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「生産性と顧客満足度を両立させたビジネスモデルが日本の観光産業を成長させる」--星野佳路(星野リゾート社長)

星野佳路氏(星野リゾート社長)

 軽井沢の老舗温泉旅館を、日本各地でリゾートを運営する企業へと飛躍させた。再生困難と思われていた物件を次々と蘇らせ、日本の観光産業振興のカギを握る経営者の一人。企業理念は「日本の観光をヤバくする」。「ヤバい」とは「VERY GOOD」の意味を込めた「COOL」としての表現だ。相手の心に響かせる生きた言葉として、あえて使っているミッションだという。(聞き手/本誌・榎本正義)

【ほしの・よしはる】

【ほしの・よしはる】
1960年長野県生まれ。83年慶応義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。帰国後、日本航空開発(現JALホテルズ)、シティバンク等を経て91年に先代から星野温泉(現星野リゾート)を引き継ぎ社長に就任。経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」などの施設を運営する“リゾート業界の革命児”。2003年国土交通省「観光カリスマ」に選定。11年から観光立国委員会委員長。

「バリや東京への進出は運命づけられていた」と語る星野佳路氏

―― 2014年「星のや バリ」、15年「星のや 富士」、16年には「星のや 東京」と開業予定が目白押しです。

星野 ホテル業界は運営と所有という大きな2つの役割があり、星野リゾートは運営会社としての領域をビジネスの中心に選びました。バブル期には新規参入も多く、大手不動産会社が日本中のリゾート開発を行ったことがありました。あの時期に当社は大転換したのです。私たちは古い施設を軽井沢に所有する会社でしたが、このまま所有と運営を一体にやっている限り、新規参入してくる大手にはかなわない。そこで運営だけに特化しようと考え、1992年に「リゾート運営の達人になる」と宣言し、邁進してきました。その時からバリや東京への進出は運命づけられていたと思います。

―― 01年山梨県リゾナーレの経営権を取得して再生させ、03年アルツ磐梯の経営に参加して業績を立て直すなど、その運営力を生かした経営再建事例が注目され、次々に案件が持ち込まれましたね。

星野 いい運営会社とは、顧客満足度と収益を両立できるところだと考えています。その仕組みづくりを一生懸命やってきました。日本は時給単価が高く、しかもホテルやリゾートは人件費が多く必要なビジネスです。ここできちんと利益を出さなくてはいけない。ここが海外と全く違う部分です。いわばかなり特殊性がある。この日本での運営ノウハウを蓄積した今、さらに広げていくには、海外のリゾートでもこの方法を採用してもらうことが1つの方向性です。東南アジアや中国など、当初は人件費が安いと思われていた国が今や上昇に転じ、生産性が重要視されるようになってきています。そこでは私たちが日本の地方の旅館やリゾートで培ってきたノウハウが、そのまま使えます。もうひとつは、都市に出ていくという方法です。この時も、生産性と顧客満足度を両立させた当社のノウハウが生かせると思っています。

―― 高級ブランドの「星のや」、温泉旅館「界」、大人のリゾートホテル「リゾナーレ」を中心に、今や国内30もの施設に広がりましたが、今後は?

星野 この3ブランドに加え、スキー場やゴルフ場などを備える総合リゾートの「トマム」、青森県三沢市の大型温泉旅館「青森屋」など、3ブランド枠組みに入らないその他の4つに分かれています。巨大リゾートのトマムは、客室数とレストランのキャパシティーのバランスを見直し、部屋をリニューアルし、リフトの架け替えなど10年をかけて再生してきました。青森屋は青森ならではの文化を取り入れ、ポテンシャルを高めました。今後は3つのブランドをそれぞれ伸ばしていきます。例えば、界は日本各地の温泉地にこだわり、ここ1~2年で現在の9カ所を30カ所まで持っていきたい。日本の高級温泉旅館は、日本人にも人気ですが、海外からの観光客にも非常に人気が高い。日本文化のテーマパークだからです。だが上質のサービスを維持するには、どうしても50室以下の規模になる。しかし、50室でも30施設あれば、計1500室となり、巨大リゾートと同じくらいの力を持つことができます。

星野佳路氏の思い 日本のおもてなしとはメッセージを伝えること

沖縄県八重山列島に昨年6月開業した「星のや 竹富島」。珊瑚の石垣に囲まれた庭付きコテージ48棟が並ぶ

沖縄県八重山列島に昨年6月開業した「星のや 竹富島」。珊瑚の石垣に囲まれた庭付きコテージ48棟が並ぶ

―― 界では社員が各地の文化を実感できる「ご当地楽」を提供しています。

星野 外部からスタッフを呼んでやってもらうのでは、サービス内容が固定化してしまいます。社員が自分でその地域の魅力や文化を掘り起こし、提供することに意味がある。日本の旅館で働く良さは、床の間はどうあるべきか、掛け軸とは何か、お客さまにお茶を出す時の作法など、日本文化に精通できることです。彼らは3~4年で異動しますが、津軽に勤めている間は津軽三味線を、加賀では獅子舞を勉強することによって各地の文化を体感し、スキルアップにつなげていける。いわば〝日本人度〟を高めることができ、お客さまにはそこでのもてなしを喜んでいただけるし、社員もモチベーションの維持やアップになる効果があります。私たちは部屋の清掃や調理の一部なども含め、外注スタッフを使わずにやっているので、スタッフ1人当たりのスキルの幅は広くないといけませんが、一端このスキルを身に付けると、組織として非常に効率的に回っていきます。他社に比べて、旅館やホテル全体のことが早く把握できるようになります。

