文化・ライフ

診察よりも優先される医学系学会

 「本日は、○○先生は学会出張で、△△先生が代診です」

 大学病院の外来診療を受けに行くと、こんな掲示を目にすることがある。これは、大学病院の医師たちが、診察よりも学会を優先させていることの現れだ。大学病院は研究機関も兼ねているので、医師が学会に行くこと自体に目くじらを立てるつもりはない。問題にしたいのは、医学系学会(以下、医学会)の数の多さだ。

 日本学術会議が「日本学術会議協力学術研究団体」と指定している団体数は1500強。うち医学会は、10万人以上の会員を擁する「内科学会」を筆頭に120団体ある。これに各種の研究会を含めると、数が多過ぎて、いくつあるかの見当すらつかないほどだ。

 医学は、その進歩によって専門性が強く求められるようになってきた。その点では、新たな学会が相次ぎ生まれ、学会の数が増えるのも、自然の成り行きと言える。だが、医学会の数の多さには、もっと泥臭い理由もある。

 医学会の典型的な作られ方は、「ある教授が自分の専門領域の研究会を仲間と立ち上げ、会員が一定数を超えた時点で学会になる」といったものだ。こうして作られた学会は、会員数の増加につれて、製薬会社との関係を深めていき、医薬品のプロモーションの場として機能するようになる。この過程で生まれるのが、学会の実力者(理事長・理事を務める教授)の利権だ。いわば医学会は、研究の場であると同時に、大学教授の利権、あるいは専門分野に対する支配力を形成・増大するための場でもあるわけだ。ゆえに医学会の数は増え続けているのである。

臨床に費やす時間を削ってでも学会に参加

 学会の一般会員である大学病院の医師たちは、研究者として自分の研究を発表していかなければならず、学会での発表数が医局員の(大学病院内での)評価にもつながる。そのため、医局員は臨床に費やす時間を削ってでも学会に参加し、研究発表に取り組む。もちろん、研究は大切だし、研究成果を披露するのは研究者として当然の行為だ。だが、参加する学会の数が多過ぎる。大学病院の医師たちは1人平均10程度の学会に属している。それだけの学会に参加していれば、各学会で研究発表を行うだけでも相当な負担となる。そのため、発表内容の質は低下していき、タイトルだけを変更し、複数学会で同じ内容の研究発表をする医師も珍しくない。言うまでもなく、そんな研究発表は、するほうにしても、聞かされるほうにしても時間の無駄でしかない。

 医学会では今、専門医制度の見直しを進めている。各学会がそれぞれ独自に専門医資格を作ったために、やたらと専門医が増えてしまったためだ。専門医資格は5年に1度の更新が義務付けられており、その履行には毎年学会に出席して更新クレジットを取得していかねばならない。

 医局の医師の場合、専門医の資格がないと肩身が狭く、医局にいづらくなる。そのせいもあり、学会の会員数/参加者の数は、専門医制度の開始以前に比べて明らかに増えており、各学会の運営資金を潤してもいるようだ。

 もっとも、開業医にすれば、そんな話はどうでもいいことだろう。そもそも開業医は平日開催が多い学会に出席するのは難しく、それが理由で、医局時代に取得した専門医資格を失った医師もいる。とはいえ、専門医資格の有無で、医療報酬の基準値が上下するわけでもない。開業医にとっては、専門医資格を持つこと自体の意義が希薄なのである。

患者が不利益を被る医学会の乱立

 あらためて言うが、学会の乱立は、大学病院の医師たちの負担をいたずらに増やすだけで、医学・医療の発展には何も寄与しない。

 となれば、無駄な学会から減らしていくべきだが、現状では、学会自体を評価する機構や仕組みはなく、「野放しの状態」に近い。実際、参加者が極端に少ない学会もあるが、その存在意義が問われることはない。また、学会誌に掲載されている論文の質で学会を評価しようとする動きも見られない。

 学会の論文を評価するのは実は簡単で、その内容が世界中でどの程度引用されたかを基準にすればよい。この基準を指標にすると、例えば、医学博士論文の投稿先となる学会誌の発行元はすべて「二流学会」と言えるだろう。なぜならば、日本の医学博士論文はあくまでも形式的なもので、世界の研究者から引用されることはまずないからだ。

 このように、無駄な学会が多くあると、医師による無駄な研究・論文が増えていく。結果として、臨床に割く医師たちの時間が短くなり、患者が不利益を被る。だからこそ、無駄な学会の数は是が非でも減らしていかなければならない。それこそが患者の利益、ひいては、医療の抜本改革に通ずる道と言える。

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