田氏やゴーン氏と比べて経営のスピード感に欠けると認める一方で、堅く、着実に歩んでいるという。戸井田氏は「それが甘さかもしれない」と話すが、真の意味で個性を作り出すには、師の教えを守るだけでなく、アレンジして生かす姿勢も必要かもしれない。昨年度は増収増益、合併発足して以来の最高益となったファルテック。進化は始まったばかりだ。

(文=本誌・長谷川愛 写真=西畑孝則)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る