マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

PL法の適用対象はどこまでか―メルセデス・ベンツの事例

 今回のテーマは、「PL法の適用対象」です。PL法の正式名称は「製造物責任法」。その名のとおり、PL法は「製品に欠陥があった場合の業者の特殊な責任」を定めた法律ですが、適用対象は製造業者のみに限定されません。今回は、高級外車メルセデス・ベンツの事例をもとにPL法の適用対象について説明します。

【事 例】

 ある会社の創業者、A氏は、高級外車のメルセデス・ベンツを購入しました。販売したのはメルセデス・ベンツ日本株式会社。同社は、ダイムラー・クライスラー株式会社(当時)の日本における総輸入元として、同社製品の輸入販売を手掛けていました。

 A氏は購入したベンツで妻と初ドライブに出掛けました。ところが、メーターの表示されるディスプレーに、トランクの開閉状態に関する警告灯が点灯しています。そこでA氏は、登坂車線にてレバーをパーキングに入れ、フットブレーキを踏みこみ、停車させた上で、トランクの開閉作業を行いました。しかし、開閉作業を何度繰り返してみても警告灯は消えません。

 A氏が途方に暮れていると、停車中のベンツが、突然坂を後退し始めました。慌てたA氏は、後退するベンツを追い掛け、運転席に乗り込もうとしましたが、車体とガードレールの間に挟まれたまま30メートル近く引きずられてしまいました。A氏はレスキュー隊に救出され、病院に搬送されましたが、胸部挫傷により亡くなりました。

 そしてA氏の遺族は、欠陥車両を輸入・販売したことを理由に、メルセデス・ベンツ日本株式会社に対し、6億円近い損害賠償を求める訴えを提起したのです。

【解 説】

事例から考えるPL法 ①対象は製造業者だけではない

 PL法の適用対象は、大きく次の3者です。

(1)製造業者

(2)加工業者

(3)輸入業者

 このうち、「輸入業者」がPL法の適用対象に含まれていることに違和感を覚える方もおられるはずです。ただし、今回のベンツ事件で訴えを起こされたメルセデス社も車両を製造していたわけではありません。ですが、車両を輸入していたことでPL法の適用対象となったのです。

 PL法は、日本の消費者を欠陥商品による被害から守る法律です。輸入業者は製品を国内で最初に流通させる当事者なので、PL法の適用対象とされるわけです。

事例から考えるPL法 ②過失がなくとも責任を取らされる

 PL法の適用対象となる業者は、自身が製造・加工・輸入した製品に何らかの欠陥が認められた場合、それが過失によるものか否かとは無関係に相応の責任を取らされます。一般的な民事責任について定める民法では、当事者に過失がある場合に責任を負わせることを原則としています。

 ですが、PL法は過失があるかどうかを問題としません。その点で、業者に対し特別に重い責任を負わせる、恐ろしい法律と言えるでしょう。

 今回のベンツ事件では、最終的に欠陥なしと認定され、遺族の請求は棄却されました。

 ただし、第1審の判決が出るまでに約3年もかかった上に、事後的な検証も極めて綿密に行われており、解決までに費やされた業者側の手間と費用は計り知れません。仮に「ブレーキに欠陥があった」などと認定されていたら、裁判費用に加えて、多額の賠償責任を負わされていたはずです。

 ですから、「うちは、製品の製造にかかわっていないから、PL法とは無関係」と思い込まずに、扱う製品に欠陥がないかどうかを入念に検査することが大切です。そして、欠陥が疑われる場合には、製造元や輸入元と綿密にコンタクトをとった上で、適切に対処することが必須となります。

事例から考えるPL法 ③「製造元」の表記と選択も慎重に

 私の事務所に対する法律相談でよく耳にするのが、「製造元、あるいは輸入元といった表記を使っても問題はないか」という質問です。

 要するに、「実際の製造は下請業者が行っているが、下請事業者の名前で販売するわけにはいかないので、自社を製造元として表記したい」というわけです。

 実は、こうした表記をした業者も、PL法の適用対象となります。もちろん、実際の製造元である下請業者もPL法の適用を受けるので、もし「製造元」と表記された業者が賠償金を全額支払った場合には、一部の負担を下請業者に求めることができます。

 ただし、下請業者の中には資金力に乏しいところが少なくなく、負担を求めた結果、倒産してしまったケースもままあります。ですから、製品の「製造元」の表記に自社名を使う場合には、製造された製品に欠陥がないかどうかを入念に検査するのはもとより、下請先の資金力も念頭に置きながら万が一の事態に備えておくことが肝心です。

筆者の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る