2003年、東京商船大学と東京水産大学が統合して誕生した国立大学法人の東京海洋大学は日本唯一の海に関する総合大学だ。母体となった両校ともに140年以上の歴史を持ち、高い専門性が誇りだ。海洋への社会的ニーズが高まる中で、今後の運営方針を聞いた。聞き手=本誌編集委員・清水克久 写真=佐藤元樹

20年後には「海」の時代が確実にやって来る

-- まず御校の特長をお聞かせください。

岡本信明(おかもと・のぶあき) 1974年東京水産大学卒業。76年同大学院水産学研究科修士課程修了。86年水産学博士(北海道大学)96年教授。2003年東京海洋大学教授・副学長。12年学長に就任。

岡本信明(おかもと・のぶあき)
1974年東京水産大学卒業。76年同大学院水産学研究科修士課程修了。86年水産学博士(北海道大学)96年教授。2003年東京海洋大学教授・副学長。12年学長に就任。

岡本 現在、海洋の重要性は日々高まっており、20年後には世界は「海」を中心に回るともいわれています。分かりやすい例では海洋資源の開発がありますが、社会的ニーズが今後ますます高まってくる海洋に関して総合的な開発、研究を継続して行っていくのが本学の役割です。同時に海洋分野に関して、社会に必要な人材を育成して送り出していくことも重要です。

 本学の前身である東京商船大学のイメージは船乗りの育成、東京水産大学は漁師育成というイメージもありますが、実際はそうではなく、卒業生は非常に幅広い分野で働いています。現場に技術者として作業着を着ている人もいれば、ネクタイ、スーツ姿の事務系も多い。例えば海洋資源の開発事業は、開発や掘削などを行う専門性の高い技術者が必要なのは当然ですが、それをビジネスとして成立させるためには物流を考える人材や、総合的な見地からものを考えられる海に関するゼネラリストが必要です。そのような人材を育成できるのは本学だけです。

 日本は周囲を海に囲まれた島国です。また地球表面の70%は海なのです。ゆえに、あらゆる面から海の研究を行い、社会の発展に寄与する高度な専門教育、研究機関であることは言うまでもありません。

燃料機関実験室

燃料機関実験室

-- 卒業生はどのような分野で活躍しているのですか。

岡本 海運会社、水産会社などはもちろんですが、金融関連、商社、物流への就職も珍しくありません。水産系の卒業生はバイオ関連、食品企業でも活躍しています。学生数は全学年合わせて2千人程度なので卒業生の数自体も少ないので、目立ちにくいのですが、皆、非常に幅広い分野で活躍しています。

 漁師になりたい人もいますが、漁業権があるので、そう簡単にはなれません。しかし、漁師の生活を支えていくための仕事はたくさんあります。漁労の装備、設備、施設の関連はもちろん、水揚げされた魚介類を末端の消費者に届けるための物流や食品加工業も重要です。

 また船乗りとして働く場合、そこは社会から隔絶されたいわば1つの自治体のようなものです。そこでは、運航技術だけでなく、自治体の執行責任者のごとく全般を見渡して指揮を執れる人材が必要なので、その素養を備えた本学の卒業生は需要が高いのです。

メディアへの露出も増え、志願者も増加へ

「海鷹丸」での乗船漁業実習

「海鷹丸」での乗船漁業実習

-- 志願者などの推移はどうですか。

岡本 最近はメディアへの露出が増えたせいもあってか、志願者数、偏差値ともに上昇しています。タレントとしても活躍している本学の客員准教授「さかなクン」の活躍も知名度向上に一役買っています。最近の話題としては、深海探査機の「江戸っ子1号」のニュースがありました。また、エビの養殖に関してタイでバクテリア由来の病気が発生し、生産量が半減するような事態があったのですが、本学の研究グループが毒性を持つバクテリアを遺伝子レベルで特定することに成功した、というニュースも話題を呼びました。こういったことで、本学に興味を持った学生も増えたと思います。

 さらに、本学には夢があります。これから世界的に海が重視される時代に、その海の専門家になれるのです。現在の就職状況も良好ですが、20年後に確実に社会的ニーズが高まる分野の学問を勉強でき、自分のものにできるという魅力にあふれているのです。

-- グローバル教育で重視している点は。

岡本 グローバル化というのは、単に語学力のことにとどまりません。語学力は最低限のことで、本当に求められるのは「何とかする力」「問題を解決する能力」です。この問題を解決する能力というのは一朝一夕では身に付きません。いろんな知識や経験が重なりあって、「こうしていくと、こういう問題が起きる可能性がある」と気付き、それから「問題が発生したときの準備」ができるようになる。だから、基礎的なことをきちんと学ぶことが非常に重要なのです。

 本学は日本を代表する海洋系総合大学として、誇りを持って活動しています。20年後に本学の卒業生が海洋に関する分野で社会の中核を担っていることは間違いありません。そのために人材育成の先行投資をしているのです。

 

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