日本の西洋医学界の発展に貢献してきた順天堂。医学部を看板とする順天堂大学だが、戦後は体育学部(現スポーツ健康科学部)を創設するなど医学とスポーツ科学、または医療や看護、そして国際教養をも探求する健康総合大学院大学として進化しようとしている。聞き手=本誌編集委員・清水克久 写真=佐藤元樹

 

日本最古の西洋医学塾として医療の発展に貢献

小川秀興 (おがわ・ひでおき) 1966年順天堂大学医学部卒業。72年同大学院医学研究科修了。同大医学部教授を経て96年医学部長、2000年学長。04年から学校法人順天堂理事長。

小川秀興
(おがわ・ひでおき)
1966年順天堂大学医学部卒業。72年同大学院医学研究科修了。同大医学部教授を経て96年医学部長、2000年学長。04年から学校法人順天堂理事長。

-- 順天堂大学は私立医科大学のトップ校として有名ですね。

小川 江戸時代後期の天保9(1838)年、即ち明治維新の30年前に、オランダ医学塾として誕生し、最先端の西洋医学を取り入れて、普及させてきました。学祖・佐藤泰然の後を継いだ佐藤尚中は、佐藤進らと共に順天堂醫事研究会を設立、積極的に医師の育成に努めました。佐藤進は明治2年に明治政府が発行する旅券の第1号を取得してドイツに留学、日本人初のベルリン大学医学部の正規卒業生です。その後も日清、日露の両戦争では軍医総監の任に着くなど、日本の西洋医学の最前線に立ち続けてきました。その基本にあるのは、患者を診て、治すことを第一義とする、臨床重視の精神です。研究も欠かせませんが、それに加えて〝仁〟の心を持って人を診ること、臨床医学が最も大事だと考えてきたのです。

-- 大学運営では大きな改革を行っていますね。

小川 学長に就任した2000年以降、改革に取り組んできました。当時、本学は赤字体質に陥っていました。診療と教育、研究には熱心だったのですが、経営にはあまり目を配っていなかった。それではいけないと経営改革に着手したのです。大事にしたのは、安易に倹約、節約はしないということです。医療に節約は似合いません。常に最高の機材、薬剤を使うべきなのです。最高のモノを使いこなさなければ最高の医療は提供できません。有効なものであれば、たとえ高価でも使う。そのかわり無駄は徹底的に排除する。それだけで借金の増加は止まりました。

 また、必ず、診療も教育も研究も、最高のものにします。最高の医療とは「あそこにいけば治る」と言われる医療を提供すること。一例ですが、難治性の希少疾患など、特殊な疾患の治療も力を入れています。希少疾患は需要が少ないので薬剤も多くありませんし、それだけ薬品代も高価で、さらに専門知識を持った医者が少ないのです。最高の教育とは、「聞いて面白かった、よく分かった、やれると思う」という教育をすること。研究では、世界基準で評価される論文を数多く出していく。こういったことを客観的に評価する仕組み作りに力を入れました。そのために全職域横断的な学長室委員会を設立し、常に20のプロジェクトを掲げて推進してきたのです。

グローバル人材の育成に向け国際教養学部を創設へ

“仁”の心を持って人を診る臨床医学を重視した教育を行っている

“仁”の心を持って人を診る臨床医学を重視した教育を行っている

-- さまざまな補助金申請にも積極的だと伺っています。

小川 私自身が研究者として、多くの国や都の助成金事業などを申請し、活用してきました。最近では建物と一体になった助成金事業や老人向けの医療センター事業などが認められています。こういったものが始まると、学内のモチベーションも上がり、国内外から研究者が集まるようになります。

-- 「健康総合大学院大学」という目標を掲げていますね。

小川 現在のスポーツ健康科学部、医療看護学部、保健看護学部を加えて、健康にかかわることは本学ですべてやっていこうと考えています。病んだときの医療、病まないためのスポーツであり、病んでいる人のためのスポーツメニューも重要です。そもそも医療とスポーツは一体だと考えているのです。この2つを合わせた「スポートロジー」という言葉も作りました。この考え方を、本学から世界に発信していきたいと思います。

本郷・お茶の水キャンパス (東京・文京区)

本郷・お茶の水キャンパス
(東京・文京区)

-- 最近、学費を値下げされたそうですが、目的は。

小川 改革を通じて経営状況は改善しました。リストラや教職員の給与削減は一切、行っていません。そこで若者がもっと学びたくなる教育環境にしようと考えたのです。これが実現できたのも、無駄を省き、改革に取り組んだ成果の現われです。

 来年から「国際教養学部」を新設しますが、これは医学部などの入試科目にも、国語、社会を必須としてきた考えが底辺にあります。実は医師ほど一般教養が求められる職業はないのです。この流れの中で文系の学部を新設するのですが、単なる文系学部ではなく、日本を大事に思うからこそ世界を知り、より深く日本を知る。そして理科系に特化しない医学系の大学として発展していきたいと考えたのです。もともと西洋医学を重視して、海外に学ぶという気風の下で発展してきた大学です。いつの時代でも「これでいい」と思わず、〝不断前進〟の精神で、改革を進め今後はさらに海外への情報発信力を高める方針です。

 

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