政治・経済

 苦境に立たされてきた大手外食産業の中で、唯一と言っていいほど、打ち出す施策が成功、一気に業界の雄に躍り出た、日本マクドナルドホールディングス。同社の勝因は常に来店客数の増加にフォーカスしてきたことだ。低価格商品やキャンペーン実施による話題性で集客力を向上させ、単価の高い付加価値型商品へ誘導することで右肩上がりの成長を遂げてきた。

 しかし、昨年4月から既存店売り上げの前年割れが常態化、今年の5月、6月こそ、前年を上回ったものの、その数字は小幅なものだった。

 原田泳幸会長兼社長に年明けから現在までの状況を聞いた。

原田泳幸(日本マクドナルドホールディングス会長兼社長)

原田泳幸(日本マクドナルドホールディングス会長兼社長)

「値下げ」と「値上げ」が混在する商品政策の意図

―― 年明け1、2月は厳しい数字になりましたが、その要因は。

原田 短期的な売り上げを作るためのディスカウントプロモーションを実施しなかったことと、新商品の打ち出しを控えたことが最大の要因です。中長期の成長を視野に入れ、改革を進めるためには、目先の売り上げを捨ててでもその決断が必要と判断しました。その決断によりある程度の落ち込みは織り込んでいました。しかし、その落ち込みが予想以上であったことは認めざるを得ない。もちろん経済状況の不透明さに起因する消費マインドの低下はあるものの、フードニュース、つまり新商品情報にお客さまがここまで敏感に反応されること、お客さまの当社の新商品へのご期待がここまで大きかったことはわれわれも予見することができなかった。

―― 商品政策で値上げと値下げが混在しています。一見分かりにくい体系ですが。

原田 まず申し上げたいのは、今回の価格戦略は「値上げ」でも「値下げ」でもない、ということです。そして、今までも一律値上げ、一律値下げをしたことはありません。当社は、お得感と収益性の両方を向上させるため、お客さまの需要にもとづき、最適な価格設定を行う「ダイナミック・プライシング」という考えを取り入れています。これは100円の商品から、今回の1千円でお召し上がりいただいた「ジュエリーシリーズ」に至るまでのすべての価格帯において共通する考え方です。

 その考えをベースに、この5月からは、100円から190円の価格帯商品を充実させた「バリューピックス」をスタートいたしました。100円のハンバーガーが120円に「値上げ」となったことが大きくクローズアップされましたが、実際にはマックフライポテト(S)が150円に(従来価格190~230円)、またチキンマックナゲット5個入りは先行して1月から190円(従来価格250~290円)としています。その他のメニューも含め、「ダイナミック・プライシング」の考えをベースに全体の価格バランス、価格整合性を取りました。すなわち、商品ごとにどのように価格を調整し、客数と客単価と利益率が向上する方向に行くのか、同時にお客さまの満足度も上がっていくのか、これが価格調整の基本的な考え方と目的です。

―― 5月の実施以降の手応えと成果についての見解は。

原田 5、6月の既存店売上高はプラスになりました。相変わらずの経済状況の中、2カ月連続でプラスの結果を残せたことには満足しています。5月の「バリューピックス」、6月は「〝BITE!〟クォーターパウンダー」プロジェクトなどがこの結果に寄与しています。また先日の「クォーターパウンダー ジュエリー」は1千円という価格設定ながらお陰さまで大変な反響となりました。これは、先ほども申し上げたとおり、お客さまは当社に新しい体験を求めていることの表れと言えます。ただ依然としてコモディティー商品に対するお客さまの目は厳しい。まだまだ予断を許さない、そう実感しています。

―― 6月から販売を開始した「クォーターパウンダー BLT」は高価格ですが、発売後の動向について、また、高額に設定した意図はどこにあるのですか。

原田 「クォーターパウンダー BLT」、「クォーターパウンダー・ハバネロトマト」とも好調です。特にハバネロトマトは予想を上回るペースで売れました。商品の価格設定で最も大切なことは、それぞれの商品がそれぞれの価格でお客さまのご期待を上回ることです。お客さまにとっての商品価値はお客さま一人ひとり異なります。おいしさ、質の高さ、安全性はもちろん、クイックサービスやおもてなし、便利な店舗立地、24時間営業など、見える価値、見えない価値さまざまです。それら価値がお客さまにとってのご満足につながって初めてお客さまがその対価をお支払いいただける。「クォーターパウンダーシリーズ」は単品で500円前後のお値段で確かにこれまでの弊社の商品価格からすると高めの設定になっています。ただ大切なことは価格以上の価値がその商品やお食事体験にあること、そう考えます。高級路線にシフトしたのではないことを付け加えさせていただきます。

ページ:

1

2

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る