文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

診察よりも優先される医学系学会

 「本日は、○○先生は学会出張で、△△先生が代診です」

 大学病院の外来診療を受けに行くと、こんな掲示を目にすることがある。これは、大学病院の医師たちが、診察よりも学会を優先させていることの現れだ。大学病院は研究機関も兼ねているので、医師が学会に行くこと自体に目くじらを立てるつもりはない。問題にしたいのは、医学系学会(以下、医学会)の数の多さだ。

 日本学術会議が「日本学術会議協力学術研究団体」と指定している団体数は1500強。うち医学会は、10万人以上の会員を擁する「内科学会」を筆頭に120団体ある。これに各種の研究会を含めると、数が多過ぎて、いくつあるかの見当すらつかないほどだ。

 医学は、その進歩によって専門性が強く求められるようになってきた。その点では、新たな学会が相次ぎ生まれ、学会の数が増えるのも、自然の成り行きと言える。だが、医学会の数の多さには、もっと泥臭い理由もある。

 医学会の典型的な作られ方は、「ある教授が自分の専門領域の研究会を仲間と立ち上げ、会員が一定数を超えた時点で学会になる」といったものだ。こうして作られた学会は、会員数の増加につれて、製薬会社との関係を深めていき、医薬品のプロモーションの場として機能するようになる。

 この過程で生まれるのが、学会の実力者(理事長・理事を務める教授)の利権だ。いわば医学会は、研究の場であると同時に、大学教授の利権、あるいは専門分野に対する支配力を形成・増大するための場でもあるわけだ。ゆえに医学会の数は増え続けているのである。

臨床に費やす時間を削ってでも医学会に参加

 学会の一般会員である大学病院の医師たちは、研究者として自分の研究を発表していかなければならず、学会での発表数が医局員の(大学病院内での)評価にもつながる。そのため、医局員は臨床に費やす時間を削ってでも学会に参加し、研究発表に取り組む。もちろん、研究は大切だし、研究成果を披露するのは研究者として当然の行為だ。

 だが、参加する学会の数が多過ぎる。大学病院の医師たちは1人平均10程度の学会に属している。それだけの学会に参加していれば、各学会で研究発表を行うだけでも相当な負担となる。そのため、発表内容の質は低下していき、タイトルだけを変更し、複数学会で同じ内容の研究発表をする医師も珍しくない。言うまでもなく、そんな研究発表は、するほうにしても、聞かされるほうにしても時間の無駄でしかない。

 医学会では今、専門医制度の見直しを進めている。各学会がそれぞれ独自に専門医資格を作ったために、やたらと専門医が増えてしまったためだ。専門医資格は5年に1度の更新が義務付けられており、その履行には毎年学会に出席して更新クレジットを取得していかねばならない。

 医局の医師の場合、専門医の資格がないと肩身が狭く、医局にいづらくなる。そのせいもあり、学会の会員数/参加者の数は、専門医制度の開始以前に比べて明らかに増えており、各学会の運営資金を潤してもいるようだ。

 もっとも、開業医にすれば、そんな話はどうでもいいことだろう。そもそも開業医は平日開催が多い学会に出席するのは難しく、それが理由で、医局時代に取得した専門医資格を失った医師もいる。とはいえ、専門医資格の有無で、医療報酬の基準値が上下するわけでもない。開業医にとっては、専門医資格を持つこと自体の意義が希薄なのである。

患者が不利益を被る医学会の乱立

 あらためて言うが、学会の乱立は、大学病院の医師たちの負担をいたずらに増やすだけで、医学・医療の発展には何も寄与しない。

 となれば、無駄な学会から減らしていくべきだが、現状では、学会自体を評価する機構や仕組みはなく、「野放しの状態」に近い。実際、参加者が極端に少ない学会もあるが、その存在意義が問われることはない。また、学会誌に掲載されている論文の質で学会を評価しようとする動きも見られない。

 学会の論文を評価するのは実は簡単で、その内容が世界中でどの程度引用されたかを基準にすればよい。この基準を指標にすると、例えば、医学博士論文の投稿先となる学会誌の発行元はすべて「二流学会」と言えるだろう。なぜならば、日本の医学博士論文はあくまでも形式的なもので、世界の研究者から引用されることはまずないからだ。

 このように、無駄な学会が多くあると、医師による無駄な研究・論文が増えていく。結果として、臨床に割く医師たちの時間が短くなり、患者が不利益を被る。だからこそ、無駄な学会の数は是が非でも減らしていかなければならない。それこそが患者の利益、ひいては、医療の抜本改革に通ずる道と言える。

 

筆者の記事一覧はこちら

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る