マネジメント

森 正文

森 正文(もり・まさぶみ)
1962年東京都生まれ。上智大学法学部卒業後、日本生命に入社。リーマン・ブラザーズに投資顧問として派遣され、融資・審査部に所属。98年日本生命を退社後、株式会社一休を設立し、代表取締役社長に就任。2000年に高級ホテル・高級旅館宿泊予約サイト「一休.com」を立ち上げ、14年3月期には会員数346万人まで成長させる。

一休社長が〝商売の神様〟伊藤雅俊氏から学ぶこと

 自分のペースに他人を巻き込む圧倒的なパワー。森正文・一休社長の強みはそこにある。だからこそ、伊藤雅俊氏(イトーヨーカドー創業者)、柳井正氏(ファーストリテイリング会長)といった著名な経営者から知遇を得ることができたのだろう。

 伊藤氏と森氏の出会いは、ちょうど一休が東証マザーズへの上場を控えた1週間前。2005年7月のことだ。若手経営者とインターネットの分野に興味を持っていた伊藤氏が、森氏に面会を求めたのがきっかけだ。

 最初の面会は、和やかな雰囲気からはほど遠かった。伊藤氏から上場する理由を聞かれて、「パブリックな存在になることで社会的信用性を得たい」と返したところ、「無借金経営なのに上場する必要はない」と言われた。その他の部分でも意見がかみ合わず、森氏が部屋を出ていこうとしたところ、呼び止められ、椅子に掛け直すよう促された。「まるで映画のワンシーンみたいでした」と森氏は笑う。

 それからは、元気の出るさまざまな言葉を伊藤氏からもらったという。

 「伊藤さんから、『君の会社は倒産しないよ』と言われたんです。理由を聞いたら、『上場前後の経営者の多くは自分がいかに頑張ったかを話すけれど、君の場合は一緒にやってくれた社員や顧客のお陰と言って、一言も自分という言葉が出なかったから大丈夫だよ』と言われました。商売の神様と呼ばれる人から、何たるありがたい言葉だろうと思いましたね」

森 正文 このほかにも、高級ホテルの宿泊予約を手掛けることで価格競争に陥らないことや、インターネットの世界で先行した優位性など、一休のビジネスモデルに伊藤氏は太鼓判を押した。

 「それで、友達になろうと言われて食事に行きました(笑)。以来9年間、2カ月おきに伊藤さんとの会合は継続しています」

 伊藤氏からは、いまだによく叱られるという。会食した翌日の早朝、会社からお礼の電話をかけたところ、なぜ、ホテルに営業に行かずに自分のオフィスにいるのかとたしなめられたこともある。

 「30分ほど電話で怒られましてね。まぁ、確かにホテルは営業しているけど、朝8時から行っても仕方ないでしょとも思いましたが……。友達になろうと言ったのは向こうからなのに、いまだにしょっちゅう怒られるんですよ(笑)」

 〝商売の神様〟の謙虚な姿勢にも驚くと森氏は言う。「レストランで食事していても、従業員などに対して本当に腰が低いし、人間は信用が一番大事だと常々仰っていますが、そういう態度を背中で感じます。本人は『俺は商人だから誰にでも頭を下げる』と言っていますけどね」

一休社長が教えを仰ぐ、スタープレーヤー柳井正氏の存在

 もう1人、森氏が定期的に教えを仰ぐのが柳井正氏だ。同氏との関係性は、伊藤氏の場合とは多少異なる。

 「柳井さんはスーパーストイックですご過ぎるというか、師匠というには僕とはあまりにも生き方や性格が違い過ぎます。卓越したスタープレーヤーみたいな存在。会うのはゴルフをする時ぐらいですが、ゴルフ場でも柳井さんとはずっと仕事の話をしています」

 森氏によると、柳井氏が息を抜くのはゴルフと読書ぐらい。柳井氏が東京進出した当時、「自分より一生懸命やっている社長なんて1人もいない」と感じ、会食などを減らして本を毎日1冊読む努力をしたというエピソードを聞いて驚愕したという。

 最近、柳井氏に言われたことで印象に残っているのは「自分たちは、世の中に役立つものをこれからも作り続けなければいけない」という言葉。メディアに登場するときなどは、冷徹な経営者のイメージが強い柳井氏だが、こうした部分に同氏の進化を感じているともいう。

 「私がある時『会社が倒産する夢をみて夜中にパッと目覚めることがある』と柳井さんに言ったんです。そうしたら、『ずっと成功し続ける人なんていないからその恐怖を成長へのエネルギーに変えなさい』と。創業者だけが持つ特有の恐怖を乗り越えてきた人の言葉だけに含蓄がありました。ただ、彼らに共通しているのは、当たり前ですが、強烈に仕事が好きということです。こちらも一生懸命に彼らの真面目さや真摯さから何かを学ぼうとしたから、共感し合えたんじゃないかと思いますね」

伊藤氏(前列左)、亀崎氏(同右)、寺澤氏(後列左)

森氏が「家庭教師」と呼ぶ伊藤氏(前列左)、亀崎氏(同右)、寺澤氏(後列左)

森正文社長が多くの師匠に恵まれる理由

 経営者がメンターを持つ意義について、森氏はこう言う。

 「人によっても違いますが、経営者はみんな孤独だから、師匠はいたほうがいいとは思います。特に創業者の場合は大企業の社長とは違うし、不安や孤独を解消するためにも同じ経営者の師を持つ意味はあると思います」

 とはいえ、誰もが素晴らしい師匠を持つ機会に恵まれるわけではない。森氏の場合は、冒頭に述べたように全身からみなぎるパワー、そして思ったことを素直にぶつける姿勢が、偉大な先輩たちに受け入れられた。

 「稲盛和夫さんを偶然見掛けた時も、ものすごいスピードで近寄って行って自己紹介したりしました。でも、誰に対しても宗教みたいにどっぷり信奉するのとは違います。本当に関心のあることを質問して、その結果バカにされてもいいかなと。自分を飾らず臆さず正面からぶつかっていけば、少なくとも相手の真剣度が増すので、最終的には良い関係を築けます」

 教えを乞うのは有名経営者だけではない。森氏が伊藤氏と共に「僕の家庭教師」と呼ぶのが、社外取締役の寺澤則忠氏と亀崎英敏氏。寺澤氏は日本政策投銀行出身で、森氏の父親の元部下にあたる。亀崎氏は、森氏が就職活動で三菱商事を訪問した時、面接官を務めていたという不思議な縁だ。

 森氏が多くの師匠に恵まれるのは、尊敬できる人から常に何でも吸収しようとする謙虚さと、それをストレートに表現する屈託のなさによるのだろう。

(文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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