16年に東京・大手町に開業予定の「星のや 東京」。

16年に東京・大手町に開業予定の「星のや 東京」。
日本旅館の良さを表現するため、一棟建てにこだわった

―― 星のや 東京は、日本流のおもてなしにこだわるとのことですが。

星野 日本のおもてなしとは、伝えたいメッセージをしっかり持っているというところだと思います。西洋のホテルは、お客さまの要望にタイムリーに応えるということで、そこももちろん大事です。でもそれに加えて、この季節にこの地にいらしていただいたのなら、これだけは体感していただきたい、この景色を見ていただきたい、これを食べて帰っていただきたいといったメッセージを持つことが大事だと思います。お客さまは、今日はどんなもてなしをしてくれるのかと高い文化度をスタッフに期待するようになってくるのです。

―― 星野さんはホテルビジネスで有名な米コーネル大学に留学されていますが、何を学ばれましたか。

星野 私がコーネル大に行く前は、格好いいホテルはニューヨークにあったし、格好いいリゾートはハワイにありました。これからも西洋のホテルに学ばなくてはいけないと思って留学したのですが、あちらでは日本のホテルに対する冷たい視線を感じました。彼らが日本のホテルに行っても、日本らしさがないと言うのです。何が求められていたかというと、京都などの人気を見ても分かるように、日本は世界から人が集まる知名度があり、文化もある。ところが東京に行くと、西洋型のホテルしかない。そうではなくて、彼らは地域らしさを期待しているのです。この日本に対する失望感を払拭するには、日本らしさを格好よくしなければいけないと気付きました。これが出発点です。

―― 日本の製造業の方に学ぶべき点が多いとおっしゃっています。

星野 日本国内の宿泊需要は過去20年非常に安定しており、22兆~23兆円という大きな規模を維持しています。バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災でもあまり下がりませんでした。海外からの観光客数は、原発の風評被害も薄れ、円安の影響もあって、今年は過去最高の980万~1千万人になると見込まれます。つまり日本の観光産業の問題点は需要ではなく、収益力であり、利益率にある。利益率を高めるということは生産性を高めることで、それには製造業のノウハウが生きてくる。午前11時にお客さまがチェックアウトしてから午後3時までの間に、いかにしてきちんと部屋を清掃できるか、大量の夜の食事を高品質で提供するためには、といったことは、接客業というより製造業の工場のノウハウに学ぶべき点が多かったです。

―― 7月に星野リゾートの温泉旅館などを投資対象とする星野リゾート・リート投資法人の上場を予定していますが、旅館の不動産投資信託(REIT)は珍しい事例です。

星野 運営会社である星野リゾートと今回のリートで相乗効果を出していきたい。観光は成長産業という位置付けが成され、これから日本を支える一翼を担うのなら、一般投資家の方々が投資できる環境づくりをすることが大事だと思います。製造業の株を持っているとしたら、その一部を観光産業に投資し、成長の果実を共に得られるということになれば、観光産業を取り巻く環境はさらに盛り上がるはずです。

星野氏

星野氏は「言いたいことを言える環境をキープする」ことを大事にしている。人材を育てるための「究極のフラットさ」だという

休日の分散化によって業界は大変革を遂げると考える星野佳路氏

―― 観光産業への提言を。

星野 日本の施設のほとんどはバブル期にできたもので、その更新が遅れています。解決するには、日本には膨大な国内需要があるのだから、ここできちんと利益を出せる体質にする。利益が出るようになれば、新たな投資を呼び込むことができ、施設の刷新や人材育成も行われ、結果的にインバウンドが増える。魅力的な施設が増えると満足度も高まり、すべてにいい循環が生まれます。政策的には休日の分散化だと思います。日本は繁閑の差が大きく、ゴールデンウイーク、お盆休みと年末年始に需要が集中しています。これをフランスなどのように地域ごとに分散する。例えば、今週は九州のGWということになれば、各地で九州の人に来てもらうにはどうするかを考えるようになるでしょう。魅力的な商品やサービスもいろいろ出てくるはずで、大変革につながると思います。需要が分散され、公平な競争状態が生まれれば、意欲的な人の活躍の場は増えるし、何より消費者が価格やサービス面でメリットを受けられる。日本の観光産業全体の成長の起爆剤にもなると思います。

 
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