マネジメント

 日本の半導体業界のマネジメントの世界で、多くの経営者を育てたと言えるのが、インテル日本法人で社長を務めた傳田信行氏だ。今回紹介するリアルテック・セミコンダクター・ジャパン元社長の川上誠氏をはじめ、傳田氏の部下の多くがインテル退社後に社長として企業経営に携わっている。傳田氏と川上氏の師弟関係に着目する。

左から川上 誠、傳田信行

左から、川上 誠(かわかみ・まこと)
1979年インテル米国本社に入社。83年インテルジャパンに配属。88年インテルジャパンを退職、ザイコージャパンを設立以降、ザイリンクス、チャータード・セミコンダクター、リアルテック・セミコンダクターなどの日本法人社長を歴任。2012年ハーバード大学特別研究員、13年NPO法人ソーシャルハーツを長男の雅史氏と設立、代表理事に就任。

傳田信行(でんだ・のぶゆき)
1971年インテル日本法人入社。76年インテルジャパン㈱設立、同社の社員第1号となる。87年代表取締役副社長に就任。93年米国本社副社長兼任。97年インテル㈱代表取締役社長に就任。2001年3月インテル代表取締役会長を退任。01年7月傳田アソシエイツ設立、ベンチャー育成および投資、コンサルティングを行い現在に至る。

米インテルの躍進に尽力した傳田信行氏の人材教育

 米インテルは世界一の半導体メーカーだが、その隆盛には1970年代から80年代にかけて日本市場での売り上げ拡大が寄与し、「日本の顧客がインテルを育てた」と言える。そして、インテルの日本法人の立ち上げからかかわり、インテルの躍進に尽力したのが傳田信行氏だ。パソコンのCMでお馴染みのキャッチコピー「インテル入ってる(インテル・インサイド)」も傳田氏の指揮の下、日本発祥のプロモーションとして始まった。

 傳田氏がこだわったのが人材教育で、「傳田学校」と呼べる状況だった。傳田氏の人材教育は、とにかく部下に考えさせる。スタッフミーティングはすべて英語で行い、プレゼンでは質問攻めにする。その質問への対応を通じて、部下の思考のレベルを自らに近づけさせていった。その一方で必要な失敗をさせて経験を積ませ、トップとしてのプラスアルファを身に付けさせる。こうして育てた部下を率いた傳田氏はインテル日本法人で3千億円の売り上げを達成。その時の部下の多くが現在、経営者として活躍しているという。

 川上誠氏も傳田氏の薫陶を受けた1人だ。直接的なかかわりは、傳田氏が副社長の時に、川上氏は代理店営業統括部長を務めた。川上氏は比較的早い段階でインテルジャパンを退社したため、ほかの傳田門下生と比べると傳田氏の下で働いた期間は短い。しかし川上氏がインテルを早期に去った理由は、「ゼロからインテルジャパンを立ち上げた傳田さんのように、自分も若いうちにゼロから会社を立ち上げる経験をしてみたかった」からだという。川上氏はインテルを退社後、米ザイコーの日本法人立ち上げに参画。その後も多くの外資系半導体メーカーで日本法人社長を務めたが、それは傳田氏から学んだことを実践する場だった。

 川上氏がインテルを去った後も、傳田氏から助言を受ける場面が多々あり、2人は「人生の師弟関係」にあるという。

川上 誠氏はNPOを立ち上げ東北の高齢者を支援

 川上氏は傳田氏から言われたことで印象的なこととして、次の4つを挙げる。

 「選択肢が複数ある時は、常に困難な道を選ぶ」「人の評価は、自ら対話し判断する」「数年先の目標を定め、具体的なイメージを描き、達成に向けて努力する」「職を辞する時は、惜しまれて去るようにする」

 これらは傳田氏自身が実践してきたことであるという。特に傳田氏と川上氏の2人の特徴として表れているのが、「困難な道を選ぶ」ということ。川上氏は複数の企業を渡り歩いたが、すべてが順調だったわけではなかった。しかし、困難な場面に直面した時に逃げなかったことが今につながっている。

 川上氏は今も困難な道に挑んでいる。台湾リアルテック・セミコンダクターを57歳で辞した後、2012年に米ハーバード大学の特別研究員として留学。帰国後、13年にNPO法人「ソーシャルハーツ」を立ち上げ、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町を拠点に高齢者支援活動を行っている。具体的には高齢者が生きがいをもって幸せな第2の人生を送れるように、生涯学習、多世代交流、雇用創出の3つの側面から支援している。

 「民間企業とNPOでは勝手が違う部分が多い」と川上氏は現在の苦労を語るが、崇高な理念の実現に向けて邁進している。傳田氏もソーシャルハーツのアドバイザーに名前を連ね、サポートしている。2人の師弟関係は舞台を移して続いている。

(文=本誌・村田晋一郎)

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